作品タイトル不明
第224話 飢える猛樹
時はセラとジェラールの戦いが終わる、その少し前にまで遡る。 白翼の地(イスラヘブン) 一高い場所、エンベルグ神霊山の頂上では、色とりどり眩い光が絶えず輝いていた。花火のように力強く、カラフルで綺麗な印象を受けるこの光景であるが―――
「ぬぅあああぁぁぁ!」
「ふぅぅぅーーーん!」
「ほぉああぁぁーー!」
「フッ、やるではないか!」
(男共の叫び声がうるさい……)
―――その現場では、外からは想像もつかないほどの死闘(?)が繰り広げられていた。
『武神』或いは『闘神』と恐れられるハオと対峙するのは、人型の竜へと変身した三竜王と、紫色の蝶(人型)となったグロスティーナである。立ち位置としては、ハオが頂上の中心に陣取り、その周りをダハク達が旋回、更にその上空をグロスティーナが飛んでいる形だ。
「 飢える猛樹(ビーストツリー) !」
「ギュウアアァァァ!」
ダハクの右腕が樹木で覆われ、それらは猛獣の顔を模した、見るからに狂暴な形へと成長していく。急激な成長で飢えているのか、 獲物(ハオ) に狙いを定めた 飢える猛樹(ビーストツリー) は、超スピードでの狩りを開始。地を這うようにハオへと迫り、その大口を開けるのであった。
「 活火巨腕(ラーバプレス) !」
しかし、 飢える猛樹(それ) よりも早くにハオを攻撃したのはボガであった。全身の黒岩鎧から炎を噴火させ、巨体でありながら戦闘機の如く接近を果たしたボガが、ハオの頭上から熱で真っ赤に染まった巨腕を叩き込む。持ち前のパワー、そして腕の裏側から噴火する炎の勢いをも利用したこの一撃は、大地に巨大なクレーターを形成し、更にはそこに走った亀裂から溶岩を放出させるに至る。
「良い攻撃だ」
「ぬうっ!」
惜しくも、と言えないほど完璧に、ハオはこの攻撃を躱していた。ただ、まともに当たってさえいれば、如何にハオと言えども無事には済まなかっただろう。その純然たる力強さに、ハオは心からの称賛の言葉を贈る。
「回避の後は隙が生まれるだろうが、よぉおらぁぁぁ!」
攻撃を躱す事を先読みしていたダハクは、 飢える猛樹(ビーストツリー) をその回避先へと向かわせていた。まずは機動力を封じる為、 飢える猛樹(ビーストツリー) に足を狙わせる。
「その通りだ。が、それでは遅い」
読みは良かった。狙いも良かった。しかしそれでも、ハオを仕留めるには何もかもが足りていなかった。ハオの足元が一瞬見えなくなったかと思えば、間近にまで迫っていた 飢える猛樹(ビーストツリー) が、粉々に砕け散ったのだ。
「クソがぁっ! だが、これで終わりじゃねぇ!」
「何?」
砕け散った樹木の欠片が大地に触れる。すると、どうした事だろうか。それらは再び急成長し、見る見るうちに元の大きさ、元の猛樹の形へと戻っていくではないか。しかも欠片の数だけ増殖している為、むしろ今の方が戦力が増強されている。
「「「「「ギュウゥゥアァァ!」」」」」
「ほう」
「粉々に砕いてくれて、ありがとよッ! お礼参りは即刻してやるぜぇ!? んでもって、ボガ、ムド!」
「お、おう!」
「分かってる」
ダハクの叫びに応じ、ボガが先ほど作ったクレーターに更に腕を捻じ込み、ムドファラクが空へと舞い上がる。
「 活火山創造の拳(ラーバクレータプレス) !」
真っ赤に染まったボガの拳から、赤々とした色合いが大地へと移っていく。そして次の瞬間に巻き起こったのは、エンベルグ神霊山の大噴火であった。休火山である筈のエンベルグ神霊山であるが、ボガが 拳から(・・・) 息吹(ブレス) を放ち、無理矢理に活性化。人為的に、いや、竜為的に引き起こされた大噴火は、周辺どころか大陸全土に影響し得る大災害と化した。
