作品タイトル不明
第177話 落としどころ
このままバトルを開始するのも魅力的ではあるが、それでは今後の活動展開が先細りしていってしまう。折角手に入れた2つの 聖杭(ステーク) 確保は絶対、十権能との決戦を前にルキルとケルヴィムがぶつかり合うのもNGだ。つか、どっちも然るべき時に俺が食う予定なんだ。こんなところで無駄な力は使わないでほしい。
「はいはい、お前らその辺にしておけよ? こんなところで力を消耗している場合じゃないって、賢いお前らなら分かるだろ?」
「当然です。と言いますか、なぜ貴方が上から目線なのですか? 恥を知りなさい」
「なかなかに建設的な意見だが、此奴の思想は危険過ぎる。大義を成した途端、直ぐ様にまた裏切りかねないぞ。今この場で処してしまった方が、今後の為になると思うが?」
「お前ら、どこまでも喧嘩腰のスタンスなんだな…… ルキル、当然と言うのなら、模範的な信者としての姿勢で示してくれ。ケルヴィム、どっちにしたって、今のお前は俺以外の奴といざこざは起こせないぞ」
「「むう……」」
俺の言葉を受け、二人は渋々といった感じで身を引いてくれた。まったく、手の掛かる協力者達だ。
『あなた様、なかなかの仲裁っぷりですね。本妻ながらに驚きです』
『あの台風みたいに個性的な弟子達の指導を暫くしていたからな。何か慣れて来たっぽいわ』
ルキルとケルヴィムは狂気的で破滅的な思想をしているが、それでもまだ話せる方だ。事実、どちらも口を出しても手は出さないからな。なら、お互いに利のある方へと誘導してやれば良い。より楽しい展開になる泥沼へと、ゆっくり、慎重に、確実に。
「話を纏めよう。十権能の長の処遇はさて置き、残りの十権能を生かすという考えは、どちらも同じなんだな?」
「ええ、大切な承認装置兼、真リンネ教の幹部候補ですから」
「他の者達は無能なエルドに従っているだけに過ぎない。頭が俺に変われば問題はなくなるだろう」
「意見一致だな。エルド以外の十権能とは戦いはしても、命までは取らない! 但し、これは余力がある時限定の話だ。こっち側もピンチだったり余裕がなかった場合は、最悪殺してしまう場合がある事を頭に入れておいてくれ」
「……まあ、仕方ありませんね」
「ああ、我々は全員が何かしらの権能を有している。楽な戦いなど一つとしてないだろう」
よし、一先ずここまでは納得してくれたようだ。
「肝心のエルドの処遇については、そいつとの戦いが決着してから決めれば良いだろう。ひょっとしたら、その時には誰かが戦闘不能になっていて、今みたいに言い争える状態にいないかもしれないぞ? その時に残った連中同士で片を付ける、もしくは運良く生き残った奴がいいとこ取りをする…… ってのは、どうだ? 一時的のものとはいえ、決戦前から協力者同士で争うよりは随分とマシになると思うけど?」
「意図して問題を後回しにすると、そういう事ですか。背は預けても油断はできませんね」
「俺はそれで構わん。ルキルが俺の同胞に勝てるとは思えんしな」
「貴方、一体どちらの味方なんです? 頭バグってます?」
「俺はいつでも神アダムスの味方だ」
「はいはい、止め止め。ったく、暇さえあれば争おうとするよな、お前ら。少しは理性的な俺を見習ってくれよ」
「「………」」
何だ、気が合うところも時もあるんじゃないか。そうやって仲良く「何言ってんだ、こいつ?」みたいな顔をして。俺は理性的だからな、今日のところは喧嘩を買わないでおいてやる。だが、後で絶対に買ってやる。買ってやるからな……!
