作品タイトル不明
第236話 為り変わり
ハザマにとって肉体とは一定のものではなく、常に変容し、より優れたものを付け加えていくものだ。その結果生み出されるのは、形状に囚われない自由な姿―――それは彼にとっての強さの証であり、ある意味で生き様でもあったのだ。 ……但し今回の変化に限っては、どうも事情が異なるようだ。
「……ふん、こんなところか」
そこに完成したのは凝縮に凝縮を重ねた肉、筋骨隆々の黒い人型であった。片腕がないところまで同じで、ハザマに吸収される前のハオの姿に似ているが、その時よりもひと回りサイズが大きく、肉体の節々に異形の名残が見受けられる。人型を模してはいるが、数多の生命体を混ぜこぜにして、無理矢理人の器に押し込めた、という印象が強い。
「待たせたな。思わぬ邪魔が入ったが、これで漸く続きができる」
「……ハオちゃん、で良いのかしらん?」
「ああ、正直上手くいく確信はなかったが、運は俺に味方したようだ」
動作を確認するように、ハオ(?)は拳を何度か握り直す。
「敵の私が言うのも何だけどぉ、一先ずは良かった…… とでも言うべきなのかしらねん? その体、ハオちゃんの他にもう一人、別の十権能も居るのん? さっきの台詞と状況から察するに、権能三傑っぽかったけどぉ?」
「ああ、その肩書にどれほどの意味があるのかは知らんが、確かに奴、『蛮神』のハザマの意識もこの肉体に混在している。尤も、言葉を発する機能を俺が制限したから、もう喋る事もできんがな」
「あら、それは可哀そうにぃ」
「フッ、貴殿はどこまでも慈悲深いのだな。あのような卑怯な手を使った者に対し、普通はそのような感情など抱かぬというのに。 ……ただ、俺の意識がどこまで持つかは未知数だ。先ほどのハザマの発言を真と置くとすれば、いずれ俺の意識は消失するだろう。当然、その時に奴は俺の権能から解き放たれる」
手の平から血が流れ出るほどに、ハオはギリギリと拳を握り続ける。やがて拳の隙間から垂れてきた彼の血の色は、赤ではなく濁った緑色をしていた。
「……気のせいかしらねん? 何だか私に倒してほしいってぇ、そう言っているように聞こえるけどん?」
「ああ、気のせいだろう。ハザマの言葉を真に受ける者など十権能内には居ないし、たとえそうであったとしても、精神力で奴に負けるつもりもない。ただ、貴殿とは全力を発揮し、互いを殺すつもりでやり合いたいからな。今の話をその慈悲深い性格の起爆剤にでもしてくれれば、俺としてはありがたい限りだ。どうだ、貴殿の負けられない理由の一つになりそうか?」
「さて、どうかしらねん。私、最初から全力で勝つつもりだったか―――」
「あの、すみません。この辺に変な肉の塊が通りませんでしたか?」
「―――あらぁん?」
不意に耳にした可憐な声、それはゴルディアーナ達の更に頭上の方から聞こえてきた。そこには両腕を翼に変化させたドロシーがおり、何やら不機嫌そうな雰囲気を、これでもかとばかりに撒き散らしている。
「まっ、ドロシーちゃんじゃないのん。頗る機嫌が悪そうだけれどぉ、何かあったのん?」
「ええ、まあ。逃げるのが得意で性格と口と顔も悪い十権能が居まして、後を追って来たのですが…… ハァ、なるほど。どうやら、少しばかり込み入った状況のようですね」
変化したハオの姿を目にして、深く溜息をつくドロシー。
「先に言っておくけどん、彼は貴方が追って来た十権能とは別人よん。まあ、肉体は同じなんだけどぉ……」
自分との戦いの最中に不意を打たれ、ハオが吸収されてしまった事。その後に権能の力を用いて肉体を奪い返した事を、丁寧に状況説明するゴルディアーナ。一方で、その話の最中にハオは何度も頷いていた。何で十権能側のハオも説明に参加している感じなの? と、ドロシーの頭に新たな疑問が出てきたが、取り合えず今は流す事に。
