作品タイトル不明
167 最高の眠りを求めて1
なんだか最近少し寝つきが悪い。
昨夜はぼーっとしているといつの間にか日が昇ってきて、眠れたのは少しの時間。
ちょっと昔を思い出す。
「ふああ」
欠伸をして、歯を磨き無限に出てくるお湯で顔をざぶざぶと洗って、ルカが選んだふわふわ高級タオルで顔を拭くと、雑念が消えてさっぱり。
ててて、と足取り軽く食堂へ行くと、今日は僕が最後だったようで、笑顔のルカ達が待っていた。
「おはよー、みんな」
「エクス遅い」
「相棒、今日は俺っちの勝ちでい」
「旦那さま。もうすぐパンが焼けますので」
「お肉はニトラが選んだ!」
勝ち誇った顔のルカをちらりと見ると、髪の毛が跳ねてるから、ついさっき起きたのだろうと思ったけどそこはスルー。
「ごめん、ごめん。ありがとう」
「いいわ」
「へへっ、いいって事よ」
「焼けました! それにしても旦那さまの不滅トースターで焼き直したパンは最高です」
「お肉をはさむー」
セーラさんのアドバイスで石窯の中にファイヤーボールを入れただけの窯の蓋をライ姉が開くと、香ばしい匂いが漂ってきた。
そこへ、ニトラが市場で買ってきた調理肉を挟めばハンバーガーの完成!
「「いっただきまーす!」」
優雅に食べるルカ、一緒に食べようという提案を頑なに断り続け給仕係がさまになってきたライ姉、手掴みで食べるニトラ。
今日は、僕もワイルドにいこうと両手で掴んでがぶり。
「美味しい!」
焼けたパンが香ばしく溶けたチーズと肉の旨味がジューシーに垂れてくる。
単純だけど、僕も子爵さまも考えつかなかった不滅トースターは最高傑作品。
まぁ·····興奮して褒めたら、セーラさんには冷めたい目で見られたんだけど。
「ん?」
兎ちゃんがてしてしと叩いてきたので、指を2本いや3本立てると、大きなスプーンで砂糖を3杯入れてくれた。
ルカがうげって顔で見てくるけど、ハンバーガーには濃い目が合うんです。
「ありがとう、美味しいよ」
うさぎちゃんが耳をピーンと立ててひしっと抱きつくと、ルカから黒いオーラが立ちのぼる。
やれやれ。
くま吉が神妙な顔してテーブルの上を歩いて近づいてきた。えっと、なんの用だろう。
「相棒、眠れねえのかい。へっ、水くせえよ。悩みがあるなら相談に乗るぜい」
「んぅぅ」
思わずパンが喉に詰まりそうになったじゃないか。ちょっと甘すぎな紅茶で流し込む。ふぅ。
ドヤ顔なくま吉の後ろで、心配そうなルカが目に入った。
「エクス、もしかして迷ってる?」
「なにが?」
質問の意味が分からなくて困ってると、ルカが取り出したのは高価な招待状。
えーと、あれは王家から届いた。
「エクスが行きたいんだったら行っても良いよ。ホワイト学園の案内式」
「うえっ、行かないよ」
師匠は一人で充分だし。
ちょっと安堵したルカの代わりにふんすっと手を挙げたライ姉が割り込んできた。
「旦那様、ズバリ。お悩みは魔王フールですよね」
「違うけど」
2人がむうって顔で見てきた。
くま吉は訳知り顔で言い出すのを待ってて、ニトラまで耳をピクピク。
「笑わない?」
ルカとライ姐がこくこくと頷いてくれた。
「実は、ここ最近。最高の睡眠が取れてないような気がするんだ」
ルカの目が呆れたようになったけど、それでも真剣にむむむと唸って考えてくれる。
「そうだ! シーツの質を上げてみるとか」
「相棒、主にスリープを掛けて貰えば解決だぜ」
「えっと、お腹いっぱい食べたら?」
「うーん。考えてくれてありがとう。でも、シーツは高級品。それにスリープは気持ちよくないし、少食なので。ニトラは何かない?」
