軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第225話 流れを変える

「では、拳を交えようか」

この場に居る全員と対峙するハオは、言うまでもなく圧倒的な不利を強いられている。しかし、そんな彼が戦法として選択したのは、策や駆け引きといった要素を全て排除した、真正面からの真剣勝負であった。様々な属性を宿し、様々な格闘戦の構えを取る 飢える猛樹(ビーストツリー) の集団の中へと、ハオは自ら飛び込んで行く。

「 縮地(しゅくち) 」

正面に突き進むハオの移動法は、必要最小限の動きで行われる奇妙なものであった。いや、最小限どころか、殆ど足も動かしていない筈のに、残像が生じる速度で移動しているのだ。言ってしまえばそれは、構えの姿勢を維持したまま移動しているに等しい。ハオと対峙している者にとっては、彼がいきなり目の前へワープしてきたかのように見えただろう。

「こいつ、一瞬で距離を……! また奇妙な技を使いやがって! だが、それが何だ! その程度じゃ 飢える猛樹(こいつら) は驚かねぇぜ!?」

「「「「「ギュヴゥッアァァ!」」」」」

ダハクの言う通り、 飢える猛樹(ビーストツリー) 達は臆する事なくハオに襲い掛かる。更に、後方からはムドファラクによる援護射撃が開始され、ダハクとボガも最前線へと駆け出していた。

「ならば、その力が如何ほどのものか…… 試してみよう!」

ハオがそう言い放った直後、彼を取り囲んでいた 飢える猛樹(ビーストツリー) のうちの数体が、突如として顔面から粉々に砕け散っていった。戦いに備えていた筈の腕の構えも、纏っていた筈の赤きオーラも、全てを通り抜けてハオの拳が直撃したのだ。振るわれた拳があまりに速過ぎたが為に、周りの者達はまるで反応が追いついていない。

「ッチ! やっぱ拳も速ぇっ! だが!」

「む?」

顔面を砕かれた 飢える猛樹(ビーストツリー) であったが、彼らはその状態でも倒れていなかった。いや、むしろその状態から新たな顔を生やし、急速に再生しようとしている。

( 飢える猛樹(ビーストツリー) の環境適応力の高さは、この再生能力由来のもんだ! 燃えようが凍ろうが粉々になろうが、生半可な破壊じゃ体のどっからでも復活できる!)

そう、 飢える猛樹(ビーストツリー) はヒトデやウーパールーパーのように、失った肉体を完全に再生できる能力を有していたのだ。一見頭部に見える箇所を破壊したとしても、ステータス上のHPが0にならない限り、彼らは無限に再生を繰り返す事ができる。血が通う生物とは違い、植物である為に、頭部などの本来急所である筈場所が破壊されたとしても、即死するような事もない。更に最大HPがアベレージ5000オーバーと、彼らはステータス面でも相当のタフネスを誇っていた。 飢える猛樹(ビーストツリー) を倒すには、大ダメージで一気にHPを削る必要がある。

『ボガ! あいつらが体張ってくれてんだ! 俺達も参加して、一気に畳み掛けるぞ!』

『わがっだぁ!』

大した距離ではないのだ。ダハクとボガの足であれば、もう一秒も掛からずに馳せ参じる事ができるだろう。が、しかし―――

「ギュッ!?」

「ヴゥッ……!」

「ギュウアッ!?」

「ふむ、漸く来たか。思ったよりも遅い到着であったな」

「「!?」」

―――ダハクらが攻撃を仕掛けようとしたその時には、 飢える猛樹(ビーストツリー) の頭数が既に半数を割っていた。ハオが腕を振るうごとに、最低でも三体の 飢える猛樹(ビーストツリー) の頭部が粉砕、次いで四肢が砕け、最後に胴体が爆散していく。辛うじて振るわれた拳の残像を見る事はできるが、一体どのような格闘術を用いているのか、今のダハクらの目にはその詳細を捉える事ができなかった。ただ一つ分かるのは、あの拳をまともに食らいでもすれば、如何に竜王のダハク達だったとしても、ただでは済まないだろうと言う事だ。

残っている 飢える猛樹(ビーストツリー) も必死に反撃を試みているが、彼らの攻撃がハオに当たる気配はない。それどころか、先ほどから絶え間なく撃ち続けているムドの弾丸でさえも、今に至るまで一発も命中していない。どれだけ大人数で取り囲み、どれだけ攻撃の雨を降らせようとも、ハオの肉体は全てが残像でできているがの如く、その全てをすり抜けてしまうのだ。まるでアンジェの固有スキル、『遮断不可』を相手にしているかのような感覚に陥ってしまう。

