軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第265話 ギブアンドテイク

それからも俺は、久遠の身の上話を聞かされる事となる。元の世界に帰って来た娘達は、何やら定期的に地球と異世界を行き来できるようになったんだとか、たまたまマリアが地球に旅行しに来ていたところにバッタリ会い、そのまま意気投合したんだとか、折角だからユーも妾の家まで来ちゃいなよ、という適当な言葉に従い異世界にお邪魔して、見事その世界に適合完了、そのままエンジョイしてしまった事とか、まあ色々と聞かされる事となる。あれ、おかしいな? 俺は人生相談をしていた筈なのに、いつの間にか世間話を一方的に聞かされている立場になっているような……?

「いや~、レベルの概念のある世界って、また地球とは違う面白さがあって良いよね~。元々護身術程度の格闘の心得はあったけどさ、異世界ならファンタジー染みた事もできちゃうんだもん。そりゃあ最初のうちはレベルが低くって、百回試合をすれば百回勝てる筈の娘に負かされちゃった時とか、すっごい悔しかったよ? けど、そのお陰で私の中で暫く眠っていた、番狂わせ精神を刺激してね? もう無我夢中で鍛錬に明け暮れる事になったの。もう起きて寝るまで自己鍛錬と戦いの日々なの。あ、地球で留守番してもらってる息子達には、ちょっと海外で道場破りしてくるって伝えているから、そこは安心して?」

「は、はぁ……」

「でねでね、取り合えず異世界で道場破り的な事をしていたら、マリアの娘ちゃんが支配する国に行き着いたの。おお、こいつは大人な国だと思ったけど、私のやる事は何も変わらないから、まあ取り合えず道場破りだよね。そしたらマリアの娘ちゃんが相手してくれるらしくって、その時の私ったら嬉しくて嬉しくて、感動しちゃったなぁ! 組み手から試合まで、全部が全部とっても充実! 自分でもメキメキ強くなってるのが分かっちゃうの! 一番の伸び盛りである十代の時に感じるアレ、って言うのかな? まあ、私の場合は人生全部が全盛期なんだけど~って、なんちゃって!」

「は、ははっ……」

「ともあれ、そんな感じで良い感じに仕上がった私は、見事娘ちゃんを打倒する事ができたのでした~。いや~、リアルで酔拳を使う人って初めて会ったから、良い体験をさせてもらっちゃったよ。ん? あれって酔拳だよね? ……細かい事は気にしない! 何か途中でマリアが来て、私達の死合を見ていたらしいんだけど、大八魔とかいう組織に参加しないかって誘われたんだよね。でもおばさん、そういう怪し気なものには興味ないから断っちゃった。それよりもマリアの力の方に興味があったし、まずは手合わせしようぜって流れになってぇ――― ケルヴィン君、ちゃんと聞いてる? ここからが大切なところだよ?」

「いやいや、聞いてる、ちゃんと聞いてるって」

適当に相槌を打っていたのがバレたのか、久遠に注意されてしまう。久遠が話すのは異なる世界の話だ。それは確かに興味がそそるし、どんな戦いを繰り広げてきたのかとても気になる。けど、けどさ――― 話が長いんだ……! 今はやっと異世界の話になったから良かったけど、そこに入るまでの導入部分、例えば、その日の朝食は何を食っただの、息子がサッカーの試合でハットトリックを決めただの、別の息子も野球で全打席ホームラン打っただの、全く関係のない話が多過ぎで長過ぎだ! もう一時間以上聞きっ放しなんですよ、こっちは! 御トイレ言って来ても良いですか!?

「そう? まあ、それなら良いけど。で、マリアとの戦いは流石の私も苦戦を強いられてね、ええっと、それからは…… あっ、そろそろお夕飯時! おばさん、これでおいとまするね。流石に夕食までご馳走になるのは悪いし」

