作品タイトル不明
第256話 レベル11
サマーの首に取り付けたのは、ケルヴィンのA級白魔法【 黙縛の首輪(サイレンスカラー) 】により生成された、鎖付きの首輪であった。この首輪には結界並みの頑丈さが備わっており、ちょっとやそっとの力では破壊する事ができない。しかも、だ。この首輪を装着してしまうと、その時点で魔法を使用する事ができなくなってしまう。所謂、沈黙状態というものだ。対象の間近にまで接近しないと使えない点がネックだが、発動させてしまえば、この魔法はなかなかに便利であると、ケルヴィンは結構気に入っていたりする。例えば、このような使い方もできるからだ。
「空の旅、ご一緒しませんかぁっ!?」
「ぐうっ……!?」
サマーの首に繋がった鎖にありったけの力を加え、綱引きの要領で引っ張り抜く。更に暴風でサマーの体を浮かして吹っ飛ばしてやれば、魔法を使う事のできない彼女はこの通り、抵抗もできずにケルヴィンの方へと引き寄せられる事となるのだ。
(首がしまって多少なりとも苦しいだろうが、さっきは俺の腹を刺した訳だし、そこはお互いさまって事で……!)
心の中で手を合わせて謝罪し、心置きなく鎖に力を加えるケルヴィン。相手を気遣いつつ、微塵も容赦もしないという矛盾っぷりであった。
(さあ、最低でもこれでブラックホールに道連れにはできるってもんだが…… いやいや、それじゃ俺が行方不明になっちまうって。駄目だって。だからさ、悪いけど―――)
「―――お先にッ、どうぞってなぁッ!」
鎖を操り、火事場の馬鹿力を発揮させ、背負い投げの如く目標へとサマーを叩き付ける。この場合の目標とは、もちろん背後から迫るブラックホールの事だ。鎖付きの首輪と彼女を後押ししてくれる風のお陰で、サマーはケルヴィンを追い抜き、先んじてブラックホールの方へと吹っ飛んで行った。
スプリングが作り出したブラックホールの引力は、ケルヴィンにのみ働いている。これまでの戦いの内容から考察するに、それは間違いないだろう。だが、実際にブラックホールに触れてしまった場合でも、彼女の仲間であるサマーは無事に済むだろうか? 無事でなければ敵を一人倒せて万々歳、無事であれば「お前すげぇな!」と大喜びしよう――― と、そんな行き当たりばったりな思考で、ケルヴィンは事の成り行きをワクワクしながら見守るのであった。
「……ッ」
しかし、そんな期待を裏切るように、ブラックホールはサマーが直撃する寸前のところで消失。次いで、飛んで来たサマーを抱きとめる形でスプリングがキャッチ。繋がれていた首輪の鎖も、その際にスプリングが引き千切ってしまった。
(素手で引き千切るんスか、謎パワーで簡単に壊してくれるもんだな。しかし、魔法を消して助けたって事は、ブラックホールへの直撃は流石に仲間にも害があったのか…… 意外だな。てっきり仲間を犠牲にしてでも、俺を倒す事を優先すると思ったんだが)
仲間の命を優先したのは、血の元となるオリジナルの性格に近付いた為だろうか。そのお陰でケルヴィンも助かった訳だが、この結果には少し不満そうで―――
「その仲間意識の高さ、さっき生まれたばっかだってのに、俺のパーティレベルの連携力と見た! 道理で苦戦させられる訳だよ、ハハハハハハハッ!」
―――違った。別の喜びを見出していた。ついさっき受けた過剰なストレスは明後日の方向に飛んで行ってしまったのか、すっかり元気を取り戻している。いや、まあ、腹を刺されて出血をしている事には変わりないのだが、戦闘狂にとって魔法で治るような傷はないようなもの。最早全く気にしていない様子だ。
「ふーっ…… ともあれ、仕切り直しだな。トータルの肉体的精神的ダメージは俺の方が多そうだが、残り魔力はそっちの方が少ない感じか? まあ、そもそも魔力で動いているのかも知らない訳だが」
役目を終えた鎖を解除し、改めて二人に向き直るケルヴィン。あれだけの激しいやり取りの直後であると言うのに、その表情はまだまだ食い足りない、早くおかわりを寄越せといったものになっている。一方、そんな戦闘狂と対峙するスプリングとサマーもやる気のようで、宙を踏みしめ、それぞれの得物が新たな闇と光を帯び始めていた。
