軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第198話 白翼の地

上空から降下する最中、改めて 白翼の地(イスラヘブン) を見渡す。やはり浮遊大陸と言うだけあって、なかなかに広大だ。

白翼の地(イスラヘブン) の印象として、まず最初に挙がるのは街の少なさだろう。と言うか、浮遊大陸の中心部のみにしか、天使達の街は存在しない。唯一存在するその街の名は、天の都『サンゼルス』。ここにしか街がないのに、都なのはこれ如何に? とも思ってしまうが、古くからそう伝わっているのだから、今更突っ込んでも仕方がない。兎も角、このサンゼルスには天使達が生きていく上での衣食住、その全てが揃っているのだという。

建造物の殆どは白銀色で、セラの好みとは真逆の神々しいデザインで占められている。まあ、街全体がデラミス大聖堂みたいな感じ、って言えば分かりやすいか。デラミス大聖堂も同じような色合いだったし、もしかしたら同じ素材で造られていたり? 太陽光が反射して、慣れないと眩しいくらいだ。だからこそ、街から感じられる神々しさが倍増しているのかもしれないが…… コレットがこのサンゼルスを訪れたら、その身に秘めた信仰心を抑え込む事ができずに、二重の意味での聖地巡礼をし始めそうだ。ほら、メルのかつての故郷でもある訳だし、尚更にやばそうだろ? うん、やばそう…… あと、かつて天使の長達が居たという『叡智の間』も、このサンゼルスの中枢に位置しているらしい。

「衣食住の全てを賄っていると言っても、それほど良い場所ではありませんよ。次代の神候補として厳しい規律がありましたし、食事は必要な栄養素を摂取できればそれで良いという、何とも食べ甲斐のない固形食ばかりでした。娯楽も酷いもので、瞑想と大図書館での知識の習得、推し活に――― コホン! ……神に対する信仰活動くらいしか、やる事がありませんでしたから」

「メルにとっては厳しい環境だな」

「その通りです! まあ、そんな経緯があったからこそ、あなた様とも出会えたのですがムッシャムシャ(ポッ)」

頼むから、顔を赤らめながら飯を食わんでほしい。まあ、天使の取り纏め役であるラファエロさんでさえも、あんな感じだったんだ。一般的な天使が重要視しているのは、推し活という名の信仰なんだろう。故郷を飛び出したメルとは、根本的に価値基準が異なっている。

「ドロシーとケルヴィムは、っと…… どうやら一直線に、そのサンゼルスへ向かったみたいだな。確かに、あの街中からはでかい気配を二つ感じるが、さて」

残る十権能のうち、二人がそこに居るとして、他の奴らは――― ああ、居た居た。

三人目、あのでかい山の頂上。配下ネットワークに構築した地図情報から察するに、あれは 白翼の地(イスラヘブン) で最も標高の高い『エンベルグ神霊山』である筈だ。遥か空の上空に佇む浮遊大陸、その中で一番高いところにある場所という事で、神の住まう領域に最も近い神聖な場所、ともされているんだそうだ。その分空気が薄く、いや、殆どないに等しい環境である為、天使達でさえも頂上に登る事はできないんだとか。

「なるほど、面白い場所を戦場に選んでくれたもんだ」

「エンベルグ神霊山に向かったのは、ダハク、ムドファラク、ボガ、そしてグロスティーナの四名ですね。という事は……」

「ああ、まあそういう事なんだろう。俺も死ぬほど興味があるけど、流石にあいつらの邪魔はできないからな。あそこはパスしておこう。よし、次」

……おし、見っけ。けどこいつ、随分と大陸の隅の方に居るな。既に地上へ降り終えたジェラールが、必死の猛ダッシュして向かっているみたいだけど、まだまだ道のりは遠そうだ。

「場所的には、ええと……」

「 白翼の地(イスラヘブン) を浮遊させている心臓部の一つですね。確か、そこはメインの動力部になっていた筈です。他にも幾つかの予備があった筈ですが、破壊されると色々と厄介な事になるかと」