って、肝心なところの話はしないで帰るんかい! ……思わず心の中で、渾身のツッコミをしてしまった。それでも、実際に声に出さなかった。それは褒めてほしい。

「チラッ。チラッチラッ」

……何やら久遠がチラチラとこっちを見てくる。何だ、その小動物のペットがご飯をねだる時にするような目は? つうか、チラチラって実際に声に出して言っちゃってるし。

「ハァ…… 飯、食ってくか?」

「えっ、良いの!? それは悪い、君に悪いよぉ~~~!」

「飯の顔をしながらそんな事を言っても、全く説得力がないぞ…… エリィ、悪いけど今から夕食の準備してくれるか? メルが居るレベルを想定して作ってほしいんだが」

「そんなに大量に、ですか? リュカと共に全力で調理すれば、恐らくは対応可能だとは思いますが……」

「多分だけど、それだけ必要になると思うんだ。残ったら残ったで、俺がメルのところに持って帰るからさ」

「承知致しました。では、早速取り掛かります」

エリィは俺と久遠にお辞儀した後、屋敷の中へと足早に消えて行った。まさか、対メル用の食材がこんなところで役に立つとは。世の中、分からないものである。

『あなた様、私の食材を使うのですね…… 補充を、しっかりと補充をお願い致します……』

……またメルからの念話だ。覗き見を疑うレベルで心を読んでくるなって。ちょっと怖くなってきたから。今、久遠の相手で一杯一杯だから。

「いや~、正直言って助かるよ~。着の身着のままで来ちゃったからさ、お金を持ってくるのも忘れちゃってて…… チラッ」

「今度は何のチラ見だよ…… 飯どころか宿も期待しているんじゃないだろうな?」

「おばさん、察しの良い人は大好きだよ!」

「………」

ほら、一杯一杯だよ。

「……まず、そもそもさ、世間話をする為だけに来た訳じゃないんだろ? 飲みの誘いがどうとか、そんな事を言ってなかったか?」

そうじゃないと、マジで菓子を食わせて長話を聞かされていただけだぞ、俺。

「飲みの誘い? ……あっ、あー、言ってた! 確かに言っていたね、私!」

うん、これが本気の反応なのか、もう俺にはまったく分からん。好きにしてくれ。

「マリアやアダムっちゃん、それにシンちゃんと話し合ってさ、集まって飲もうよって流れになったんだ。ほら、一度お話合いをしなくちゃいけないとか、そんな感じになってたし、丁度良いかなって」

「おいおい、飲み会がてらに会談するつもりか? 一応、今後を占う重要な話し合いになる予定なんだぞ? 大丈夫なのか?」

「あははっ、アルコール如きで判断を誤る面子じゃないでしょ?」

「その台詞、ケルヴィムにも言ってやってくれ。きっと喜んでくれるから」

「それ、私に『致死』が飛んで来たりしない? うーん、避け甲斐がありそうだなぁ! で、ケルヴィン君も参加してくれるよね? その話し合いとやらを提案した側な訳だし」

「そりゃあ、当然参加はするが…… その飲み会とやらはいつ開催するんだ? 幹事は?」

「幹事は諸々シンちゃんがやってくれるって。日時もシンちゃんから追って連絡がくると思うよ?」

シン総長が幹事、か…… 今から不安で一杯だな、それは。

「他の主要な面々にも話を通してるらしいから、基本的に私達は待ってるだけで良いんじゃないかな? いやはや、率先して幹事をしてくれる人が居ると、楽で良いよね」

「率先してやってくれている時点で、何か裏はありそうだけどな。俺は呑気でいられないくらいに、今から胃が痛いよ」

「そうなの? んー、ケルヴィン君ってそんなタイプじゃないと思うんだけどなぁって、むむっ! 何だかお屋敷の方から良い匂いがしてきたね! よーし、今日は食べるぞー!」

久遠がその場で立ち上がり、両手を上げてテンションも上げ始める。本当にアラフォーなのか疑問に思えるくらい、無邪気さ全開だ。

「元気で何より。じゃ、食堂に案内するよ」

「うん、よろしく!」

「ちなみにだけどさ、食後の運動がてらに、後で模擬戦でもしないか? 屋敷の地下に頑丈な鍛錬場があるんだよ」

「えっ、鍛錬場!? うん、行く行く! 行くしやる!」

「乗り気で何より」

俺はすかしながらそう言ったが、実際のところは心の中でガッツポーズを決めていた。まさか、こんな簡単に久遠と手合わせする機会を得られるとは。これまでの苦労、食費以上の報酬だ! 是非とも美味しく頂こう!