ちらりといつも気持ち良さそうに寝てるニトラを見ると首を傾げた。
「たくさん運動すると眠くなるよ」
「たしかに」
満面の笑みで尻尾をふりふり。
「おにーさん。ニトラが隠れんぼしてあげる」
「え?」
それはちょっと。
「よーいドン」
「ニトラー」
あああ、早い。
「エクス」
「なに?」
「そういう事なら、私達も協力してあげる」
「へっ相棒。俺っちを見つけられるかな?」
「私も隠れんぼには自信があります!」
あー、久しぶりならいいかな。
今日の予定が決まっちゃった。
「えーと、洗い物が終わったらスタートで」
楽しそうなルカ達を見送り、食器を流し台へ。
「ふふっ早く見つけてね」
「相棒、タイムリミットは昼飯だぜ」
「隠れんぼは得意です」
自動で洗ってくれるので、出来上がりを待てば鬼ごっこスタート。
「さてと、頑張ろう」
まずは近くから。
「ルカー、くま吉ー、ニトラー、ライ姉ー、どこー?」
まぁすぐには見つからないか。
そうだ! セーラさんから情報を得ようと部屋を覗いたら、机に伏せってすぴすぴと寝息をたてていた。
「ベッドで寝ないと駄目ですよ」
やれやれ、仕方のない人だ。肩に担いで、
「重っ!」
あれ?ぜんぜん持ち上がらない。
そんな·····嘘でしょ。
ふんぬーっ。
はあはあ、忘れてたけど僕は非力だった。
「マーラさーん」
「エクス?」
隣の部屋に走って、ノックすると死にそうな顔のマーラが出迎えてくれた。
「力を貸してください。僕にパワーをパワーを」
「パワー?はい」
どくん。
心臓に血が送り込まれる。
ほわぁぁぁ、やっぱり凄いっ。無詠唱の超初級魔法は、中級魔法のハイパワーに近い効果がある。
「ありがとうございます」
「エクス?何を」
ふふふ。パワーアップしたエクス君は、開発室に戻り、セーラさんを担いでベッドに叩き込む。
おらぁっ!
「助かりました」
ちょっとした達成感に満たされながら、付いてきたマーラを見上げると相変わらず死んだ顔だ。
拾ってから何日も回復しない。
「·····エクスは強いな」
「そうですか」
よく分からないけど嬉しい。
「フールに怯えていないし、どうやればそんなに強くなれるんだ?」
マーラさんも強いと思いますけど、と言おうとして止めた。
絶望の表情が口を重くした。
それに冗談でも師匠を名乗った以上、魔導師として真摯に答える必要がある。
そんな気がした。
「自分の命題と向き合ってください」
泣きそうな顔で掴みかかってきた。
「私は使いこなしていたはずだ! エクスと最高の組合せで挑んだッ! エクスは知らないかもしれないが、慣れない声援を集めて心エネルギーを集めた!大勢で囲み、圧倒的な火力で追い込み、それでもなお」
5指を広げ、言葉を遮る。
「 定石(じょうせき) なんか聞いていませんよ」
「しかし」
「いいですか?僕の命題はしょぼい」
「確かに」
「延長なんて、びっくりするぐらいチープだ。だけど強い。だからこそ強い」
「使い方次第という事か?」
30点。
それはただの結果であって、本質はそこじゃない。
「信じてください。自分の可能性を、自分自身の力を」
「自分を信じる?」
師匠エリーゼ。
孤児の僕を信じてくれた恩人。
エリーゼに出会い僕は羽化し、ルカが信じてくれて僕は羽ばたけた。
「大丈夫。マーラなら出来るよ」
「信じてくれるのか?」
じっと見据えた。
「当然です」
「ありがとう。·····少し自分を見つめ直してみる」
半信半疑前に進み出した。そんな感じ。後は背中を押すだけだ。
「頑張ってください」
少し大人ぶってマーラとカッコよく別れた。
ふふふ。
今のは大人っぽかった。