「げっ、マジかよ。 白翼の地(イスラヘブン) を地上にぶつける、なんて馬鹿な事をあのチビッ子が言っていたけど、本当にそうなったら洒落にならないぞ」

「ジェラールの鈍足だと、到着が大分遅れそうね。ケルヴィン、私もそっちの方に行ってみるわ。何だか嫌な予感がするし」

「セラ、お前が言うと大体本当の事になるんだから、あまり不吉な事を言うなよ…… だがまあ、セラに任せれば安心か。よし、頼んだ!」

「フフン、頼まれてあげる!」

魔法を詠唱、速度を倍加させる 風神脚(ソニックアクセラレート) をセラに付与させる。その直後、セラは紅のオーラを纏い、宙を全速力で駆け抜けて行った。おー、 風神脚(ソニックアクセラレート) 込みとは言え、また一段と速くなったものだ。

「……セラに譲ってよろしかったのですか? あの場所から感じる気配、エンベルグ神霊山のものと同じくらい強いものでしたよ?」

「まあ、それはそうなんだけど…… あそこまで遠いと、俺の欲望が我慢できるか怪しい」

「あ、ああ、そういう事ですか。ご馳走を目の前にしたら、尚更ですからね…… では、あそこの五人目は?」

メルの視線の先、そこにはエメラルド色に澄んだ湖、そしてその中央にそびえる、ひと際大きな巨樹があった。湖だけでなく、その巨木自体もエメラルドカラーで、実に幻想的な光景だ。

「あの巨樹は『世界樹』と呼ばれる、奇跡そのものです。先ほどのエンベルグ神霊山と同様に、天使達から神聖視されています。葉を煎じれば万病に効き、枝を体に箇所を固定すれば、数分後にはどんな骨折も完治、中には死人が蘇ったという逸話もあるほどでして。私も子供の頃、よくお世話になったものですよ」

「え、子供の時に何かあったのか? もしかして、昔は病弱だったとか……?」

「いえ、駆けっこをして転んだ時などに、こう、葉をむしっと」

無造作に何かを掴み取るような、そんな仕草をしてみせるメル。何か、とはメルが言う通り、世界樹の葉っぱな訳で――― って、いやいや、お前自分で奇跡そのものとか紹介しておいて、気軽に何やってんの!? 天使達に神聖視されてるって事は、そういう事じゃないの!?

「清楚な私も、あの頃は年相応にやんちゃだったのですよ」

「お前さぁ……」

妻の新たな過去を知り、嬉しいような悲しいような。が、俺の背中に居るシュトラは全く違う感想を抱いたようで。

「ねえねえ、メルお姉ちゃん。世界樹って私も御伽噺として知ってるけど、その世界樹だったりするの?」

「ええ、その世界樹だったりしますよ。 白翼の地(イスラヘブン) は見ての通り浮遊大陸ですから、何かの拍子で落葉した世界樹の葉が風に乗り、地上へと舞い降りる事があるのです。それが伝説の基となり、世界のどこかに世界樹と呼ばれる伝説の巨樹が存在するんだ! ……といった風に、言い伝えが出来上がった訳ですね。癒しの効果だけでなく、樹木の大きさも世界一だとか、地域によって表現が大袈裟になっているところもあるようですが」

「わあ、本当にそうなのね! 凄い凄い!」

「シュトラ、珍しく興奮気味だな。そんなに凄い事なのか?」

「うん、とっても! 実は私、地図を見た時から気になっていたの。世界樹の近くに敵がいるのなら、私はそこに行く!」

おっと、シュトラも行先決定か。だけど、あの世界樹近辺に向かった奴は、先行組に居なさそうなんだよな。流石にシュトラを一人で向かわせるのは、お兄ちゃん、ちょっと心配だ。

「メル」

「分かっていますよ。私も世界樹へ向かいましょう。シュトラ、私の背に」

「はーい」

よじよじと俺の背からメルの背へと、シュトラが移動する。

「それで、結局あなた様は如何されるのです? 六人目の場所ですか?」

「いや、それが十権能の六人目、いくら気配を探っても全然見つからないんだよな。どっかに隠れているんだろうが…… って、セルジュとシン総長もどこに行った? 全然気配がしないぞ?」

「隠密モードで六人目を捜している、といったところでしょうか。或いは、隠密モードでお宝探し?」

「あー……」

どっちもあり得るし、どっちも自由人だから予想がつかない。まあ、最低限の仕事をしてくれるとは思うし、今は二人を信じるとしよう。となれば、今俺が選ぶべき道はどれだろうか?

「―――よし、決めた」