軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第142話 想定外

人気のない僻地に突如として発生した爆発は、後に魔力の噴火口と呼ばれる事となる巨大クレーターを形成していた。広範囲に渡る地形変動は地盤を脆く崩れやすくし、クレーターの端の方では今も大地や岩などが崩れ落ちている。

―――ガラッ、ガラガラッ。

ふと、野生のモンスターも近付こうとしない穴の底で、積み重なっていた岩の一部が動き出した。そして岩をどかした隙間より、何者かが顔を出す。

「……ふう! 出れた出れた、生き埋めとか初めて体験しちゃったよ。こんな初体験、するもんじゃないね」

隙間から顔を出したのは、鎧を纏ったセルジュであった。口の中に土が入ったのか、ぺっぺと吐き出しながら、地上に這い出ようとしている。

「にしても、まさか武器を全部使って自爆をして来るとはね。頭おかしいんじゃないかな、あいつ。というか、眼鏡って自爆しがちじゃない? 私の気のせい?」

不満気なセルジュであるが、彼女は道連れ覚悟の自爆が間近で行われたというのに、生き埋めになりながらも生き残っていた。どうやらウィルを 聖鎧(ガラハッド) に急遽展開し、爆発耐性の性質を付与させる事で耐え忍ぶ事に成功したようだ。

「まっ、引く間際に止めを刺すのが間に合ったのは良かったかな? あんなに経験値が美味しそうな大物、みすみす自爆で逃すのはもったいなかったもんね。いや~、良かった良かった! 私は可愛くて偉いな~」

驚くべき事に、セルジュは生き残るだけでなく、バルドッグに止めの一撃を与える余裕もあった様子だ。突如として巻き起こった自爆の備えをし、バルドッグを倒す事で得られる経験値の事まで配慮していたのである。流石は世界最強の勇者と称するべきか、どこまでもちゃっかりしていると呆れるべきか――― どちらにせよ、彼女だからこそ成し得た芸当なのだろう。

「けど、こっちは逆に反省しなくちゃだね」

聖鎧(ガラハッド) を解除して下着姿へと戻ったセルジュが、ふと 今は無き(・・・・) 自らの左腕を見ながらそう呟いた。

巻き起こった爆発を 聖鎧(ガラハッド) で凌いでいた際、一本の長剣が彼女の死角より迫っていた。爆発による眩さと轟音で、視覚と聴覚が機能していない状態にあったセルジュは、この長剣の存在を察知するのにほんの一瞬だけ遅れてしまったのだ。セルジュは心臓目掛けて飛来したこの長剣を紙一重で躱したものの、長剣はその後に軌道を変え、再びセルジュの下へ。そして、 聖鎧(ガラハッド) の左腕の関節部を正確に射抜いたのである。しかも、直後に長剣が爆発するオマケ付きだ。結果的にセルジュの肘は吹き飛び、上腕部分も爆発で半分ほどが吹き飛んでしまった。

「私の『絶対福音』も効いてなかったみたいだし、因果を捻じ曲げるような能力を持った武器だったのかな? んー、ちょっと慢心していたかも、要反省。でも乙女的に傷は早く治したいから、早速治療しないとね~。 ……っと?」

千切れた左腕に白魔法による回復を施すセルジュであったが、何度回復を試みても欠損が再生する気配がない。説明するまでもないが、セルジュは魔法の腕も世界最高峰を誇る。そんな彼女が回復を失敗するなんて事は、まずあり得ない。となれば、要因は別にあるものだ。

「うげっ、これって呪いの類? それも、私の魔法を阻害するくらいに強力なやつじゃん! あの剣って呪いの武器でもあったの? どれだけ欲張りセットなんだよー……」

自身のステータスを見て、キッチリと呪いを受けている事を確認して、項垂れるセルジュ。どうやらこの呪いは回復を阻害するタイプのもので、解呪魔法も受け付けない最悪のものであるらしい。とんだ置き土産だと暫く嘆いていたセルジュであったが、取り敢えず傷口をどうにかしなくてはならないので、左腕に包帯を施す。

