軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

134 宴

定食屋の奥から店員さんが生気のない目でふらふらと現れた。

「エクスー。友達連れてきたのに準備中でごめんな」

「いえ」

うえ?なんだ。なんか渡された。

これは。

「お姉ちゃんが今用意出来るのはこれだけだ。はいゲロマズ」

「いりません。なぜなら食材を大量に採ってきたからです」

ドヤ顔で告げたら、残念な目で見られてしまった。

しかも、まるで嘘つき少年を見るかのような目で、ニマニマ笑ってくる。

「ははーん。さては強ぶりたいお年頃なんだな?可愛いなエクスは」

ほっほーう、どうやらこれは分からせてやる必要があるな。

くま吉を見るとボタンの目玉が光ったような気がした。

「違います。くま吉っ見せてやれ」

「がってんでい!」

刮目せよっ!

くま吉が入口の扉をバンっと開くと、店の前には山のように積まれた採れたて食材が雪崩込み店員さんを襲う。

「ほ、本当だ!」

「これで分かりましたか?」

ふふっ。ヨダレなんか垂らしちゃって効果はバツグンのようだ。

感極まった獣人店員が野生に戻り、がばっと両手を広げて抱きついてきた。

「エクス!お姉ちゃんのためにっ。命を賭けてくれたんだな。大好きだぞ」

「むぎゅっ」

く、苦しい。

柔らかな胸にサンドされてるはずなのに、それを台無しにする膂力。

タップすると、ぺいっと解放された。

「・・・」

「げほっごほっごほっ」

涙目でギリッと睨むと、食材にすりすりしながら嬉しそうにしてる表情が目に入り、どうでも良くなる。

「エクスー凄いな。ありがとう」

「どういたしまして」

嬉しそうに食材を抱えて厨房へと消える揺れる尻尾を見送った。

「てんちょー!」

「なんだあ?おおっ!ようやく入荷したのか。俺様の料理は地元食材がいるんだよ。ギルドのやろー待たせやがって」

「違いますよっ。エクスがあのエクスが勇気を出して森で取ってきてくれたんです。エクスは凄いオスなんです」

「なんだと!?」

ふふっ。

人を幸せにするって気持ち良い。

病みつきになりそうだよねって、くいくいっとルカに裾を引かれた。

温度差のある不機嫌そうなルカからは冷たい声。

「ずいぶん仲良いね?」

「ええ~。ただの店員さんだよ」

もしかして、ぼっちのルカは構って貰えなくなるのを不安に思ったのか?くま吉を見るとやれやれと両手を広げた。

「嫉妬とか可愛いじゃねえか」

「ち、違うの。取り消しなさいクレイジーベア」

ふーん。

おや?店長がずんずんと出てきた。

ふふっお礼なんて良いんですよ。なんて思ったけどどうにも様子が変だ。あれ?なんか怒ってませんか。

「エクスなんで森に行った?知らないのか?今の森は魔人がいるんだぞ」

「え?いません···でしたけど?」

「危ないんだ!今回はたまたま運が良かったが、アイツが来てから森ではもう何人も常連が死んでるんだ!」

「ううっ」

本気で心配されてる。

大丈夫なのに。

どう説得しようか考えてると、くま吉がぴょーんとしゃしゃり出てきた。おおっ、たくましい背中はふわふわした安心感がある。

「おうおう。知らねえようだから教えてやらあ!相棒はこう見えて最強なんだぜ。それに俺っちもいるから大丈夫でい。だからよ、ここはひとつ俺っちを信じ、へぷっ」

べしんっと店長に迎撃されて地面に。

安心感は地に落ちた。

「良いか?勇気と蛮勇は違う。俺はよおお、お前に死んで欲しくねえんだ。それにこんな小さい子まで危険に晒すのはダメだろおお」

「は、はい」

そこを突かれるとちょっと弱い。

死なせない自信はあるけど、痛い思いをさせてた可能性はあったわけで。

「旦那様はっ、むー」

怒って反論してさらに燃料を投下しようとしたライ姉の口を塞ぐ。

微妙な空気を変えるように店員さんが、怒った店長の腕を厨房の方へと引っ張りだす。

「はい!終わり。てんちょー。エクスは頑張ったんです!だから今度はてんちょーが心意気見せてくださいね」

「悪い。心配で言い過ぎた。さすがは元冒険者、格好良かったぜ!でも、命を大事に!だからなっエクス。今度は俺が漢気を見せる番だぜえええ。分かったから引くな」

認められて嬉しい。

店員さんが、くるりと回って大きな店長の背中をぐいぐい押し込むように厨房へ消えていく。

「あのっ!量は普通でいいので!」

「てんちょー早く早く早く!」

「今度は押すな。バイトーー」

聞いちゃいない。

去り際にくるりと振り向いた。

「エクスー。お姉ちゃん権限で今日は貸切だからなー」

「ありがとうございます」

ルカへの配慮が嬉しい。

「ルカ座ろうか?」

店員さん達が店に鍵を掛けて仕込みに戻ると再起動したルカはこくんと頷き、地面とキスしてるくま吉に手を差し伸べた。

あっ、やべ。忘れてた。

「大丈夫?クレイジーベア」

「すまねえ、 主(あるじ) 。カタギのヤツには手を出せねえから見苦しいところを」

「いいえ!偉いわクレイジーベア。クリーン」

「主。いつもありがとう」

「いいの」

ふわふわしたやりとりが終わるとルカは1番奥に座り、僕を隣りに引き寄せてきた。

「エクスは隣」

「はいはい」

「相棒、宴だな!」

「旦那さま楽しみですね」

「そうだね」

厨房からは、ばしゃばしゃと野菜を洗う音。ザクザクと野菜を切る音。ジューっという肉の焼ける音。

指揮棒のように、ニトラがフォークをぶんぶん振っていて、さながらオーケストラのよう。

「おにく、おにく、おにくー♪」

音楽はやがて香ばしい匂いへと変わり、お腹が鳴ればフィナーレは近い。

今日は頑張ったなあ。

待つこと少し。

おおっ、来た来た!

「はいよっ復活定食お待ち」

ドンッ!と置かれた料理が煌めく。

「ありがとうございます」

「おにくだー」

店員さんに分け前を渡して、皆の腹と心が満たされていく。

どれもこれも美味しそうだ!

食べ進めてると、ライ姉の顔がはにゃりと幸せそうに蕩けた。

「どうしたの?」

「はわっ」

慌てて、何かを探し出す。

どうやら、さっき食べたのと同じのを探しているらしい。

「ありました。旦那様!これ凄く美味しかったです。食べてみてください」

「う、うん」

ライ姉がキラキラした顔でフォークに刺したキノコを顔に突きつけてくるのであーんと口を開いたら、ルカに引っ張られた。

「ううん!?何するの?」

どうやら、ルカも無意識に引っ張ったらしくわたわたしてる。

じとっと見ていると適当な料理にフォークをぶっ刺した。

「だめ。エクス、こっちの方が美味しいから」

ええー、その根拠はいったい。

「旦那様、食べてください」

「だめ。エクスはこっち」

ライ姉も真似して引っ張ってくるから僕の服は延びそう。

「分かった、分かったから」

2人から渡されるのを交互に食べてると少食の僕はすぐにお腹いっぱいに。

「もう無理」

「「ええ~!」」

いっぱい食べると眠くなるのは何故だろう。そんな目で見られても、もう食べられないからね。

はあああ、満足です!