軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第240話 愚聖剣クライヴ

「……それは何かな、死神?」

珍しい。あのエルドが眉を顰め、俺が取り出したこの剣に訝しむような視線を注いでくださっている。ハハッ、なかなか察しの良い男だ。

「こいつは今代の魔王が使っていた得物を、俺が 側(がわ) と性根を叩き直したものだ。名は『愚聖剣クライヴ』と言う」

この黒き長剣は聖剣にカテゴライズされているのにも拘らず、触れた相手に大量の呪いを流し込むという、何とも歪な能力を有している。そして何よりも重要なのは、この剣が生きているという事。これもセルジュから聞いた話だが、『鍛錬』の権能ってのは、生きている武具は分解できないらしいじゃないか。つまりクライヴ君はこの場において、これ以上ないほどに武器として適任!

「訳あって女相手には絶対使わない事にしているこの剣だが、 お前(エルド) が相手なら、その辺りも何ら問題がない。クライヴ君、存分に暴れて良いぞ!」

『~~~!』

む、おかしいな。気のせいなのか、クライヴ君が反発しているような気がする。いや、きっと気のせいだな。何度も何度も叩き直して、聖剣の域にまで達した自慢の武器なんだ。性格も清く正しいものへと更生している筈。相手が誰だろうと、その力を存分に発揮してくれる事だろう!

……まあ、ホントのところを言ってしまえば、この剣を入手、つまりは魔王ゼルを倒した時点で、宿っていたクライヴ君の人格は殆ど残っておらず、奴の残滓しかない状態だったんだけどな。この剣にクライヴ君の魂を入れるのに、一体どんな方法を取ったのかは分からない。が、あの頃のトライセンにトリスタンやジルドラが居た事を考えると、恐らくろくな方法でなかったであろう事は、容易に想像できる。で、魂がそんな状態なら、普通は自らの意思を示す事なんて有り得ない筈なんだが…… よっぽど我が強かったのか、それとも莫大な量の呪いと良い感じにマッチしてしまったのか、時たま、微妙にクライヴ君っぽいところを見せるんだよな、この剣…… ちなみにそれは、俺が何度鍛え直しても同じだった。まあ、だからこそ女性相手には使わないと、そう心に決めている訳なんだが。

「おい、その剣何だか嫌がっていないか?」

「まさか、久し振りの出番で張り切っているだけだよ。さあ、その『鍛錬』の権能で、こいつをバラせるかどうか…… 試してみようか?」

「……なるほど、なかなか興味深い剣のようだ」

「いや、普通に気色が悪いだろ。ケルヴィン、趣味が悪いぞ」

クライヴ君を危険視してくれたのか、漸くエルドの目が本気のそれになってきた。そしてなぜか、ケルヴィムから駄目出しを食らってしまう。ククッ、色々な意味で、今直ぐにでも斬りかかりたい。そんな衝動に駆られそうになるが、まだ我慢。武器は良いとしても、このまま突っ込んでは防具全般が分解されてしまうからな。

「ハード、 智慧形態(アスタロトフォーム) 」

召喚したハードをローブマントに変形させ、フードを深々と被る。それ以外の防具、ローブや指輪等々は全てクロトに収納してもらい、これにて本当の準備完了だ。マジでこのローブマント一枚のみだから、若干の違和感はあるが…… まあ、ケルヴィムの格好と比べれば、俺の方が随分と文化的だろう。

ちなみに、その特性上クライヴ君とハードには 天上の神剣(ディバインセイバー) や 神の救済(セイクリッドブレス) は付与しない。これら魔法は強力だが、自らの能力も無効化してしまうからな。

「それはリドワンか。十権能を配下に加え、更にそれを纏うとは豪胆なものだな。しかし、良いのか? リドワンの魂は既に 聖杭(ステーク) へ移っている。『鍛錬』の領域内に入れば、如何に『不壊』の権能を有していようとも、分解されてしまうかもしれないぞ?」

「リドワンじゃなくて、今はハードって名前だ。で、今の質問についてだが…… 悪いが名前の通り、ハードはそこまで軟じゃないぞ。まあ、良いじゃないか。クライヴ君同様、直接試してみれば……!」

