軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

109 引越し完了

クイーンはふわふわしてて気持ちいいな。ちょっと凶悪な一面もあるらしいけど、本質は喋る兎の縫いぐるみにすぎないから僕の手にかかれば。

「エクスさぁん、もうやめて」

「ふふっ、本当にやめていいの?」

返事が無いので続行!モフり続けると、ついにはびくんびくんと身悶えして手の中で気持ち良さそうにぐったりした。

「うさーー」

ふぅ。

天国へ1名様ご案内〜。

「ひいっ!」

「あの…悪魔兎を屈服させるなんて」

うっ、そういえば引越し中だったな。

それにこの人達は、クイーンに脅されて手伝いに来たんだっけ?大男とお嬢さんがまるで怖い物でも見たかのように震えてるんだけど。

「お嬢、あいつヤバい」

「エクス先生は、もしかして…裏ボス?」

事情を知らない姐さんとその他大勢の手下達は、手を止めてそんな僕らのやり取りを見守っている。

はぁ、クイーンが迷惑かけてごめんなさい。

でも、本来は優しい子なんだよ。

幸せそうに放心しているうさぎちゃんの手をふりふりと動かしてにっこり笑ってみた。

「あのー。そんなに怯えなくても。ほら、可愛い縫いぐるみですよ?」

あっ駄目だ。

むしろ逆効果だったかも。

「ひぃぃ正気かよ」

「うぅっ 翫(もてあそ) ばれます」

よし、2人の説得は諦めよう。

切り替えて姐さんに話をふる。

「それよりも、作業を再開しませんか?」

「それもそうだね。ほらほら、あんた達もぼやっと見てないで、さっさと丁寧に運ぶんだよっ」

「「はい」」

スラム街の住民達の手で、ぞろぞろと荷物が別棟へと運ばれていく。

「ピアノはどこに置こうかい?」

「えっとルカ、どこがいい?」

あれ?肝心のルカがいないんだけど。やけにくま吉が静かだと思ったら、自分の引越しなのに知らない間にいなくなっていた。

「そういえば、あの人形姫は見ないねえ」

「はぁ。あの辺に置いてください」

まぁ、適当でいいか。

ルカは魔導師なので後で魔法を使ってなんとかするでしょう。

「残りはどこに?」

「そこに、まとめておいてくれれば十分です。はい、これが今回の報酬です。お疲れさまでした。」

少し悩んで、お駄賃に大銀貨2枚を渡してみた。

お財布に大ダメージだよ。

「こんなに貰っていいの!?貰えないかもしれねぇとかあの人、言ってたから」

「ええ、どうぞ」

相場は分からなかったけど、合ってるっぽい。

もし、ルカが後で立て替えたお金を返してくれないと僕の手持ちはかなりヤバかったりする。信じてるよルカ。

「皆っ!エクス先生にお礼を言いな」

スラム街の人達が無言でお辞儀してきた。ピンハネされるんだろうか、あまり反応は良くない。

「あっ、はい。こちらこそ。皆様、今日は引越しを手伝ってくれてありがとうございましたっ!」

何気なく返したお礼に、スラム街から来たお手伝いさん達がびっくりした表情で僕を凝視してきた。

何だ? それまで僕に無関心だったのに、向けられた視線が明らかに変わってしまい困惑する。

瞳には、誇りと忠誠心のようなものが浮かんでた。動物に喩えるならまるで子犬のような。

「え?…何かやっちゃいましたか」

何かさっきの発言で変わったのは分かる。

でも何をやらかしたのかが、まるで分からない。戸惑って姐さんを見上げると、ふっと優しい目をした。

「先生、分かってないみたいだから教えてあげるよ。ここにいるアタイらはさ全員。普通の道筋から外れちまってんのさ」

「はぁ?それが何か?」

いまいち要領を得ない。

姐さんは、胸に溜め込んでいた悲しさと怒りを吐き出した。

「アタイらは、ゴミみたいなもんだよ。だから、スラム街の底辺を這いずってるアタイらを普通に扱ってくれた事が嬉しかったんだ。ありがとうね」

「いえ、当然の事をしたまでです」

迷いなく答えると、爽やかに笑ってくれた。

あぁ、そうか。認められるのって嬉しいよね。すごく分かる!

