作品タイトル不明
第299話 不穏な気配
「……ん?」
グロリアからアダムスの権能についての説明を受けた直後、何やら不穏な気配が南の方からしたような、そんな気がした。 エルフの里(ここ) から南となると、パーズ――― いや、もっと距離がある、か……? 本当に気がした程度のものだったから、いまいち確信が持てない。
「どうしたのだ、ケルヴィン? 何か嫌な予感がしたような、そうでもないような…… と、そんな事を考えている顔になっているぞ?」
「何でそんなピンポイントに読み解いてんだよ…… 俺の顔って、そんなに分かりやすいか?」
「まあ、そもそもが表情の見えないアダムスと比べれば、分かりやすい部類だな」
それはそうだと、グロリアの話に深々と頷く。うん、アダムスと比べれば、俺の顔なんてイージーモードだわな。
「いやさ、あっちの方向から何とも言い難い、妙な気配がした気がしてさ。一瞬の事だったから、思い過ごしかとも思ったんだが…… うーん、やっぱ何か引っ掛かるな。エフィルやグロリアは、何か感じなかったか?」
「妙な気配? ……いや、私は特に何も感じなかったな」
「申し訳ありません、ご主人様。私もそういった気配は、特には」
「そうか……」
それじゃあ、やっぱり俺の気のせいだったんだろうか? うーむ、勘の良いセラや、異常な察知能力を誇るカチュアさんがこの場に居れば、もっとハッキリと知る事ができたと思うんだが、こればっかりはな。セラは現在北大陸に滞在中、カチュアさんも西大陸の学園に居るだろうしで、距離が離れ過ぎている。流石にこれでは―――
『あなた様! 今しがた不穏な気配がしませんでしたか!? こう、一瞬だけ! 東大陸の南部辺りでしたような、そんな気がしたのですが!?』
―――突然、メルから念話が届いた。待て待て、お前も今は西大陸の氷国レイガンドに居る筈だろと。俺よりも数倍離れた場所に居るのに、なぜに察知できたかのと。 ……いや、ひょっとしてメル関係の事柄だったから、か?
『奇遇だな。俺も今エルフの里に居るんだが、南の方から変な気配がした気がしたんだ。一緒に居たエフィルは気が付かなかったんだが…… メル、どう思う?』
『私達だけが気付く事ができた、ですか…… そうですね。例えば、その者は私達に対して何かしらの強い想いがあって、それが気配にも映し出されてしまった。その者の周囲には気配を遮断する結界が施されていたが、その想いが強過ぎて、結界から気配が僅かに漏れ出してしまった――― とか?』
『えーっと…… その具体的な予想ってさ、十中八九ルキルの事だよな? ポジティブかネガティブかって問われると、絶対的にネガティブな気配だったと思うし』
『ですね。更に情報を付け加えるとすれば、そこにはアダムスとマリアも絡んでいるかと』
『だよなぁ、式の日まで大人しく待っているだけの連中じゃないもんなぁ……』
ルキルは回復魔法も効かない謎の瀕死状態から、この短期間で復活して、“ちょっと待った”の参加枠を勝ち取るまでに至った。病み上がりだってのに、本当に大したもんだと思う。けど、あの狂信者がそれだけで満足するとも思っていない。恐らく助かった命を再び削って、更なる力を欲するくらいの事は、平気でするだろう。
で、アダムスとマリアもまた、そんな力を欲しまくりなルキルを放っておく筈がない。深い考えがあったり面白半分だったり、理由は色々とありそうだが、絶対そんな流れになるという確信がある。うん、そういう話であれば確信が持てる。
『まあ悪さをしない限りは、何しようと強くなってくれる分には大歓迎だ。しかし、そうか。あのルキルがそこまでして、強くなろうとしてくれているのか…… だとすれば、俺達も本番に向けて色々と捗るな!』
『何が捗るんですか、あなた様』
『まっ!』
『ほら、ララノアも呆れていますよ――― って、ララノア? ララノアも念話に参加させているのですか?』
『え?』
『はぅ?』
あ、本当だ。いつの間にか起きていたようで、ララノアが念話に参加して――― って、えええええっ!?