その大本である噴火口付近は、特に危険な場所へと大変貌。そこに存在しているだけで即死確定な、超デンジャラスゾーンだ。尤も、ダハク達は平然とその中で戦いを続行しているし、封印中のゴルディアーナも例外なくその最中に巻き込まれているのだが、言うまでもなく無事だ。それでも、一応、危険な場所――― な、筈である。
山頂が大惨事に見舞われる一方で、間際に空に舞い上がっていたムドファラクは、彼女の周囲に展開していた三色の光輪を高速回転させていた。回転させるほどに金属が擦れ合うような、そんな甲高い音を鳴らす光輪。これだけではいまいち用途不明な謎の物体であるが、これが一体何なのかは、直ぐに分かる事となる。
「 極彩の銃雨(トリニティスコール) 」
ムドファラクの声と共に、光輪から赤・青・黄から成る三色の弾丸を連続射出させる。散弾銃の如く多方向に分散され、ガトリング砲の如き連射性を誇る銃弾の雨。そう、この光輪の正体は銃口であったのだ。赤の銃弾は炎、青の銃弾は氷、黄の銃弾は雷から出来上がっているらしく、着弾箇所にはそれぞれの属性が伴う災厄が巻き起こされる。ボガのマグマと共に火柱が立ち上り、それらと相反する氷塊が時間を止め、雷が所構わず暴れ回り、一発の着弾でも大きな影響を与えるそれら銃弾が、万発以上の弾数となって地上へと叩き付けられている。それはもう、エンベルグ神霊山を削って消滅させる勢いだ。
そんな多属性が混在する戦場であるが、ここにはダハク達やハオの他に、 飢える猛樹(ビーストツリー) も大量に生まれていた。植物である彼らに炎やらの相性最悪なものをぶつけたら、ダハクの奇策が全く意味のないものになってしまう――― と、普通であればそう思うところなのだが、もちろんムド達の攻撃は織り込み済み。むしろ、それらの災厄は 飢える猛樹(ビーストツリー) の強化材料となっていた。
「「「「「ギュヴゥゥアァァ!」」」」」
炎の弾丸を浴びた猛樹はその身に炎を灯し、青の弾丸は樹皮が青色に変貌、黄の弾丸はなぜかメタリックな装甲を纏うようになっていた。どの個体もダメージを負っている気配はなく、むしろ活力が漲っている。
「驚いたかぁ!? これこそが 飢える猛樹(ビーストツリー) の真骨頂! どんなに過酷な環境にも適応できるこいつらは、即座に適した属性へと肉体を組み替える事ができんだよ! さらにッ!」
ダハクが『ゴルディア』による赤きオーラは発現させる。すると、ダハクのオーラは 飢える猛樹(ビーストツリー) 達の方にも移っていき、最終的には全ての個体がオーラを纏うようになっていた。また、オーラを纏った猛樹は体から腕を生やし、まるで格闘戦をするかのような構えを取り始める。
「獰猛なこいつらに理を植え付けんのには、すっげぇ苦労したぜぇ? ねぇ頭をすっげぇ使ったからなぁ!」
「ふむ、これはまた面白い能力の使い方をするものだ」
「ありがとよぉ! んでもって、認めてやる。悔しいけどよぉ、俺はこの場に立っている今でさえも、てめぇよりも圧倒的に格下だ。だがよ、格下には格下の戦い方がある! 認めるぜ? 考えるぜ? 粘るぜ? 根性見せるぜ? このダハクがなぁっ!」
いくらグロスティーナの下で死ぬ気で鍛え、バッケから竜人化の術を叩き込まれたと言っても、この短期間では伸ばす力にも限りがある。だからこそダハクは、今持っている力で勝てる方法を考えた。寝る間も惜しんで――― となると、疲労で本来の力を発揮できなくなるので、寝る時は素直に寝て、起きている間に何とか考え抜いた。
オーラを行き渡らせた 飢える猛樹(ビーストツリー) には、ダハクと同等の『格闘術』が備わるようになる。つまりステータスでは劣れども、疑似的に複数人の自分で格闘戦を挑む事ができるようになったのだ。成果の一端である猛樹達による数の理、ボガとムドが作り出した地の利、この日の為に準備した様々な理を活かし、ダハク達はハオへと挑む。
「ほぉぉぉあぁーー! ほぉあっ! ほぉあっ! ……ほぉぉあああ!」
……ちなみにグロスティーナは、なぜか遥か上空で叫びながら舞っていた。