軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第182話 超原石磨き

ケルヴィムの 聖杭(ステーク) に乗って、ケルヴィン達は中央海域を離れて行った。 聖杭(ステーク) が隠密状態で行ってしまった為、その様子を見送れなかったセルジュであるが、今の彼女にとってそんな事は、むしろどうでも良かったのかもしれない。今最も大切なのは、彼女の広ーい眼鏡にかなった、ドロシーとの戦いに集中する事なのである。

「リオンとルキルさんの居る 聖杭(ステーク) からは大分離れた事だし、ここらで始めよっか。ドロシアラちゃん、準備は良いかな?」

『天歩』を使い空中を歩いていたセルジュが、チラリと視線を背後へと向ける。彼女の視線の先に居るのは、もちろん模擬戦相手のドロシーだ。ドロシーも空中に浮遊した状態――― ではあるのだが、フヨフヨに水中に浮かぶようにして飛んでいる為、足場を宙に固定する『天歩』を使っている訳ではなさそうだ。今のところ、何の能力を使っているのかは不明である。

「私は問題ありません。セルジュさんこそ、戦う心構えは整っているのですか? これから行うのは、あくまでも模擬戦です。しかし、今の貴女は鼻歌交じりの散歩の直後。些か集中していないように見えますが?」

「ありっ、私ったらそんな感じに見える?」

「ええ、とっても。ここに至るまで好きな食べ物は何だ、休みの日は何をしている、好きなタイプはどんな人、エトセトラエトセトラ…… 心底どうでも良い質問ばかり、私に投げ掛けていましたし」

「あはは、ドロシアラちゃんが相手なら、移動もまた楽しいからね、そう、言わばこれはデートも同然な訳で―――」

「―――そういった言葉遊びは要りませんので。折角リオンさんが見学しているんです。無様な展開にならない事を祈ります」

「それは私も同じ気持ちだよ? あんなに熱心に見ているリオンに、残念な気持ちをさせたくないから、ねっ!」

それは一瞬の出来事であった。鞘から聖剣ウィルを抜いたセルジュが、瞬く間にその形状を剣から弓に変え、つがえた矢をドロシーに向けて放ったのだ。閃光の如く迫る 聖弓(アルテミス) の矢は、正確にドロシーの頭部へと向かっていた。が、しかし。

「おっと、これは不思議現象。さっきケルヴィンに不意打ちしたばっかりだったから、対策していたのかな?」

「……先ほどのつまらない世間話の続きですが、私、自分勝手な人は嫌いですね」

矢はドロシーに当たらなかった。いや、ドロシーのところにまで届かなかった、というのが正解だろうか。光の速度で迫っていた筈の矢が、どういう訳かドロシーの間近で 停止(・・) してしまったのだ。

「 時伏せる(トゥジュール) 、私の『時魔法』、その新作です。セラさんが戦った十権能…… 確か、グロリアとか言っていましたっけ? 彼女は距離を操り攻撃を届かなくするという、興味深い権能を有していました。そこからヒントを得て、私の周りの空間のみを、結界の要領でグルリと時を止めてみたのですが…… フフッ、似たような能力が出来上がってしまいましたね」

セラとの戦いでグロリアの引き起こした現象は、永遠に届かない距離を周囲に作り出すもの。対してたった今ドロシーが引き起こした現象は、結界に触れた物体の時間を止め、強制的にその場に滞在させるというものだ。確かに経緯は違えども、結果は同じになっている。

「これであれば、どんなに凄まじい速度の攻撃も意味を成しません。まあ今のレベルであれば、この目でも捉える事はできるようですが」

ドロシーは僅かに身を逸らした後、パチンと指を鳴らしてみせた。すると停止していた矢は再び動き出し――― 射線上から外れたドロシーのすぐ真横を、彼女に掠る事なく通り過ぎて行ってしまう。

「……話には聞いていたけど、厄介な魔法もあったものだね。察するに、停止の他には早送りやスロー、或いは時間をスキップさせちゃうなんて事もできるのかな? それどころか時間を巻き戻す、なんて事までされたら、私としてはお手上げかな~?」

「さて、どうでしょうね? 私自身、今の自分がどこまでできるのか、全く把握していませんから。 ……それにしても、おかしいですね。セルジュさん、そんな風に考えているようには全く見えませんよ?」