『あの、あなた様?』
『あ、ああ、すまん。ちょっと驚いちゃって…… いや、今一度待ってくれ。確かに護衛としての分身体クロトを持たせているけど、念話の使い方はまだ教えていないぞ!?』
『と言うと、ララノアが自発的に? ……あの、ララノアはまだハイハイもできないんですよね?』
『まあ、首も座ったばかりだしな。けどさ、やっぱララノアは天才なんだよ! 実は―――』
ララノアが披露してくれた弓魔法について、かくかくしかじか。
『な、なるほど、そのような事が…… そして今度は、念話の使い方まで自分で覚えてしまったと』
『あう!』
『ララノア、やはりお前は天才……!』
『あなた様、私達のクロメルだって天才ですからね!? ルミエストに最年少入学の天才児ですからね!?』
『お、おう?』
たまに思う。メルも俺にも負けず劣らずの親馬鹿なのではないか、と。ともあれ、不穏な気配についての考察はどこに行ってしまったのか、それ以降の念話はクロメルとララノアの話ばかりであった。
『―――ふう、有意義な時間でした。鍛錬の合間にこういった話をするのも、たまには悪くないですね』
『鍛錬? 式の準備をしに、レイガンドの避難所に行くって話じゃなかったっけ?』
『それもありますが、私もルキルに負けてはいられませんので。では、そろそろ式の準備兼鍛錬に戻ります。あなた様もララノアに負けてはいられませんよ?』
そんな言葉を最後に残して、メルとの念話が途切れた。よく分からないが、メルもメルで頑張っているらしい。うん、本当によく分からないけれど。
「ご主人様、念話中でしたか?」
「ああ、丁度今終わったところ。メルからの連絡があってさ、途中、ララノアが念話に参加し始めて驚いたよ」
「ララノアが? それは何とも、我が子ながら末恐ろしいですね…… それに、念話への無断参加はマナー違反です。その辺りをしっかりと学ばせませんと!」
「あ、そこ?」
エフィル、驚きよりも将来を見据える意志の方が圧倒的に強いの巻。いやはや、しっかりしておる。なら、俺も将来を見据えて行動しようか。たとえそれが、どんな無茶振りであったとしても。
「グロリア、式までの間に予定はあるか? 暇な時間があるのなら、前みたいに鍛錬に付き合ってほしいんだが…… その、できれば他の十権能の面子も交えて、さ?」
俺、前回嫌がらせのような鍛錬の仕方をしたってのに、グロリアにこんな提案をしてしまう。断られて当然、だが、仮に十権能との鍛錬を実現する事ができれば、日常的に権能の力に触れる事が可能となる。それは捗る、捗るんだよなぁ……!
「鍛錬か? ああ、構わないぞ。忙しないケルヴィムは何と言うか分からないが、イザベルやレムにも私から話を通しておこう」
「ま、まあそう言わずにさ? 無理を言っているのは、俺も重々承知の上なんだ。けど、俺もやれる事はやっておきたくて――― えええっ、良いの!?」
まさかの初手承諾に、俺動揺。今日の君、何か聞き分けが良過ぎません!?
「今、ケルヴィム以外の面子は比較的暇を持て余していてな。怠惰に過ごしているよりは、貴様らの鍛錬に付き合った方がまだマシと言うものだ。それに、そういった内容の願いであれば、イザベルも喜んで手を貸すだろう。上昇志向の守護対象は、イザベルにとって大変に好ましい存在なんだ。レムは…… まあ、大丈夫だろう。奴は案外協調性があるからな」
「お、おおっ……!」
駄目元でのお願いが、すんなりと通ってしまった。しかも、噂のイザベルやレムにも仲介してくれると言う。クッ、段々とグロリアが女神様に見えてきちゃった……! 彼女の存在が眩しい……!
「あー、嫁の目の前でそのような視線を私に向けるのは、流石にどうかと思うぞ? まあ、冒険者名鑑とやらに色々と記されてあったから、ある意味で納得ではあるが」
「ご主人様~?」
「え? ……あ、いや、違う、違うんだ! 今のはそういう視線じゃないんだ! 感謝の視線なんだ!」
直後、エフィルから笑顔の圧を受け、反省を促される俺なのであった。