軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第178話 必要悪

俺達(干し肉に夢中なメル以外)は同時にモニターへと視線を移した。そこに映っていたのは、銀髪をツインテールに纏めた少女。幼い時のシュトラくらいの年齢だろうか? 尤も、ここのモニターをジャックして連絡を寄越して来るって事は、実際のところは全く違うんだろうが。

「ッチ、レムか」

「レムって、さっきの話の?」

「ああ、神アダムスの腹心にして、支配の神の異名を持っていた女だ。あんな見た目で性格も卑屈そのものだが、その能力はさっき言った通り侮れない。そう、能力だけは! 侮れないぞ!」

……それ、もしかしてケルヴィム的には善意の紹介のつもりで言っているんだろうか? 空気を読んでいるつもりだろうか?

「う、うう、卑屈なのは本当だし…… ひ、否定は、できないけど…… ひぐっ……」

お、おい、彼女泣き出しちゃったぞ?

「ケルヴィム、流石に今の紹介はちょっと……」

「最低ですね。変態の上最低とは、呆れ果てて言葉もないです」

「なぜだ!? レムの強みと弱みを同時に理解できる、この上ないほどに分かりやすい説明だったではないか!?」

「それはそうだけど、もっとこう、デリカシーをだな……」

「そんなもの、この場で何の意味がある?」

なるほど、こいつ相手にこれ以上の問答は無駄なようだ。

「ハァ、無神経堕天使はさて置きましょう。それで、貴女は何のつもりで連絡を寄越したのです? 盗み聞きをするのであれば、わざわざ姿を現す意味はないと思いますが?」

「ぐすっ、ぐすっ…… も、諸々の、警告をしに、来た……」

泣きながらの警告とは斬新だな。いや、更に攻めてしまう感じなってしまうから、声には出さないけど。

「泣きながらの警告とは斬新だな、レムよ!」

「ひうっ!?」

「……ケルヴィム、取り敢えず黙っておこう? な?」

「む、なぜだ?」

「話が進まないですし、見ていられないからですよ。この私に良心云々の説明をさせないでください、全く」

「む、むう?」

説得の末、ケルヴィムをモニターの近くから下がらせる事に成功する俺達。

「ええっと、それで何だっけ? ああ、そうだ。諸々の警告って事だったが、一体何の警告なんだ?」

「ま、まずはそこのケルヴィムに、対して…… エルドからの言伝……」

「俺に対して、だと?」

ああ、折角下がらせたのに……

「ケルヴィムが離脱するであろう事は、前々から予想していた…… 義体の特性を利用して、十権能の長の地位を狙っている、のだろうが…… 我々は、別段困ってはいない…… むしろ、不安因子が取り除かれて、良かったとさえ考えている……」

「ほ、ほう?」

ああ、ピキピキいってる。めっちゃピキピキいっちゃってるよ、この堕天使……

「おい、別段困っていないってのは、どういう意味だ? たとえケルヴィムの反抗心を知っていたとしても、義体の制限が解かれる訳じゃないだろ? お前達は 白翼の地(イスラヘブン) を出る事もできない筈だ。それとも、お前が権能を使ってまた侵攻して来るとでも言うのか? それはそれとして、俺は大歓迎―――」

「――― 白翼の地(イスラヘブン) 自体を、地上にぶつける事もできる……」

「あ?」

こいつ、今何て言いやがった?

「 白翼の地(イスラヘブン) は大陸規模の空中機動要塞…… それが地上に向かって衝突すれば、被害は甚大なものになる…… そう、私達が直接手を下すまでも、なく……」

「……お前らの義体、その生命線である拠点を失う覚悟で、そんな馬鹿な事をすると?」

「ひ、ひっ……! え、ええと、ええっと…… も、もちろん、これは手段の一つに過ぎないよ…… 過ぎないよ…… うう……」

「……何かごめん」

狼狽しまくるレムに対し、あろう事か謝ってしまう俺。何だろう、この子が相手だと凄くやり辛い。こっちが悪い事をしている気になってきてしまう。

「そ、それに、エルドはこうも、言っていた…… 戦いの事しか頭にない、ケルヴィンであれば…… 近いうちに、必ず我々の居る 白翼の地(イスラヘブン) へと攻め入って来る…… 我々は、上位者として悠然と、それを迎え撃つだけ…… じ、時間は有限、されどある程度は待ってはやる…… 道案内は、そこの負け犬にさせると良い、って……」

