軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

優しい手

それは、ほんの数日前まで直視できないほど照り輝いていた太陽が急に恥じらいを持ち、一足飛びに肌寒くなったある日のこと。

「おなかいたい……」

寝間着姿のコンスタンスはお腹を抱えたままぐったりと寝台に横たわっていた。

天井近くからその様子を覗き込んでいたスカーレットが呆れたように鼻を鳴らす。

『寝冷えね。この時期にお腹なんて出して寝るからよ』

「そ、そんなことしてない……」

『してたわよ。お前、びっくりするくらい寝相が悪いんだから』

「うう……」

確かに枕を足蹴にしていることはよくあるし、ひどい時は寝台から落ちていることもある。

さすがにこの年になって腹を出して寝ていたなんて信じたくないが、否定もできずにコニーは小さく呻いた。

その拍子にまたきりきりと突き刺すような波が来て、痛みを逸らすようにゆっくりと息を吐く。

「あいたたたた……」

『本当に調子が悪そうね。お前がミルク粥を残すなんて』

半分以上残された皿に視線を向けながら珍しくスカーレットが眉を寄せる。

と、そのまま勢いよくコニーの腹部めがけて腕を振り下ろした。

「ひえっ!?」

もちろん衝撃はないが、驚きはする。

悲鳴を上げたが、スカーレットは何度も腕を上げては下ろす動作を繰り返した。

正直こわい。

挙動不審すぎてこわい。

「す、スカーレット?」

恐る恐る訊ねると、スカーレットはようやっと手をとめ、不機嫌そうな表情を浮かべた。

『……ふん、やっぱり無理ね』

「ええと、なにをしようと……?」

一応こちらは病人である。

驚きすぎて痛みがとまったような気がするが。

コニーの問いかけにスカーレットはやはり機嫌が悪そうにぽつりと答えた。

『手当て』

「……うん?」

(てあて――手当て?)

それは今の奇行のことだろうか。それとも何か別の意味があるのだろうか。

首を捻っていると、スカーレットは口を不満気に歪めたままこう続けた。

『……昔、わたくしが体調を崩しているとお母様が痛いところを擦ってくれたの。 手(・) 当(・) て(・) って言うくらいなんだから、こうして手を当てているだけでも効果があるんだって仰って』

コニーはぱちくりと瞳を瞬かせた。

『不思議なことに、その時は本当に痛みがやわらぐ気がしたのよね』

つまり、今のは――

『でも、やっぱりこの体じゃ意味がなかったわね。まあ、どうでもいいけれど』

スカーレットはなぜかわざとらしく肩を竦めると、そのままそっぽを向いてしまった。

コニーはぱちぱちと瞳を何度も瞬かせると、「スカーレット」と呼ぶ。

『……なによ』

「もう一回やって」

体を横に向け、スカーレットを見上げながらコニーはねだった。

『は?』

美しい顔が面食らったようにわずかに歪む。

「ね、もう一回」

『なんでわたくしが……』

「もう1回だけ」

スカーレットはコニーのしつこさに負けたように舌打ちをすると、また腕を思い切り振り下ろした。

やはり衝撃はない。でも――

コニーは思わず「ふふっ」と笑い声を漏らした。

『……お前、今、わたくしを笑ったわね?』

怒りを堪えるような低い声に、慌てて「違う違う」と首を振る。

『何が違うのよ。わたくしの耳が悪いとでも言いたいの?』

「そうじゃなくて、本当に痛くなくなったから嬉しくて」

スカーレットは疑わしそうに目を細めると、じとりとコニーを睨みつけた。

『調子のいい台詞を言ったって無駄よ。わたくし、茶番につき合うほど暇ではないの』

「本当だって」

コニーはにっこりと微笑んだ。

心なしか青ざめていた顔にも血の気が戻ってきている気がする。

「本当に、もう、痛くないよ」

確かに手は触れることができないけれど。

「ありがとう、スカーレット」

きっと、心は触れているから。

『…………馬鹿もここまでくると感心するわね』

「そ、それほどでも……?」

『褒めてなくてよ』

呆れたようにぶつぶつと文句を言いながらも、けっきょくスカーレットはその日はずっとコニーに 手(・) 当(・) て(・) をしてくれたのだった。