作品タイトル不明
第260話 全世界ドサ回り
墜落した 白翼の地(イスラヘブン) が及ぼした物理的な影響は、なんやかんやで全て防ぐ事に成功した。むしろ問題となったのは、その後の 白翼の地(イスラヘブン) の扱いについてだ。墜落後、彼の大陸は分散して群島に分かれるような形となった。未だに微小な浮遊効果が働いていた為なのか、それ以上沈む様子も見られない。丸っと山を残すような大きな島も多く、そういった場所は自然も残っている為、今後ここで住もうと思えば、正直住めるような状態だ。それ自体は良い。避難していた天使達も、ここへ戻って来られるってもんだしな。しかし、だ。事情を知らない世界各国からすれば、これは何もなかった筈の海上に、突然土地が現れたようなもの。普通に考えれば大事件である。そこに至った経緯の説明含めて、公表に一苦労するのは間違いない。
……まあ、そんな厄介事を引き受ける事になるのは、シン総長達なんだけどな! え、俺? いやいや、だって俺は一冒険者でしかないし、そんな国家間単位でのやり取りに介入できる筈がないじゃないか。俺達はあくまで現場で奮闘するのみですよ、ええ。という訳で、シン総長、頑張って!
「いや、実際はうちにシュトラやコレットが居るし、全然関係ないって訳にもいかないんだけどね……」
「お兄ちゃん、どうしたの? そんな疲れた風な顔をして?」
「疲れた風、じゃないくて実際疲れているんですよ、お兄ちゃん……」
全世界ドサ回りに同行してくれているシュトラの優しさが、俺の冷え切った心に一筋の光を与えてくれる。温かい、すっごい温かい…… しかし、どうしてこんな事になってしまったんだろうか? あ、ちなみにここは、とある国にあるとある城、その個室だ。今は次の会談に向けての調整時間、んー、休憩時間みたいなものか? ともあれ、ソファの背もたれに深々と身を預けているところです。
白翼の地(イスラヘブン) での戦いの後、俺は最初、冒頭のような感じで気楽に考え、アダムスやマリアとの後々のやり取りに備えるつもりでいた。が、現場に居た当事者としての意見を求められる機会が多く、世界中を巡りながらやりたくもない陳述をさせられているのが現状なのだ。S級冒険者ってのは、想像していたよりも各国からの信頼が厚いようで、シン総長と俺がセットで回る事で、発言に更なる効果を発揮させる…… らしい。うん、俺としては心底どうでも良いんだけど、シュトラが言うにそうなんだそうだ。うん、知らんけど。クッソ帰りたいけど。
とまあ、各地を回るごとに俺の心が瀕死に近付いていく事を除けば、その辺の周知は上手くいっている。で、最終的に墜落した 白翼の地(イスラヘブン) 跡は『南大陸』として認められる事となった訳だ。 ……大陸じゃなくない? さっきも言ったけど、群島じゃないの? そんな風に俺が総長に指摘したんだが―――
『折角北と西と東の大陸があるのに、南だけ南群島だと変でしょ。なんか仲間外れみたいで。あと覚えるのが楽だし、元々は浮遊大陸だった訳だし。だから南大陸! はい、決定! 世界的な第一発見者である 我々(・・) がそう決めたのだ!』
『ええっ……』
―――と、勢いで押されてしまったんだ。アート学院長は文句を言いたげだったけど、それさえも押し切っていた。ちなみに 我々(・・) の中には、ちゃっかりと俺達の名前も入っていたり。本当にちゃっかりとしているよ、あの自由人。
「ハァ…… まあ、済んだ事を今更悔いても仕方ないか。大切なのはこれからだ。うん、これからだよ。けどさ、俺達がこんな事をしている間に、アダムス達が良からぬ事を仕出かしたりはしていないだろうな? 祭りに乗り遅れるようなものだぞ、それは」
「またそんな事を言って、抜け出す方法を考えようとしていますね?」
「あっ、バレた? って、シュトラ、いきなり元の姿に戻らないでくれよ。俺だって驚くから」
あと敢えて言ってなかったけどさ、今君、俺の膝の上に乗っている状態だからね? 幼い姿の状態ならまだしも、元の姿でそんな事をされると…… その、色々と不味い。これも敢えて説明はしないけどさ、分かるだろ? つか、分かってお願い。
「失礼、妹成分を十分に摂取したのが確認できましたので、もうこの姿に戻っても大丈夫だと判断しまして」
「確かに癒しが欲しいという意味では、そうだったかもしれないけど…… まったく、シュトラもちゃっかりしているな。いや、ちゃっかりと言うか、子供のやんちゃっぷりがその姿の時にも出て来ていないか、最近?」
「さて、何の事なのか分かりかねます」
そう言って俺の膝から降り、向かいのソファへと場所を移動するシュトラ。 ……確信犯だよな、絶対。
「話を戻しますが、アダムスやマリアが約束を違える事はないでしょう。ケルヴィンさんもそれは分かっていますよね?」
「あー、まあ、うん。監視からの連絡によれば、アダムスは世界各国の闘技場巡りに興じてるし、マリアと久遠は普通にこの世界を旅行して回っているらしいからな。食べ歩きやら観光名所やらおススメのコスメやら、滅茶苦茶堪能しているってさ。双方とも、今のところ怪しい動きをする気配もなし。強いて言えば、アダムスに同行しているケルヴィムが、今はこんな事をしている場合じゃないだろ!? ……って、定期的にツッコミを入れているくらいか」
むしろ俺としては、ケルヴィムが行き先でいつ裸になるか気が気でない。フリでも何でもなく、絶対脱がないで頂きたい。いや、別にそうなっても俺が責任を取る訳じゃないけどさ、多少俺と似た見た目のあいつがそんな事をされると、巡り巡って俺のところに何か文句が来ちゃいそうで不安なんだよ。
「ケルヴィンさん、また疲れたような顔をしていますね? もう少し妹成分を摂取します?」
「流石の俺も、そう言われて頷く訳には行かないんだが…… けど、心配してくれてありがとな」
「……こ、婚約者として当然の事です」
……ここで頬を染めるのは狡いと思います。子供の姿の時とのギャップががががっ。
「ところで、エフィルさんの出産の方は如何でしたか? 私はこちらの関係で立ち会えませんでしたが、ケルヴィンさんは一度戻られましたよね?」
と思ったら、もう冷静な表情に戻っているシュトラさん。感情の切り替えが恐ろしく早い。
「ああ、シュトラが調整してくれたお陰で、エフィルの出産日前後は丸っと予定が空いたからな。無事、出産に立ち会えたよ。母子ともに健康、んでもってハーフエルフの女の子が生まれて、名前は――― って、念話でも伝えていなかったっけ?」
「……直接、ケルヴィンさんの口からも聞いておきたかったものでして」
「お、おう?」
「フフッ、あまり深い理由はありませんよ。私にも多少なりの疲労は存在しますので、ちょっとしたヒーリング効果を期待しているんです。今は時間もある事ですし、その時の事を詳しくお伺いしたいのですが?」
「それはもちろん構わないが…… んー、今思うと俺、その時に何もできてなかったな」
「でしょうね」
「でしょうね!?」
何か色々と先読みをされている気がするが、折角のシュトラたっての要望だ。俺は気合を入れてその時の事を思い出し、シュトラに語り掛けるのであった。