軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第199話 遮る者達

世界樹がそびえる湖、そこには十権能の一人である元支配神、レム・ティアゲートが居た。湖の 辺(ほとり) に腰掛けた彼女は足先だけを水に入れ、時折ちゃぷちゃぷと水を跳ねさせる。長閑な環境、そしてレムの幼い容姿と相まって、その光景は平和そのものだ。

「来た……?」

何かを察したのか、軽く動かしていた足を止め、レムは背後を振り返る。そこへやって来たのは―――

「やあ、可愛らしいお嬢さん。一人? 今暇? 私とお茶しない?」

「………」

―――セルジュ・フロア、可愛らしい女の子が大好きな、歴代最強美少女勇者であった。セルジュはレムの姿を見るや否や、あろう事か脊髄反射でナンパを仕掛けたのだ。平和だったこの場所が、一気に何とも言えない空気に包まれ始める。当たり前だが、レムも眉をひそめて警戒している様子だ。

「何でよりにもよって…… 貴女がここに……」

「え、そんなに驚いてくれるの? サプライズにしようと思って、わざわざ気配を消して来たんだよね。いやはや、頑張った甲斐があったってものだよ~。じゃ、ちょっと待っててね? こんな時の為に、私ってば早起きして、お弁当を作って来たり~」

「た、食べません、よ……?」

「ええっ!?」

当然の反応に、セルジュはマジなショックを受けていた。どうやら、本気でナンパをするつもりだったようだ。

「い、いやいや、そんな即決で断るものじゃないってば~。私、料理においても完璧美少女だから、拙くも努力の跡が垣間見える、好感度爆上げなお弁当に仕上げて来たんだよ? 愛情たっぷり、レムちゃんを想いながら作った、超絶愛のお弁当! 食べたら会心の一撃、間違いなし!」

「ますます、どうでも良い、です…… 貴女の目的はいまいち、よく分かりませんが…… 私の目的は、とても明白、明瞭、です……」

―――ズザザァァーーーン!

レムの言葉を合図に、世界樹の湖が一気にせり上がる。初めから何かが 湖(そこ) に潜んでいたのだろう。その数は凄まじく多く、そして巨大であった。

「おっと?」

流石のセルジュもそんな状況では会心弁当を出す事ができず、湖から距離を置くようにバックステップで後退していた。

「何だ何だ、君達は? 私はこれから連れとデートなんだ。邪魔しないでほしいなぁ」

「誰が、連れですか…… むしろ、この子達が私の連れ、なのです……」

湖から出現したそれらは、言うなれば質量を伴った影のような存在で、辛うじて人型のシルエットを保ってはいるが、そのどれもが黒い靄を纏い、酷く朧気な状態だった。大きさには個体差があり、2メートルほどの者が居れば、10メートルに届くほどの巨躯を持つ者も居た。そららは湖から次々と這い上がり、 辺(ほとり) へ、そして更にその先へと侵食していく。空いた隙間はすっかり影に埋め尽くされ、神秘的であったあの光景は、今やどこにも見当たらない。

(うへー…… 話には聞いていたけど、流石にこれは多過ぎない? 何これ、数百ってレベルじゃないよね? 数千、下手をしたら万までいっちゃうかも?)

弁当をどのタイミングで取り出そうか、未だに迷っていたセルジュであったが、流石にこうなってしまっては無理だなぁと、状況の見極めへとシフト。漸く本格的に戦う気になったようだ。

「ふぅん? こんなに連れが居るのなら、少しは警備役に回した方が良かったんじゃない? それとも、あんまり遠くまでは展開できないとか?」

「そんな事は、ありません…… けど、教えてもあげません……」

「なるほどなるほど。下手に分散させるよりも、こんな風に戦力を一ヵ所に集中させて、確実に撃破する事を狙った訳だ? 何だかんだ言って、私の事を評価してくれているんだね、レムちゃん! 好き好きッ!」

「な、何言ってるの、この人……?」

レムを余計に困惑させる事に成功したセルジュであるが、状況はあまり芳しくない。幻想的であったエメラルドカラーの湖が、今や漆黒の巣窟へと変貌してしまった。つまるところ、右も左も敵だらけなのである。