でも救世主でも見るかのような皆の視線はくすぐったいからやめて欲しい。

「それよりも、お腹を満たしてください」

照れ隠しにリュックサックを開けるように促すと、僕に集まっていた関心は中に入っていた食料品に奪われた。

幻想より、期限切れしてない食料が真の救世主だ。

「ほら、アンタ達。エクス先生から特別ボーナスを貰ったから、一列に並びなっ」

「久しぶりに良いもんが食える」

「俺が先だ!」

「ありがてえありがてえよ」

ギラギラした目で群がり、食料を嬉しそうに受け取った人達が涙を溢して喜んだ。

こっちは食べ切れないからあげただけど、予想外の好感触。

人が半分ほど減った頃だろうか、順番が回ってきたスラム街のおじいちゃんの一言でそれまでの流れが変わった。

「姐さんは、今日もお綺麗ですのう。まるで女神様のようですじゃ」

ボケたのか?という周りの視線は、姉御の次の一言で尊敬へと変わる。

「分かってんね!ヒゲじい。当たり前の事がキチンと言えるのは偉いねぇ、死なれたら困るから1つおまけだよ」

「流石、姐さんは良い女じゃ」

後ろに並んでる人がざわりとした。

「あー同じ事を言っても駄目だかんね。ご褒美が欲しけりゃアタイをもっと楽しませてね」

思わぬチャンスと難問に、順番待ちをしてる人達は頭を捻りだした。

一番悩んでそうなのは、列の最後尾に並ぶ3人の少年達みたい。

少し気になったので近づく。

「おいっ!いいか、俺らも褒めちぎるんだぞ」

「ああ、分かった」

「でも難しいよ」

コソコソ作戦会議をしていているのが耳に入ってふふっとなる。

「バカ、内面を褒めんだよ」

「頭良いな。でも姐さん内面も」

「うぁぁやっぱり難しい」

彼らが着ている服は全員ボロボロで、まるで小さい時の自分みたい。

これも何かの縁かな。

「あのっ…いいかな?」

「うげっ!?石投げたのは悪かったよ。でも当てなかったんだからいいだろ」

「今日は真面目に仕事しただろ」

「頼む。俺らにも食料くれよ」

必死に訴えてくる彼らは、ライ姉達のアジトを奪った少年グループのようだ。

衣食住足りて人は礼節を知るっていうし、全員は無理でも子供だけなら救えるかも。

「違うんだ。良かったら、僕の家に来ない?」

僕も拾って貰った身だから。

次は僕が拾う番だろう。

幸せのバトンタッチ。師匠に言って貰えたセリフをまた言えてちょっと嬉しい。

ところが、感謝されると思ったのに反応が違った。

すごく警戒されてないか。

「「は? 何が目的だ!」」

「いや、僕も孤児だったから。ただの善意だよ」

微妙な顔をして少年達は顔を見合わせた。そして、馬鹿を見るような目で見てきたぞ。なんか…失礼な奴らだな。

「はあ?そんなんだから、お前は俺らにアジトを奪われたんだよ!」

「そうだ、それに憐れみなんていらない」

「俺らには立派なアジトがある」

「でもあそこは屋根ないし、部屋は余ってるから遠慮はいらないよ」

んん?

あ、伝わらないみたい。

「お前、頭は大丈夫か?とんでもねえお人好しだな」

「とにかく部外者の助けはいらねえ!雨なんか負けねえ」

「それよりも順番が来たよ。褒めないと」

おっと、提案は却下された。

悲しい。

僕の事は無視して、ゴマすり作戦がスタートしたみたいでリーダーっぽい太っちょが愛想笑いして仕掛けた。

「あ、姐さん!今日もお綺麗ですね」

「どう綺麗なの?そうだね。例えるなら何?」

えっ!?姐さんが褒められすぎたせいで、ちょっと求めるハードルが高くなってる。

僕らはびっくり。一番びっくりしたのは太っちょ。

「オ、オーククイーンのようにお強いです!しっ、しまった」

「そりゃ悪口だよ、このバカ。てめぇの分は無し!次っ」

「痛っ」

不意を打たれて普段の陰口が漏れたらしく、賞品の代わりに拳骨を頂き涙目に。次の刺客はのっぽ。頑張って!

「そうだ!あ、姐さんは、お嬢の次にお綺麗です」

「あれは男だ!このマヌケ。男と比べんじゃないよ。てめぇも没収。はい最後っ」

「そんなっ」

ヤバイよ。もう残ったのは鈍臭そうな少年だけ。彼らの食料は、この子に託された。

「あわわ、分かりません」

「何だい何もないのかい!」

「ごめんなさい」

「こんなに良い女なのに。なら、ボーナスは無し、一個だけ選びな」

「…はい」

食料6個獲得の夢を見たばかりに、3個貰えるはずがたったの1個。悲しい顔で、1番大きそうなのを選びはじめた。

哀愁漂う3人を見ていられなくて堪らず声をかけた。

「姐さん。意地悪しないで、良い女なら彼らにも2つずつあげてください」

偽善でもいい。

エリーゼに拾って貰うまで、毎日お腹が空いてたんだ。そんな思いさせたくない。

「ん?エクス先生がそう言うなら。アタイは良い女だしね。ほら、一人2個ずつね」

少年達の目が希望に輝いた。

「マジか?」

「いやっほーう」

「ありがとう!エクスの兄貴」

悪くないかも。

帰り際、両手に食料を持った少年からは警戒心が消えていた。

「お前の事、誤解してたよ」

「今日から仲間だ。いや俺らの兄貴だ」

「よろしく兄貴!」

なぜか友達を獲得。いや、子分かな?

「うん。こちらこそよろしく!」

姐さん達もぺちゃんこになったリュックサックを持って引き揚げるみたいだ。

「さてと、アタイらも引き揚げるわ。またね、エクス先生」

「ありがとうございました裏ボス」

大男はまだびびってるみたいだ。勘違いなのに。

「お嬢さん危険です。早くここから離れましょう。痛ッなんで蹴るんですか姐さん!」

「煩いよ、さっさと行くよ」

彼らが帰ると、一気に静かになった。

賑やかな人達だったなぁ。

「御主人さま嵐みたいでしたね」

「うん」

玄関先で手を振ってお見送りして、中に入るとルカが戻ってきてた。

「エクス、その…ありがとぅ」

なんだか気まずそうな表情。

そんなのは見たくない。そんな思いはさせたくないんだ!だから、そう伝える。

「いいよルカ。僕はルカの役に立てた事が嬉しい」

うるっとしたルカに抱きつかれた。

甘く澄んだ香りがふわりと香る。

小鳥のような囀りが小さく耳を刺激する。ライ姉に聞こえない、たった一人にしか届かないような声量で。

「頼りにしてるから」

ぼそっと耳元で囁かれた言葉は、僕を上級騎士へとクラスチェンジさせた。