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「おー、あの二人を相手に互角とは、なかなかやるねぇ。妾、ちょっと意外かも。レベル的には11相当ってところかな?」
残り少なくなったポップコーンを口に放り投げながら、そんな言葉を口にするマリア。
「フン、当然だろう。ケルヴィンは俺が同盟相手として認めた男なのだからな」
そう返答したケルヴィムは、なぜか誇らし気である。
「だが、レベル11だと? マリアとやら、貴様の目は節穴か? ケルヴィンがそんな低レベルな筈なかろう。奴のレベルは200を優に超えているのだぞ」
「へえ、あのお兄さんってレベル200なんだ? ふんふん、こっちのレベルだとそんな感じなんだね。おっもしろ~い♪」
「おい、こちらは全く面白くないし、意味も分からんぞ」
「ふむ…… 我が察するに、この世界とマリアの世界とでは、レベルの価値基準が異なるのだろう。レベル200の彼の者は、マリアの世界ではレベル11に置き換わると、そういった認識で良いか?」
「そうそう、妾はそれが言いたかったの! アダムっちゃんったら話が分かる~♪」
バンバンと笑顔でアダムスの背中を叩くマリア。その光景を目にして、顎が外れる勢いで口を開けるケルヴィム。
「ばばばば、馬鹿がお前は!? 不敬どころの話じゃな――― アダムっちゃん!?」
どうやらあまりの衝撃に、錯乱状態に陥ってしまったようだ。
「ケルヴィムよ、落ち着け。神でもない我はこの程度の事を不敬とは思わん。良いではないか、アダムっちゃん。愛称とやらなのだろう? なかなか新鮮な響きだ」
「い、いや、だが、しかし!」
「ほら、アダムっちゃんもこう言ってるじゃん。はい、妾は許されました~。いやもだがもしかしもありませ~ん」
「ぐぬぬっ……!」
「あはは、お兄さんはからかい甲斐があるな~。あの子達と戦っているお兄さんとは、別方向で面白いかも」
「マリアとやら、気持ちは分からんでもないが、その辺にしておけ。度が過ぎると『致死』が飛んで来るぞ?」
「致死? それって妾が即死しちゃうって意味? うーん、正直、妾に効くかどうか怪しいと思うなぁ」
「ほう、自信に満ち溢れているな? では、ここは我も正直に言うとしよう。神でもない我としては、未だ本領を発揮していないあの戦いよりも、貴様の強さの方が気になっている。 ……貴様の強さは我に届くレベルのものか?」
「さあ、どうだろうね~? でもまあ、アダムっちゃんの素顔が見えている程度には強いかな?」
「……ほう」
マリアのその言葉に満足したのか、アダムスは注いだ酒を一気に飲み干し、それ以上言葉を紡ぐ事はなかった。マリアも観戦モードに移行してしまったようで、今はもうポップコーンを口に運ぶばかりだ。但し、ケルヴィムだけは話に納得していないようで―――
「―――おい」
「なぁに、お兄さん?」
「お前、本当にアダムスの顔が見えているのか?」
「見えてるよ? なかなかダンディーだよね。妾の好みではないけど」
「ッ! ……嘘では、なさそうだな。お前、一体どれだけの強さをその身に? レベルは?」
「お兄さん、どうしたの? 急にぐいぐい来るね? あっ、ひょっとして妾の魅力に当てられちゃった?」
「そんな訳あるかッ!」
「わっ、顔真っ赤じゃん。そんな照れなくたって良いって~。妾、分かってるから♪」
「~~~!」
そろそろケルヴィムの血管が切れそうである。
「ん~、アイドルの個人情報を晒すのはエヌジーなんだけど、ここまで言い寄られたら、ヒントくらいは出しちゃおうかな? マリアちゃんは寛大だもんね」
「……ヒント、だと?」
「うん、ヒント。大雑把に言えば、スプリングとサマーの十倍くらいは強い…… かな? うん、多分そんくらい」
「十、倍……」
以降、マリアは再び観戦モードへと戻ってしまう。彼女の言葉が本当なのか冗談なのか、ケルヴィムには判別がつかなかった。