「ありりっ、私ったらそう見えちゃう? フッフー、それなら少し嬉しいかな~。それってさ、私の本能が今も勝つ気でいるっていう、証拠みたいなものだもんね!」

にこやかにそう答えるセルジュは、 聖弓(アルテミス) からもう一本の 聖剣(ウィル) を分離、更に形状を変化させる。作り出すは、かつてバルドッグを一方的に屠ってみせた、対神用の決戦兵器――― 聖殺(カミゴロシ) 。ブゥオンブゥオンという大きな機械音を鳴らすチェンソーを、セルジュは苦もなく片手で携える。まさかと思うが、この組み合わせは 聖弓(アルテミス) で 聖殺(カミゴロシ) を射るつもりだろうか。

「怖いですね、それ。触れただけで酷い事になると、直感でそう分かってしまうほどに怖いです。恐らく私が発動させた時魔法も、それで概念ごと断ってしまうのでは?」

「んんー、本当に目が良いね! 御目目がくりくりしていて可愛くて、それでいて性能も良いとか最強か!? ……まあ、実際のところはどこまでやれるのか、私にも分からないんだよね~。ほら、神様を試し斬りできる機会なんて、滅多にないじゃん? だからさ、折角のこの機会を大いに活用して、理解度を深めようと思っていまして!」

「なるほど。セルジュさんの目的も、実のところ私と同じであったと、そういう訳ですか。尤も、やはり下劣な感情も見え隠れしているようですが」

「 下心(そっち) もバレたか~」

オーバーアクション気味に肩を竦めてみせるセルジュ。しかし、ドロシーはそんな彼女を無視して、次の実証実験へ移行していた。

―――メキメキメキ!

明らかに時魔法によるものではない事象が巻き起こる。ドロシーの両腕と両脚、その肉と骨が膨れ上がり、弾け砕ける不気味な音と共に変形していったのだ。

「ふぅ…… 肉体を変化させるのに1秒も要してしまいました。このままでは使い物になりませんね」

ドロシーの両腕は巨大な翼へ、両脚は鋭利な鉤爪を持つ鳥類のそれへと成り変わっていた。それまで手で持っていた大杖は片脚の方へと移動しており、捕らえられた獲物の如くガッチリと掴まえられている。

「今度は変身能力? ハーピー的な?」

「まあ、そんなところです。神鳥ワイルドグロウから力を授かった事で、こういった肉体の変形もできるようになったようでして。 ……さて」

大翼を羽ばたかせたドロシーは、空中をとんでもない速さで、それこそ先ほどのセルジュの矢と同等以上の速度で、縦横無尽に飛び回った。基本的なステータスもそうだが、『飛行』系のスキルも桁外れなものに進化している事が、嫌というほどによく分かる。

それから十数秒ほどして、辺りを一通り駆け回ったドロシーは元の位置へと戻って来た。宙返り等といった曲芸飛行も何度かしていた筈だが、息切れをするなどの疲れた様子は全く見られない。

「お待たせしました。動きに無駄が多過ぎますね、お恥ずかしい限りです」

「いやー、そこいらの竜王以上に動けていた気がしたけど…… ええと、もしかして他の神柱の力も使えたり?」

「ですね。神鯨ゼヴァルの力も取り込んでいますから、水中も苦にはならないかと」

「なら、当然神霊デァトートもか~」

そう言って、神霊を捕らえた時の事を思い出すセルジュ。単純な物理攻撃は全て無効化、光属性の魔法にも耐性があるかもと、僅かに冷や汗を流す。

「ですが、やはり鍛錬は必須でしょうね。どれもこれもが今のままでは原石止まり、真の輝きを取り戻す為には、まだまだ道のりが長そうです」

「そんなにバグめいた力があるのに、かい?」

「あるからこそ、ですよ。認めたくはないですが、これはケルヴィンから教わった事です。どんなに凶悪な能力も、どんなに強力なステータスも、持ち主の器や技量が伴わなければ宝の持ち腐れ…… だから、私は磨き上げるのです。この力を持つに相応しい、真の使い手となる為に」

「……うん、それ良いね。ケルヴィンからってのが気に食わないけど、その思想は私好みだよ。立ち止まるよりも、進み続ける方が性に合うってものだ。良いよ、私がどこまでもお付き合いしてあげる。デートじゃなくって、死合う方をね」

以降、二人は殆ど会話もなく実戦形式の模擬戦を続けた。予定されるタイムリミット一杯、寝食以外の全ての時を戦いに捧げた。互いが技を磨き、新たな発想を得て、勝負勘と勝負根性を養い続けた。全ては、最後に自分が笑う為に。