軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第300話 挙式間近

ケルヴィンが反省を促されたあの日から、早いもので数ヵ月ほどの月日が流れた。その間、各人は式の準備を進め、今まで以上に鍛錬や学業や信仰に励み、カレーを食べ、おかわりをし――― 兎も角、自分が必要だと考える事に尽力したのだった。

新郎ケルヴィン、新婦七人による結婚式の噂は、S級冒険者としてのネームバリューの事もあって、順調に全世界へ広がりつつある状況だ。挙式の中心地である東大陸はもちろんの事、学園都市ルミエストや迷宮国パブから情報が流れ始め、西大陸全土にも浸透しつつある。

「なあ、聞いたか? あのS級冒険者のケルヴィンが、近いうちに結婚するらしいぞ? それも、相手は七人だってよ!」

「ハァッ!? そ、そんなに沢山の嫁さんを貰うのか? いやいや、王族や貴族じゃないんだから、それは欲張り過ぎだろ!?」

「あら、貴方知らないの? S級冒険者も貴族みたいなものなのよ? 国に所属している訳じゃないけど、一代貴族としての爵位が冒険者ギルドから与えられているんですって」

「えっ、そうなのか? け、けどよ、一気に嫁さんを七人も貰うってのは、やっぱ相当な好き者なんじゃ……?」

「「それはそう」」

但し、噂の正確性には場所によって大分違いがあるようで、酷いところではケルヴィンが女性に言い寄って、無理矢理に求婚した、などといった話も上がっているようである。通常の一対一の結婚式ならまだしも、今回のような一対七の形式で行うものは殆ど前例がない為、不審に思われる切っ掛けとなってしまっているのだろう。また、『冒険者名鑑』に記載されているケルヴィンの情報を変に解釈して、酒場で好き勝手に話を盛る者も居る。意図してデマ情報を流布する者は、いつの時代にも絶えないようだ。

不幸中の幸いであったのは、ネガティブな噂が流れているのはごく一部で、元々ケルヴィンとの交流があった国々や、S級冒険者に対する 接し方(・・・) を弁えている人々は、そういったデマ話に流されなかった事だろう。例えば、かつてケルヴィンが訪れた事のある、火の国ファーニスはどういった対応を取っているのかと言うと―――

「な、何ぃぃぃ!? 『死神』ケルヴィンが近々結婚する、だとうッ!? 大臣、なぜそのような超重要情報を、今の今まで見逃しておったのだ!? これは国の存亡に係わる事ぞ!?」

「は、ははっ! それが 件(くだん) の挙式は東大陸を中心に開催するとの事で、西大陸にまで話が伝わって来るのに、それなりの時間を要してしまったようでして……!」

―――何やら対応以前に、ファーニスの国王と大臣が揉めているようであった。

「また、式への招待状も一部の関係者にしか送っていないようで、表向きはまだ公表されていない状態で―――」

「―――ええい、くだらぬ言い訳など要らぬわ! 僅かばかりの滞在だったとはいえ、我が国とケルヴィン一行は親交を結んだ身! 祝辞の一つも送らんで、奴らの機嫌を損ねでもしたらどうするのだ!? 大問題に発展してしまうぞ!?」

「では、大急ぎでその準備を!」

「ま、待て! ……式は計七度、それも全て別の場所で行うのか?」

「はっ、そのように確認しております」

「ふむ…… ならば、祝辞はそれぞれの式に合わせて内容を変えて出せ。新婦の好みや性格、式場の風土といったあらゆる要素を調べ尽した上で、結婚祝いの品も添えるのだ。文官らの政務、その最優先事項にする事を許す!」

「ははっ!」

「それと民達がよからぬ噂をしないよう、国内の管理体制も見直しておけ! S級冒険者は地獄耳、どこで誰が聞いているか分からないぞ! 間違っても『死神』の誹謗中傷はするな! あいつら、マジで馬鹿みたいに耳が良いからッ! バッケとかホント凄いからッッ! また折檻されちゃうからッッッ!」

「国王、声がでかいですッッッッ! 王妃様に聞こえてしまいますぞッッッッッ!」

(((((声でけー……)))))

とまあ、少々でかい声で揉めはしたものの、結果として真っ当な対応を取るに落ち着いたようだ。後にケルヴィンは語る。あの国は相変わらず気遣いが凄い、とてもあのバッケが嫁に入った国とは思えない! ……と。

ところ変わって、ケルヴィン達のホームである静謐街パーズでは、連日途轍もない賑わいを見せていた。街全体がお祭りのような雰囲気で満たされており、たまたまこの場所を訪れた旅人や観光客などは、いつもと違うパーズの様子に目を白黒させている。

「あれっ、今日って何か祭りでもやっているのか?」

「何だ、アンタ知らないのか? この街の英雄であるS級冒険者のケルヴィンが、今度結婚するって事が決まってよ。その話が広まって以来、パーズの賑わいは連日こんな感じなのさ」

「結婚式? い、いやいや、S級冒険者は確かに凄い存在だが、所詮は一個人の挙式だろ? 国の王様のもんならまだ分かるが、流石にそれだけの事でこの盛り上がり様はどうなんだ?」

「おいおい、アンタ本当に何も知らないんだな? ケルヴィンのお相手の中には、軍国トライセンのシュトラ姫や、神皇国デラミスのコレット様もいらっしゃるんだぞ」

「……は? トライセンにデラミスの? え、あのシュトラ様に、巫女のコレット様?」

「そうそう、そのお二人。言っとくけど、これはマジな話だからな。両国とも言わずと知れた大国、それも将来を最も期待されたお方達だ。一国の王族の挙式なんか目じゃないって事、少しは理解できたかい?」

「あ、ああ、正直、未だに信じられないけど……」

「まあ、初耳ならそんな反応になっちまうわな、仕方ねぇよ。けどよ、この挙式を機に、東大陸各国の結びつきはきっと強くなるぜ? 何せケルヴィンは北の獣国ガウン、南の水国トラージとも親交が厚いんだ」

「ガウンとトラージまでも!?」

「ハハハッ、良い驚きっぷりだな、アンタ! いやまったく、ちょっと前まで魔王騒動やら何やらで物騒だったのに、今となってはあの頃が嘘みてぇだ。ケルヴィン様様ってな!」

街の者達はこの慶事を祝うと同時に、挙式を機にこれからの世の中が平和になっていく事を期待しているようだ。国家間で何かあったとしても、ケルヴィンが橋渡し役となって何とかしてくれるだろう! と、そんな風に考える者も相当に多い。しかし、そんな期待を一身に集める当人が、この世で最も闘争を求めていたりする訳で――― 世の中とは歪なものである。

「まあ俺らがそう期待する一方で、ケルヴィンが根っからの戦闘狂で、いつでもどこでも争いを求めていたりするんだけどな! それが巡り巡って平和に繋がってんだから、世の中って面白いよな~」

「え゛……?」

尤も、街の者達はケルヴィンの趣味趣向をよ~く理解したその上で、そんな期待しているようだが。