作品タイトル不明
160 王族の反応
「へくしゅん!」
ところ変わって王家では、爺やがくしゃみをした。原因は、やはりエクス。
エクスは勘違いしているが、転送門は大勢を運べるような代物ではないのだ。
「失礼しました。しかし弱りましたな」
「ええ、まさかマーラさんが卑劣なやり方で討たれてしまうなんて」
「ふっふふー」
爺やとシロンは、王不在のタイミングでマーラの訃報を受けて緊急対策を議論していた。
「このままでは、近いうちに街が魔王に飲まれてしまいますぞ」
「しかし、出せる兵はいません」
深刻な2人とは対照的にルーラだけはご機嫌だ。
「爺やにお姉様、何か大事な事を忘れてはいませんか?フォレストエンドには、大魔導師さまがおられます」
夢見がちな幼きルーラ姫の発言に、爺やの顔が曇る。
働かない大魔導師。働いてくれ·····。
労働は尊い。そんな矛盾するような願いを抱きかけて首を振る。
「シロン様。転送門を使い大魔導師さまに近しい者だけでも避難させましょうか」
「そうですね。偶然お茶会に招くという形が良いでしょう」
「無視しないでくださいまし」
ホワイトニング王国といえど、命には重さの違いがある。
危険人物のエクスをこのまま葬る選択を取らないだけ良いのかもしれない。むろんエクスを想っての事では無く、ルーラの泣き顔を見たくないという思惑からの判断だが。
「さすがですシロン様」
「後は、お兄様が早く帰って来られる事を祈りましょう」
「お姉様?」
ホワイトニング王国は、清廉潔白で内政は良いが武力値が低く、兄ホワイティン王子の率いる軍隊は北方の護りへと出払っていた。
そんな時。ガチャガチャと金属鎧が擦れる音がして、血相を変えた近衛兵がまた転がり込んできた。
「報告です!フォントエンドでマーラが復活しました。マーラ復活」
「何ですと??」
「え???」
「大魔導師さま!」
意味不明な報せにじいやの心臓はバクバク。シロンは目をキョロキョロ。エクスに過剰な期待を寄せるルーラは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。
まだスタンピードが起きた方が理解出来るし、続く言葉に殴られた。
「エクス大魔導師が、復活の炎を使ったようです」
「待ちなさい。初級魔法にそのような物はございませんぞ」
「何がどうなってるのでしょう」
「きっと延長の命題ですわ」
得体の知れない何かが起きている。
ざわざわした気持ちでお互いを見渡す中、ルーラだけが御満悦。
「議題はひとまず延期ですかな」
「ええ。生き返ったなら士気は落ちないでしょうから別の対策が」
「ふっふふー」
脅威はとりあえず延長された。
シロンがはっとした顔で近衛兵に訊ねる。
「待ってください。他に何か情報は?」
「そういえば」
些細な情報こそ生きる時がある。
「仔細漏らさずに、お願いします」
「はいっ。関係無いかもしれませんが、赤の森の麓に、エクスという少年を探すハイエルフの絶世の美女2人組が現れました」
それは本当に関係無いかも。
「ありがとう。引き続き情報を集めてください」
「はいっ失礼します」
「失礼します!」
近衛兵と一緒に敬礼して自然と退出しようとするルーラに、シロンは冷たい目を向けた。
「待ちなさいルーラ」
「わわっ」
「姫様あっ。シロン様!ありがとうございます。ありがとうございます」
つい騙されそうになった爺やがルーラに駆け寄る。
「お茶会、再びお茶会をしますぞ!姫様はもっと王族としての自覚を持ってくだされ。みっちり王族としての教育をしますぞ」
「あああ助けてください大魔導師さま~」
大魔導師達を城に呼ばなければ、ルーラ姫がスタンピードの起きる街にお散歩へ出るかも?
「リストを」
シロンは困ったような慈愛の瞳で、爺やに連行される妹を見つめた。
可愛くて堪らない妹。
困った妹。
渡されたリストには、エクス、ルカ、ニトラ、ライ姉、セーラ、リィナ母娘、スラムの悪ガキ達が名を連ねる。
「少し考えさせてください」
転送門を全員が通るには多いと、切り捨てる選択を迫られたシロンの美しい横顔が陰る。
「エクスさま願わくば奇跡を·····」
自ら上級魔法という特権を捨てる選択をした異質な少年の事を思い出す。
自分の汚い心を見透かすように、たった金貨1枚だけを掴んだ清廉な少年のぽやっとした思想に、純粋培養されたシロンは汚されていた。
「あの時の借りを返す時がきましたね」
初恋を知らぬ乙女は、それが恋だとは気づかない。