軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第255話 光と闇の権化

サマーが作り出す幻影は更に増殖を続けており、今や数百人分という大隊規模にまで至っていた。ここまで増えてしまうと、最早サマーを模した軍隊だ。しかも人数が増えた今も全員が激しく動き回っている為、実際の人数以上に視覚情報が騒がしい。

投擲時は小型であったスプリングのブラックホールも、突き進むごとに 白翼の地(イスラヘブン) の崩壊した大地を吸収し、今やかなり巨大なものと化していた。大きさと共に吸引力も強化されており、下手に近付くのは最早自殺行為だ。

これらを前にすると、まるで光と闇の権化を相手取っているかのような、そんな気分に陥ってしまう。尤も、さあ困った困ったと、ケルヴィンは嬉しそうに頭を悩ませるばかで、これら窮地はケルヴィンにとってのご褒美にしかなっていない。 白翼の地(イスラヘブン) をできるだけ破壊するなという約束はどこに行ってしまったのか、それが唯一の懸念点ではあったが、まあプラマイプラスだろうとポジティブシンキング。今はそれよりも大事な事があると、きっぱりと割り切られてしまうのであった。

(俺に向かって直進するブラックホール、アレが真っ先に辿り着きそうだな。この距離でも相当な引力が働いているようだし…… うん、やっぱ今のうちに刀っ子軍団を引き連れながら、横に退避しておいた方が無難か。正面から挑んでみたい気持ちもあるけど、欲張りは良くないからな。それはまたの機会にって事で)

ブラックホールの進む速度は途轍もないが、その軌道はあくまでもストレート。ケルヴィンがその軌道から外れてしまえば、躱す行為自体はそう難しい事ではなかった。ブラックホールを発生させた狙いは、恐らく攻撃ではなく、乱気流を捻じ伏せこちらの機動力を削ぐ為であると、ケルヴィンはそう推測している。事実、つい先ほどまでケルヴィンに有利性をもたらしていた重力の風は、スプリングとサマーの味方となっている状態だ。

(距離を置いてもこの引力、間近ともなれば、足で逃げるのは恐らく厳しい。しかもどういう訳かあのブラックホール、刀っ子軍団の動きを阻害している様子はないんだよな。まあ殆どが幻影だから、単にそう見えてしまっているだけかもだが……)

このレベルの戦いであれば、 敵(ケルヴィン) にのみ阻害効果を与える、なんて事ができても決して不思議ではない。そんな最悪を想定&期待しながら、ケルヴィンは引き付けたサマーの軍団に対し、迎撃を開始する。

「「「「「ホーリーエンチャント」」」」」

「危ねぇな!」

激突する間際、トータルで数百本にまで増えた刀、その全てを眩く発光させ、ケルヴィンの目を再び焼き焦がそうとするサマー。対するケルヴィンはこの展開を先読みし、ハードをサングラスに変化させていた。元々未来的な武装に変化する傾向にあったハードの趣味なのか、サングラスもやけに未来的なデザインとなっている。ともあれ目を焼くほどに強烈な光は、これにて無力化された。

―――ギギギギッ!

が、一難去ってまた一難。サマーと矛を交える直前、横やりを入れる形でスプリングの投擲弾が急接近。ブラックホールとは違い、妙な回転で軌道を変化させる魔弾は、まるでホーミング機能が備わっているが如く、空気を引き裂きながらケルヴィンの方へと向かって来ていた。時にケルヴィンの死角から、時にサマーの幻影の中から飛び出る形でと、効果的に、そして堂々と不意を打ってくる。サマー迎撃用に生成していた 剛黒の黒剣(オブシダンエッジ) を盾とするも、魔弾はまるで風を圧縮させているかのように重かった。

(おいおい、一発で粉砕寸前かよ。『魔力超過』で強化した黒剣なんだぞ、これ? けど、こっちばっかに意識を裂いてもいられないんだよ、なぁっ!)

何度か魔弾を弾き返したタイミングで、遂にサマーの軍勢がケルヴィンの下へと辿り着いた。本物がどこに居るのかは分からない。ならば、幻影全てを攻撃してしまえば良いと、ケルヴィンは大鎌の斬撃に加え、展開していた残りの黒剣、 螺旋護風壁(ヒーリックスバリア) などで同時迎撃を決行する。

「あれもそれもこれも偽物…… 相当に用心深いな、刀っ子!」

攻撃を向けた先にある殆どは幻影である為、当然の事ながら攻撃の当たる感触はない。仮に当たったとすれば、それが本物のサマーとなる訳なのだが、今のところそのような気配もなかった。反応があるとすれば、相変わらず急な角度をつけて向かって来る、魔弾による重い攻撃のみだ。

(目の前の軍勢が幻影である事は分かっている。だが、それでもこの頭数と手数を無視する訳には――― ッ!?)