(敵が増えて一大事、でもそれより不味いのは…… とっておきのデートスポットが、台無しになっちゃったって事! こんなところに来て喜ぶの、悪魔くらいなものだよねぇ……)

……正直なところ、この場面でそれは比較的どうでも良い事である。だがまあ、セルジュが考えている通り、前者だったらまだしも、後者はデートスポットにはなり得ないだろう。どこかの死神なら異論を唱えていたかもしれないが、生憎とセルジュにはそのような趣味がなかった。

「レムちゃん、支配の神様だったんだよね? それ、一体何を支配しているのかな? そんなのは 奈落の地(アビスランド) にも居なかったと思うんだけど、私の気のせい? 倒したら周り綺麗になる?」

「し、質問ばかり、ですね…… わざわざ教えてあげる義理は―――」

「―――当然、ないよね~。うん、知ってた知ってた~」

苦笑しながら聖剣ウィルを抜き、徐に刃を分裂させていくセルジュ。二振りのウィルは四振りになり、更に八、十六と得物の数が倍々に増えていく。

「面白い剣、ですね…… けれど、その程度の数では―――」

「―――全っ然足りないって言いたいんでしょ? 大丈夫、私は量より質のタイプだから。それに沢山の敵を相手するの、結構得意だし?」

「あ、あの…… できたら私の言葉、遮らないでください…… グスッ……」

泣きそうになってしまうレム。だが、これを何とか堪える。僅かに涙を溜める程度で我慢する。

「ご、御託はもう沢山です……! 貴女がどこの誰であろうとも、私の人形達には、決して―――」

「―――ちょっと待ってぇーーー!」

「ッ!?」

真上より聞こえて来たその叫びに、セルジュとレムは空を見上げた。そこには猛烈なスピードで迫るメル、そしてその背に掴まるシュトラの姿が。

「よっと! ……ふう、何とか間に合ったようですね。急いだせいで、余計なカロリーを使ってしまった気がします」

「ありがと、メルお姉ちゃん。私の我が儘で急いでもらって、ごめんなさい」

「いえ、良いのです。それよりも…… どうやら私達、注目を一身に浴びているようで」

そう言って、メルは面倒臭そうに辺りを見回す。そこは今も尚、湖から敵が増殖を続ける敵陣の真っただ中。既にメル達の周りは、敵の影だらけとなっていた。

「フッ、どうやら今日の私、いつにも増して幸運みたい。まさかレムちゃんに続いて、シュトラちゃんまで来てくれるとはね! 私、『絶対福音』に初めて感謝しちゃいそう♪」

「ちょ、ちょっと! 別にそういうつもりで来た訳じゃないよ!?」

「……あ、あれ? あの、私は?」

話の中に自分の名前が出て来ない。その悲しい事実に気付いたメルは、自らの顔を指差し、何を訴えかけるようにセルジュに確認する。

「え? あー、いや、うん…… しょうみ、転生神メルフィーナは何か違うかなって」

「ど、どういう意味です!? 私、自分で言うのも何ですけど、それなりに容姿は整っている方だと思いますよ!? ほら、十七歳ですし!」

「 十七歳(それ) 、私の世界ではツッコミどころだからね? それに何でと言われても、いまいちピンと来ない! ……としか、言いようがないと言いますか」

「む、むきぃぃぃ!」

「メ、メルお姉ちゃん、落ち着いて! 他の誰が何と言おうと、ケルヴィンお兄ちゃんはお姉ちゃんの事が好きだから!」

ギャーギャー、ギャーギャーと、世界樹周辺が一気に騒がしくなる。周りを取り囲む影達も、どうしたものかと微妙に困っている(?)ように見える。そんな中、一人だけ流れから取り残されたレムは、全身を小刻みに震わせており―――

「うう、グスッ、グスッ…… 私の、話、グスッ…… 遮らないでって、言ったのに…… あまつさえ、む、むむ、無視され、てる……! うっ、うっ、うううっ…… うわぁーーーーーん!」