「な、なるほど。道理で同じ肉体を持つ筈なのに、ハザマの邪な気配を感じない訳ですか。それにしても…… 何だか私と戦った時よりも、随分と強くなっている気がしますね」
「ふむ、貴殿もまた強いな。我々とはまた違うベクトルの強さのようだが、俺は選り好みはしない主義でな。この肉体に恨みがあって、それを晴らしたいと言うのなら、付き合ってやっても良いぞ?」
「……ハァ、嬉しそうにそんな事を言わないでくださいよ。この世界は戦闘狂ばかりなんですか?」
やれやれといった感じで、そんな言葉を口にするドロシーであるが、彼女もまた好戦的な笑みを浮かべていた。あの憎き体を滅せるのであれば、この際中身はどうでも良いようである。
「ちょっとちょっと、ドロシーちゃん? ハオちゃんの相手は私よん? 個人的な因縁もあるからぁ、横取りは許可できないわん」
「ええ、分かってますよ。ですが…… 転生神ゴルディアーナ、彼がハザマの肉塊を取り込んだのであれば、今の貴女では勝ち目はありません。今まで激しい戦闘を行っていたのでしょうが、彼は新たな肉体を手に入れ、ダメージが殆どない状態にまで戻っています。恐らくは、ハザマが所持していた命のストックもそのまま引き継いでいるでしょう。一方の貴女は、私が言うまでもないと思いますが……」
「もん、指摘されたくない事をズバリと言っちゃう子なのね、貴女ぁ。でも、まあその通りよん。精々があと一発、渾身の攻撃を出せるかどうかって状態よん。さっきの攻防で雌雄を決するつもり、だったしねん?」
「まあ、そうだろうな。事実、俺もそのつもりであった。真に残念な事だ」
バチコンとウインクを飛ばすゴルディアーナを相手に、特に動揺する事もなく、ハオは平然とそう返答する。また、ハオから攻撃を仕掛けるつもりもないようで、空中にて仁王立ちしたまま、二人の会話が終わるのを待っている様子だ。
「なるほど。見た目が少々アレですが、ハザマとは違い、貴方はなかなかに律儀なようですね。転生神ゴルディアーナ、一つ、私から提案があるのですが」
「なぁに? ああ、あとその呼び方は堅苦しいから、気軽にプリティアちゃんって呼んで頂戴なぁ(はぁと)」
「……実際に戦うのは貴女で構いません。ただ、戦うに際してのバックアップ役を、私に任せてくれないでしょうか?」
「何だかスルーされちゃった気がするけどん、まあ良いわん。バックアップって、補助魔法でも使ってくれるのん?」
「ええ、そんなところです。貴女の戦闘法に合わせた時魔法を施し、少しでも戦いを有利にしてみせます。まあ少しでも隙があれば、攻撃魔法の類も使うかもしれませんが…… 向こうはハオとハザマ、その融合体のようなものですから、こちらも二人で掛からないと割に合いませんよ」
「ふむ、道理だな。むしろ、俺としても望むところだ」
「貴方は本当に物分かりが良過ぎて、逆に調子が狂いますね……」
兎も角、ゴルディアーナとドロシーが組む事が決まり、ハオもそれを了承したようだ。
「まあ、そうよねん。勝利を目指すには、それしかないかもぉ。でも、大丈夫なのぉ? ぶっつけ本番、予行練習なしの連携になるわよん?」
「問題ありません。私には 彼(・) が憑いていますので」
「あらっ」
「むっ」
その瞬間にゴルディアーナとハオは、ドロシーの背後から何かの気配を感じ取った。上手く言語化する事はできないが、何か嫌な予感がヒシヒシとする。
「この場で能力説明をする訳にもいきませんので、彼の紹介は戦いに勝利した後にでも。多少視線が気になるかもしれませんが、万全のバックアップをお約束します。どうか転生神ゴルディアーナは、戦いに集中してください」