―――ズッ。

唐突に、腹部に激痛が走った。これまでのダメージ経験則からして、それが刃物によるものだと即時に理解するケルヴィン。そして刃物による攻撃となれば、当然それはサマーによるものである訳で。

「お前、こんだけ偽物を作っておきながら、自分は透明化を施していやがったな……!?」

そう、サマーはケルヴィンの裏をかくが為に、自身に光学迷彩処理を施していた。幻影の数を増やし、更にはそれらが持つ刀を異様なまでに光らせていたのは、全てこの一突きの為であったのだ。魔法生物とは思えない用意周到さである。

それでもケルヴィンは完全に刀が貫通する前に、その刀身を力一杯に握っていた。そうする事で攻撃の勢いを幾分か殺し、本物のサマーを 逃さない(・・・・) ようにしていたのだ。ダメージは甚大だが、受けた以上はそれ以上にやり返す。そんな死神顔のケルヴィンによる反撃の魔の手が、サマーに迫る。

「 苦艱晴剣(くげんせいけん) 」

「ッ!!!???」

が、その魔の手が止まる。突き刺された刀で無理矢理抉られたとか、そんな些細な事で止まった訳ではない。サマーが言葉を発した。ただ、それだけの事だ。しかしその瞬間に、突如としてケルヴィンに猛烈な精神的負荷が襲い掛かった。言うなればそれは、圧倒的なストレスだ。信仰心を発露させたいコレットに襲われてしまった時のような、或いはメルとシルヴィアとアリエルから構成された、料理下手三人衆のフルコースを前にしてしまった時のような、想像もしたくない絶望的な瞬間。それが頭の中でリフレインし、永遠とも感じられる最悪がケルヴィンの中で続いている。

(くぅぅッ……! 俺の精神に直接作用する力、か……!? やばいな、痛みとしては過去一かも――― ッ!?)

絶望の最中に居ても、状況は刻々と無慈悲に変化する。刺された傷に塩を練り込むが如く、サマーに腹部を蹴り上げられたのだ。同時に体から刀を抜かれ、今度は吹き飛ばされる側に回ってしまうケルヴィン。刀を掴んでいた手は、予めハードでカバーしていた為に無事であったが、そんな事がどうでもよく思えるほどに、状況は不味い方向へと向かっていた。

(ただ蹴り飛ばされただけじゃない。俺自身が、後方に吸い込まれている……!)

ケルヴィンは自らが後方に進むのと同時に、新たに後方から迫り来る脅威を感じ取っていた。脅威の正体、それは遥か後方へと通り過ぎた筈の、あのブラックホールだった。そしてブラックホールの背後には、いつの間にそこへ移動していたのか、スプリングの姿も見える。

(魔弾化した自分が俺に弾き返された後に、密かに背後で再集結していた? いや、今はそれよりも……)

ケルヴィンはスプリングのポーズを注視する。何やらスプリングは、サッカーボールをシュートしているかのような、そんな体勢になっていた。それが体勢が表す事は、つまり。

(まさか、蹴ったのか? ブラックホールを?)

そのまさかである。投擲ができればシュートもできると、そう言わんばかりの無茶な道理だが、スプリングはそれを成してしまった。彼女(?)はケルヴィンの背後に再集結した後、直進して来たブラックホールを蹴り返す事で、まさかの軌道修正を行っていたのだ。

サマーに蹴り飛ばされた今、回避するのは非常に困難だ。ブラックホールのスピードも、今が最高速度だろう。脅威を直接破壊するか、それとも何かしらの防御手段を講じるか、ケルヴィンは考えを巡らせる。 ……巡らせる、が。

(あ゛ー、ストレスで気分が最悪だ。まさか、戦いの中でこんな気持ちになる事があるなんてな…… 上手く考えが纏まらん。うん、纏まらん。だから―――)

―――ジャラリ。

「?」

ケルヴィンを蹴り飛ばした直後、サマーは自らの首に、何かが装着されている事に気が付いた。それはどうやら、鎖付きの首輪だったようで。

「だから、行き当たりばったりで戦わせてもらうわ。ちょっとそこのブラックホールまで、一緒に付き合ってくれよ」