「良くはないけど、これで一先ずは良し、と。いやはや、まさか解呪魔法も効かないとは、本気で参ったね。最後の最期にとっておきを出して来るとは、あの眼鏡もやるもんだ。仕方ない、何年かこの呪いを馴染ませて、 神の救済(セイクリッドブレス) で加護に反転させようか。一時期、創造者がそんな研究をしてたの、聡明な私は知ってるもんね。上手くいけば、再生系の加護になってもっと強くなれるかも? わっ、これって私の強化フラグじゃん! やったね!」

ある意味で幸運は発揮されていたのだと、セルジュは物事をポジティブに解釈したようだ。隻腕の剣士ってのも格好良いし? などと、そんな事まで言っている。本当に反省しているのか、かなり怪しいところだ。

「って、さっきまで空にあった 聖杭(ステーク) の姿がないじゃん。十権能が死んだ時に備えて、自動で帰還する機能でも付いていたのかな? 逃げ足が速いなぁ、もう」

空を見上げたセルジュが、プンスカと地団駄を踏む。もちろん、本心ではあまり悔しがってはおらず、あくまでポーズとしてやっているだけのようだ。

「しっかし、間際になってあんな超越的な武器を作っちゃうなんて、やっぱり鍛冶の腕だけは神域だったっぽいね、あの眼鏡。色んな意味でもったいない奴だったなぁ。能力は突出してるけど、使ってる奴自身の戦闘面は微妙って言うか、鍛冶師が前線に出て来て何がしたかったんだって言うか…… あ、鍛冶ができて後衛職なのに、狂喜しながら前線に出る奴もいたっけ?」

素敵な笑みを浮かべる死神を脳裏に浮かべるセルジュ。だが、アレは神が相手でも例外だよなと、直ぐに思考から掻き消してしまう。満面の笑み、彼方へと消滅。

「ま、こんな事をいつまでも考えたって仕方がない。帰りが遅くなると皆が心配するし、そろそろ帰るとしようかな。自爆で綺麗に全部吹き飛ばしてくれたから、後片付けはオーケー。格好は私服に着替えるとして…… うーん、なくなった戦闘用の装備はどうしようかな? S級の装備なんて、そうそう見掛けるものでもないだろうし、かと言ってフィリップにねだるのも癪だし…… それよりだったら、水国の姫王様にでもお願いしちゃう? 四大国で唯一女の子が治めている国だし、今あそこにはシルヴィア達もいたと思うし! フフッ、夢が膨らむな~」

眼前の巨大クレーターは視界に入っていないのか、セルジュは早々に帰り支度を始めてしまった。どうやら環境破壊はそのままにして帰還するようで、おねだりは死んでもしないが、後始末は教皇のフィリップにぶん投げる気でいるらしい。実にセルジュセルジュな考えである。

「よーし、フリフリな私服にお着替え完了! 片腕だと着替え辛いね、どうも」

お気に入りの衣服に着替えたセルジュはご機嫌な様子だった。この後の行動に夢見て、妄想を膨らませている最中であるらしい。 ……だがしかし、実のところ彼女の言動と真意は全く異なっていた。

(あの眼鏡、どう考えても戦闘タイプじゃなかったね。それで私との戦いが成り立つんだから、これはちょっと洒落にならないかもなぁ。逆に言えば、あんな奴一人を寄越して来た敵さんは、今のところ大分慢心しているとも考えられるけど、実際はどうだろう? 今後中身が伴う十権能が組織的に動くようになれば、結構ヤバい相手になるのは確実っぽい。はぁ、やだやだ。私はもう守護者じゃないのに、何でこんな事まで考えないといけないのかなぁ? 心優しくて懐が深いって、損な役回りだよね)

行動が軽率に思われがちなセルジュであるが、彼女も歴とした勇者であり、ただ適当な事を口にしているだけではない。しっかりと先を見通し、今後どう動くべきかを考え、対策を練っている。彼女の本質は守護する事――― 漸く訪れたこの平和をどう維持すべきか、セルジュは真剣に向き合っているのだ。

「でも、私がやるしかないよね。そう、全ては全世界の美女美少女の為にッ!」

……想いはどうであれ、真剣に向き合ってはいるのだ。