「目標が定まったところで、計画を補強していこうか。ケルヴィム、聞いておきたい事があるんだが―――」
「―――残りの十権能の能力についてか?」
「……察しが良いな?」
「これから攻め入る立場として、これらの情報を欲するのは当然の事だ。であれば、察するのも容易い。それに、ルキルが権能についての情報を詳しく知っているとは思えんからな」
「あー、確かにその情報は微妙だったような……」
「フッ、やはりな。もう少し情報収集をしてから離脱した方が良かったのではないか? うん?」
「…… 聖杭(ステーク) の奪取と共に離脱するには、あのタイミングがベストだったのです。義体に施した制限についても、遠くないうちに発覚していたでしょう。どう考えても、あれ以上の長居は無用でしたよ」
得意気なケルヴィムとすまし顔のルキル。恐らく俺の知らないところでも、巧妙な情報戦があったんだろう。まあ、そこらへんは興味がないので割愛、さっさと肝心の本題へと移らせてもらう。
「で、同僚の権能について教えてはくれるのか?」
「ああ、構わない。元より俺はケルヴィンに敗北した身、断る権利などないさ。ルキルも、まあ…… 決戦の後に戦死しているのが最上ではあるが、これくらいの慈悲はくれてやっても良いだろう」
「貴方を含め、既に四名もの敗北者が出ていると言うのに、随分な自信ですね。ですがまあ、驕りが過ぎるというのは好都合、耳に入れて差し上げましょう」
「「………」」
「ふう、お腹が減りました……」
ルキルとケルヴィムの口喧嘩も割愛させてもらおう。メルフィーナには干し肉でも食わせておこう。
「―――現状、最も警戒しなければならないのは、『支配』の権能を持つレムだろう。奴の『支配』であれば、 白翼の地(イスラヘブン) の内部から外に脅威をばら撒く事が可能だ。他の十権能が外に出られない事実を知れば、その代わりにレムが操る何かが外に出る可能性は十分にある」
「ああ、確か対象を操り人形みたいに操作できる能力だったっけ?」
そういう意味では、うちのシュトラと似た力にも思えるかな。
「ルキルの話では、能力を使用できる数や範囲までは分かっていなかったな。その辺はどうなんだ?」
「数は少なくとも数万、範囲は最低でも視界に収まるもの全てだ」
「「……はい?」」
「モグモグ!(塩加減が絶妙!)」
予想の遥か上を行っていた能力に、思わずルキルと声を合わせてしまう。メルフィーナも同時に声を上げたようだが、多分こいつは違う事を言っていると思う。無視。
「何を驚いている? これでも権能を顕現させていない状態での限界だ。レムが権能を顕現させれば、更にそれら操作対象が能力を十全に使用できるようになる。操作範囲は…… 義体による制限もあるだろうが、大陸全土を支配下に置く事くらいはできるだろうな」
「いや、それは流石に規模とかが桁外れと言うか…… そのレムって奴、お前よりも強くないか?」
「そうですそうです! 貴方、名ばかりの副官だったのではありませんか!?」
「フッ、ここぞとばかりに声を荒げるではないか。確かに俺とレムは相性が悪い面もある。レムが魂の宿らないもの、例えば鎧などを操れば、それらに俺の『致死』の権能は効かないからな。だが万の鎧が集まろうとも、所詮鎧は鎧だ。レム本人の戦闘力は十権能の中でもバルドッグに並ぶ最低レベル、要は周りを無視して、レム自身を先んじて仕留めてしまえば良いのだ」
「理屈ではそうでしょうが、現実問題そう簡単に言い切れるものではないでしょう? 仮に創造の神バルドッグが残した武具の類が大量にあって、それらをレムが支配したら? ただの万の鎧と神話世界の万の鎧、その違いは天地ほどの差がありますよ?」
『その通り…… ひとつ上の立場のケルヴィムだからって、その言い草はいくら何でも滅茶苦茶……』
「ああ、俺もそう思――― うん?」
聞き覚えのない幼い声が、 聖杭(ステーク) のモニターから聞こえて来た。