愚聖剣の剣先をエルドへと向け、同時にプレッシャーをかけていく。

「やれやれ、死神も遂に最前線にご到着か。私には少しばかり、荷が重いな」

「よし、ならば長の座を―――」

「―――行くぞ!」

「あっ、おい!」

ケルヴィムにそれ以上の言葉を喋らせる前に、『鍛錬』の領域内へと足を踏み入れる。流石の反応速度と言うべきか、ケルヴィムの奴も直ぐに付いて来てくれた。

「行け」

白き翼から大量の剣を創造し、俺達へと放出するエルド。しかし、如何に数が多くとも先の攻撃の焼き増しだ。『鍛錬』で作り上げた武器には『不壊』が付与されておらず、やろうと思えばその武器ごとぶっ壊す事も可能。要はこんなもの、俺達の障害にはなり得ない!

「即席の武器としては上等! だが、聞いていた 武器(もん) はもっと凄かった筈だぞ、おいッ!」

前方より飛来する武器の嵐を掻い潜り、エルドの下へと迫る。ケルヴィムがひっきりなしに、そうだそうだ! バルドッグの武具はもっと精巧で性能がこんなものではなかった! などと叫んでいるのが気になるが、まあ許容範囲、もう慣れた。けど、やっぱ元の能力者の方が権能の使い方が上手いのは確定か。権能同士の併用はできても、能力を掛け合わせる事はできないようだし、その辺りが『統合』の限界なんだろうか? できれば、もう一声くらいは欲しいところだが…… どれ、少し挑発してみようか。

「『不壊』を攻撃に応用しないのか!? 神話級の武具の生成も、まだ出し惜しみするつもりか!?」

「あまり意地の悪い事を言わないでほしいものだな、死神。ケルヴィムの馬鹿が移ってしまうぞ?」

「誰が馬鹿だ!? おのれ、その言葉を発した事を後悔するがいい! 権能、顕現!」

ケルヴィム、お前が挑発に乗ってどうする…… と、ともあれ、アレだ。ケルヴィムが権能を顕現させ、その姿を変化させた。素っ裸なのは相変わらずだが、巻き角やら黒い骨の翼やらが備わり、多少はマシな印象に――― いや、駄目だ。何がとは言わないが、顕現してももろに出たままだ。いやあ、参ったね……

とまあ、このようにエルドを前にした際の短気、そして現在進行形で丸出しな格好は、ケルヴィムの明確な欠点と言えるだろう。但し、そんな状態でもケルヴィムは、決して無策という訳ではなかったようで。

「 黒骨翼(アズム) !」

「むっ」

骨の翼の先端が、広範囲に枝分かれしながらエルドへと迫る。なるほど、エルドの逃げ場を潰しながら展開しているのか。これなら仮にダメージがなくとも、次々と湧き出る骨の翼が壁となって、エルドの行動範囲を阻害してくれる。エルドの翼から生み出される得物程度であれば、破壊する事も難しい筈だ。となれば、今俺がすべきは、そう――― クライヴ君を活躍させるべし、だなッ!

逃げ場をなくしたエルドに、クライヴ君の一撃をお見舞いする。その信念の下、奴がケルヴィムの攻撃に目を奪われている隙に、 風神脚(ソニックアクセラレート) を使って一瞬で間合いを詰める。さあ、果たしてクライブ君の呪いは、『不壊』相手にどれほどの効果を発揮してくれるだろうか。

「その手は食わんよ」

―――ゴゴゴゴゴゴッ!

「っと!?」

「ッチ!」

あと少しで剣の間合いというところで、エルドの足下から急に地面がせり上がってきた。いや、塔ののような足場を、『鍛錬』で作り出したのか? ケルヴィムの骨の翼によって、足場は直ぐに破壊された。しかし、肝心のエルドはせり上がった勢いのまま、エネルギーの塊である翼を羽ばたかせ、遥か上空へと既に舞い上がっている。

「危ない危ない、その剣には触れたく―――」

「―――いや、普通に追いつくけどな?」

「ッ!?」

『魔力超過』込みの 風神脚(ソニックアクセラレート) を舐めないでもらいたい。近付く事が可能となった今、その程度のスピードで逃げても殆ど意味なんてないんだ。俺は素早くクライヴ君を振るい、呪いに塗れた斬撃をエルドに浴びせた。