作品タイトル不明
第235話 逆転の一手
この状況下におけるハザマの逆転の一手、それは加熱する戦闘の最中に居るハオを、相手のゴルディアーナごと食らい、己の新たな肉体として取り込む事であった。ハザマの見立てでは、両者の実力は拮抗している。となれば勝敗を決める事となる、命のやり取りをする時がいずれ来るだろう。如何に権能三傑のハオ、転生神ゴルディアーナと言えども、その瞬間だけは相手の一挙一投足のみに集中する事になる筈。絶好の機会を狙うとすれば、正にその時がチャンスであると、ハザマをそう見定めた。
(如何にハオが強くとも、それは肉体的な強さに限っての事。ならば喰らう間際に反撃を食らったとしても、あの小娘の謎の攻撃とは違い、ストックが多少減る程度で済むじゃろう。じゃが、極限にまで鍛え上げれらたその肉体は、あの小娘に対する強力な武器となる。タイミングに恵まれれば、あの偽神も共に食えるかもしれん! カカッ、食ってやる、食ってやるぞ!)
ハザマは気配を消して大地の中を掘り進み、戦場の中心地へと少しずつ少しずつ進んで行く。この不自然な行動をドロシーに勘付かれない為にも、他のデコイについても同じ行動を取らせる徹底振りだ。少なくとも、これで多少なりの時間稼ぎにはなるだろう。
「ククッ、それはありがたい。 ……では、そろそろ決めようか。真の最強がどちらなのかを!」
「望むところ、よんッ!」
耳を聴力に優れたものに変化させ、頭上での二人の会話を正確に聞き取るハザマ。その時はもう直前まで迫っているのだと、自らも準備を整える。地中から出た瞬間に最高速に達するよう、それ専用の四肢にを組み替え、肉体を最適化――― そして、チャンスは巡ってきた。
(……今ッ!)
大地の中から飛び出したハザマは、直ぐ様に二人の姿を補足した。双方の最強を誇る攻撃が放たれる間際、つまりはハザマにとっての好機である。
「カカッ! 盛り上がっているところすまないが、邪魔させてもらうわい!」
「「―――ッ!?」」
二人の間合いに入る寸前のところで、ハザマは更にその肉体を分割させていた。自らの声そっくりに喋る機能を持たせた、新たなるデコイを放ったのである。攻撃のその瞬間にわざと台詞を喋らせ、禍々しいその大口を見せつける事で注目させる。ハオとゴルディアーナがデコイに気を取られているそのうちに、本体であるハザマが真下から迫り、双方を食らうという作戦だ。
「ふうっ!」
「ぬん!」
衝突間際で攻撃を止め、直ぐ様にハザマのデコイへと標的を変更した二人は、敵同士であるというのに、流れるような連携技をそこから決める事に成功する。あの場面から一転して協力し、不意を打ったデコイを粉砕してのけたは流石だと言えるだろう。
(カカカッ、もらった!)
だが足元より静かに迫っていた、ハザマ本体への反応は間に合わなかった。ハザマは二人を丸飲みにしようと、その大口を限界まで展開。蛇の如く広げられたその大口は、余裕で二人を包み込むまでに広げられている。
「あらやばぁっ!?」
「カカッ! 今更気付いたところで、もう遅いわッ!」
ハザマの権能『融合』は、対象となる者を胃の中に収容する事を、能力発動の条件としている。要は対象を殺す必要も、咀嚼して分割する必要もないのだ。ハオとゴルディアーナが如何に鋼の肉体を有していようとも、その肉体ごと胃に入れてしまえば、能力の発動に問題はないのだ。
「ぬうぅぅぅ……!」
「無駄じゃ!」
ハオが無理矢理に体勢を変え、蹴りらしき攻撃を放とうとしている。だが、ハザマは止まらない。たとえこの状態から苦し紛れの反撃を食らおうとも、命のストックがある限りハザマは再生し続けるからだ。
(これにて詰みじゃ!)
打った博打に勝利したと、ハザマはそう確信した。しかし、その時の事である。
「ふんっ!」
「ごほあっ……!?」
無理矢理に放ったとは思えぬ、ハオの鋭い蹴り――― その攻撃が向かった先は、ハザマではなくゴルディアーナの方であった。
(……あ?)