「へえ」

「ほう」

「ふむ」

「お、おかしいです。私の干し肉が、消えた……?」

俺にケルヴィム、ルキルの各々が短く声を発する。周囲の温度が一気に下がったかのような、張り詰めた空気へと早変わりした感じだ。極一部だけ場違いな感じがしないでもないが、張り詰めているって言ったら張り詰めているのである。

「それが警告なのか? 招待状代わりって訳じゃなくて?」

「こ、これは招待状でもあるけど、警告でもある…… ここへ来るという事は、魂を捧げる行為と同義であると、そう理解しておく事だ。って、エルドが言っていた……」

「「「………」」」

「うう、視線が怖い……」

なるほど、こいつは招待状なんかじゃない。俺達への挑戦状、或いは果し状の類だろう。こんな見え見えの挑発、普通は乗るべきではない。いくら魅力的な誘い文句だからって、安易に乗ってはいけないのだ。

「なるほど、そちらの主張は理解した。で、待ってくれる期間はどれくらいだ? できる事を全部やって乗り込んでやるから、その辺をハッキリさせておこうか。勿体振らずに教えてくれよ? なあ? なあ~? なあ~~~?」

「ええ、その通りですね。邪神に惑わされた十権能の皆様を、正しく聖なる道へと導く準備…… フフッ、色々としなくてはなりませんものね? 大丈夫、安心してください。何も怖くないですから。段々と幸せになっていきますから」

「レム、辞世の句を用意しておくように、エルドに言っておけ。事と次第によっては、貴様にも必要になるがな……!」

「ひ、ひぃっ……!?」

ならば、相手にどんな思惑があろうと、たとえこの誘いが罠であろうと、全部粉砕する気で乗っかってやるまで。幸い、同盟を結んだ二人も考えている事は一緒のようだ。エルドを倒すという目標を達成するまでは、仲良く行動ができそうである。

「き、期限は一ヵ月にするって、エルドが言っていた…… それを過ぎれば、我々は再び行動を開始する、って……」

「なるほど、ひと月か。了解した、その期日を鵜呑みにはしてやらないが、目安程度にはしておく。首を洗って待ってろ」

「ううぅ……」

―――プツリ。

モニターに映っていた画面が切れ、通信が終了される。結局あのレムって子、最後まで泣いていたな。何で連絡役をやらされたんだろうか?

「……なあ、勝手に通信されたって事は、向こうからの遠隔操作で 聖杭(ステーク) 自体を動かす事もできたりするのか?」

「それは不可能だ。 聖杭(ステーク) を動かせるのは内部に居る操縦者のみ。自動操縦に設定していれば、 白翼の地(イスラヘブン) へと帰還させる事はできるが、それも操縦者が予め内部から設定しておく必要がある。バルドッグはこれを使って 聖杭(ステーク) を 白翼の地(イスラヘブン) へと帰還させていたが、これと俺の 聖杭(ステーク) は現在そのように設定されていない」

「 白翼の地(イスラヘブン) の居場所を捜す方法として、私が考えていた 機能(もの) ですね。それを使えば、私達でも敵拠点を簡単に捜し出す事ができますから。しかし、また傍受されては厄介ですね…… ケルヴィム、通信機能をオフにする事はできますか?」

「無論、可能だ。特別に俺が直々に設定しておいてやろう。感謝するがいい」

「今日ばかりは感謝しておきますよ。私とて、 聖杭(ステーク) について全てを知っている訳ではありませんからね」

「レムの権能にも引き続き注意しておこう。隠密状態でこっそり 聖杭(ステーク) に侵入、知らぬ間に操縦されていたってオチは避けたい。あ、シュトラやコレットに 聖杭(ステーク) を調べさせても良いかな? まだ何か隠された機能があるかもしれない」

「許可してやろう」

通信前までの不和が嘘であったかのように、いつの間にか俺達は円滑に協力し始めていた。共通の敵ってのは偉大なもんだな。