『クッ、ただ一度の攻撃に、一体どんだけの技を仕掛けていやがんだ、この野郎……! しかも、あいつらが纏っていた炎や氷も全くおかまいなしかよ……! 触れるだけで相当なダメージを与える筈なんだぞ、本当は……!』

『鎧代わりの装甲も、関係なぐひしゃげでるんだな…… あ、あれじゃおでの竜鱗も、意味ねぇ?』

『かもなぁ…… じゃあ、止まるか?』

『ダ、ダハク、冗談が上手い、んだなぁ。 ……んな訳、ないッ!』

ハオの圧倒的な武力を前にしても、ダハクとボガは足を止めなかった。片や両腕に刺々しい植物を纏わせ、片や黒岩の鎧を更に赤々と染め上げる。竜王としてのポテンシャル、そして共に培った武を融合させ、二人は新たなる極地へと至る。

「 竜刺毒針(ドラゴンビーニー) !」

かつてジルドラを屠った猛毒は、ダハクの手によって更なる進化を遂げていた。毒々しい色合いをした無数の針が、圧縮された空気の塊と共に放たれる。これら針の一本一本には、改良型とされる『天使殺し』の猛毒が内包されているのだ。一本でも刺さってしまえば、肉体の強さを問わずに致命傷となり得る、最悪に危険な代物なのである。

「 怒竜烈拳・炎(ドラゴンスマッシュ・フロガ) !」

熱の圧縮、威力の圧縮、圧縮に次ぐ圧縮――― 火山から流れ出でた溶岩がボガの両腕に集結し、武の理に基づき巨腕と共に振るわれる。事前に引き起こしておいた火山の力を、そのまま武術として転用してしまうこの荒業は、火竜王であるボガにしか成し得ないものであった。拳に宿るには強大過ぎる災害、これが一切の遠慮なしに振るわれれば、一体どれだけの惨状を呈するのか、全く予想がつかない。

(プリティアちゃん、そこで見ていてくれよっ!)

かつて『桃鬼』ゴルディアーナが使っていた技、『 蜂刺針(はちぶんぶん) 』、そして『 怒鬼烈拳(ドキドキスマッシュ) 』。二人はこれら技を参考に改良を加え、竜王の特性をアレンジとして組み込んでいた。人と竜、そのどちらの強みも活かせるように。そして何よりも、大好きな人に少しでも近付く為に(ダハク談)。

(プリティアちゃんと比べ、技の使用者である俺達は数段劣っている。これは紛れもねぇ事実! ならよぉ、技自体をより馴染むように、愛を以て改良するしかねぇよなぁっ!?)

半数になったとはいえ、まだまだ数の利で押し潰そうとする 飢える猛樹(ビーストツリー) は健在だ。災厄を撒き散らす悪意めいた地形、頭上より降り注ぐムドファラクの弾丸、そしてここにダハクとボガの猛撃が加わり、ハオは片腕というハンデを背負ったまま、その全てを一度に対応しなくてはならない。

(一発で良い。ああ、まずは一発だ! この中のどれか一発でもヒットさせて、そこから流れを変えてやる!)

ダハクらの士気は高く、今用いる事ができる力を如何なく発揮させていた。この場に集結した皆は間違いなく、最高のコンディションで最善の連携を決めていた。 ……だが、それでも。

「――― 裂帛(れっぱく) 」

そこまでしても、そこまでの力を引き出しても、ダハク達の攻撃がハオに届く事はなかった。恐らくは何が起こったのか、理解する事もできなかっただろう。ハオが一呼吸のうちに行ったのは、前後左右上下、全ての方向を対象とした、目に見えぬ拳と蹴りの連撃であった。風船が破裂したかのような、パァン! という音が絶え間なく聞こえたかと思うと、周囲の者達が一瞬のうちに蹂躙されてしまったのだ。 飢える猛樹(ビーストツリー) は断末魔を上げる暇もなく全身が砕け散り、ダハクとボガもHPの半分を割る大ダメージを受けてしまう。

「か、はっ……」

「な、にぃっ……!?」

ダメージと同様に、受けた衝撃も凄まじいものであった。ダハクとボガは一気に後方へと、いや、それどころか戦場から離脱するレベルで吹き飛ばされてしまう。

「ほう? この俺に技を使わせ、その上生き延びるか。まだまだ付け焼き刃ではあったが、先ほど使おうとしていた技も、なかなか見どころがあった。誇れ、お前達は強い。それなりに、な」