食らおうとする行動こそ止めないが、ハザマの思考に大きな疑問符が浮かぶ。このタイミングで偽神を攻撃? 不意を打った? まさか、未だに自分を味方だと考えている? 等々、その行動の意味を図りかねていたのだ。
(ハオは楽観的な考えをするような者ではない。食らおうとするワシを視認した時点で、容赦なく殺そうとしてくるじゃろう。ならば、その行動の意味は――― 蹴り飛ばす事で、偽神を助けた?)
思考の結果、行き着いたのはゴルディアーナを助け出したという、まさかの答え。しかし、ハザマにはその行動の意味が理解できなかった。自身の命を差し置いて、他人を、それも敵を助ける意味がどこにあるのかと、眉を顰める。
「ハ、ハオちゃん!?」
やはりと言うべきか、蹴り飛ばされたゴルディアーナは無事であった。正確にはかなりのダメージを負ったのだろうが、致命傷ではない。ただ、当人もハオの行動に驚いているらしく、珍しくそのような表情を作っていた。
(今更自己犠牲の精神にでも目覚めたか!? ならば、そのままワシに食われるがよいッ!)
疑問は未だ拭えなかったが、そんな事は止める理由になり得ない。ハザマは無防備となったハオを容赦なく食らい、丸飲みにしてしまう。その工程は本当に一瞬の出来事で、内部からの反撃も食らっている様子はなかった。
「な、何が起こった、んだ……?」
「変な肉の塊が現れて、敵が消えた……」
「嫌な、予感する、んだな……」
ここに来て、漸くダハク達も状況の変化に気付いたようだが、三人は既に満身創痍。その場から動く事もできそうにない。
「カ、カカカカカカカッ! 全く、ハオも馬鹿な奴じゃて! 敵を助ける暇があるのなら、自らが脱出する方法を模索すれば良かったものを! まあ良い、これで奴の肉体はワシのものじゃ!」
ハオを取り込んだハザマは、グネグネと不気味な手足を動かしながら、高笑いを決めていた。ハオと『融合』を果たした効果がもう出ているのだろう。彼の肉体に莫大なエネルギーが宿り始め、纏う雰囲気も全くの別物となっている。
「……貴方、ハオちゃんに何をしたのかしらん? 事の次第によっては、ただでは済まないと思いなさぁい」
ゴルディアーナの言葉には、らしくもなく怒気が含まれていた。表立って爆発させるのではなく、静かに静かに怒りを滲ませる、そんな怒りだ。
「ん? ああ、そうかそうか。偽神、お主もおったのじゃったな。カカッ、わざわざ問答なんて仕掛けず、ワシの隙を突けば良かったものの。まあどちらにしても、もうお主はワシの敵ではないわい。偉大なる権能三傑、そのうちの二人の力が集まれば、あの世この世全てを含め、敵う者など――― な、ぐぐ、ぐうっ……!?」
「……?」
急に体を硬直させ、更には苦し気な声を出し始めたハザマに、ゴルディアーナは何事かと警戒を強める。そういった演技からの不意打ち狙いかとも考えたが、どうやらそれも違うようだ。
「か、は、あああッ……! な、なぜ、体がワシの言う事を、聞かん……!? これ、では、まるで―――」
「―――まるで、体を乗っ取られたかのようだ、か?」
ハザマの頭部の一部が裂け、そこに新たな口が形成される。その口から放たれた言葉は、ハザマの声によるものではなかった。
「き、貴様は、ハオ……!? 馬鹿、な……! 貴様は、ワシの肉体の、一部となった、筈……!」
「ああ、遺憾ながらにそうなってしまったようだな。だが、お前は重要な事を見落としている」
「な、に……!?」
「一つ、吸収されたからと言って、俺の精神はそう簡単に消えたりなどしない」
「そ、それがどうしたと、言うのだ……! 確かに、そのような者が、稀に居もするが……! その者らも、時間と共に、意識を消す、ものなのだ……! その最中に、ワシの肉体を、乗っ取るなどと、言う事は―――」
「―――二つ、俺の権能は『 魁偉(かいい) 』、己の筋肉を操る、ただそれだけの能力だ。だが、その程度の能力も、お前とは相性が良いらしい」
次の瞬間、不気味な肉の塊であったハザマの肉体は、ミシミシと音を立てて縮んでいき、やがて人型となっていった。