軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第143話 ゴルディアの聖地

西大陸のとある場所に存在するゴルディアの聖地、人里離れた秘境の奥地にあるその場所には、四季に関係なく年中紅葉している木々があり、心を奪うほどに美しい景色が広がっている。しかし最大の特徴は何と言っても、天を貫かんと聳え立つ複数の岩石だろう。山の如く立ち並ぶその様は、中国の黄山にも似た雄大さを見る者に感じさせてくれるのだ。

「ふふ~ん、この景色は何度目にしても良いものねぇ。心が洗われるわん」

それら岩山の一つ、その頂上にて、聖地の眺めを堪能する者達がいた。かつてこの地で修行をし、ゴルディアを会得したゴルディアーナ・プリティアーナ、そして彼女の妹弟子であるグロスティーナ・ブルジョワーナである。

「確かに絶景ッス! けど、俺はプリティアちゃんの方が美しいと思うッスけどね! 身も心も、最早洗う必要がないほどに綺麗ッスよ!」

更にプラスして、ケルヴィン達に置き手紙を残したダハクもまた、このゴルディアの聖地を訪れていた。半ば無理やりに付いて来た形ではあるが、ゴルディアーナだけでなくグロスティーナとも仲が良かったのもあって、ダハクならまあオーケーと、そんな感じで了承されているらしい。

「あらやだ、熱烈な口説き文句ねぇ。お姉様が羨ましいわん」

「グロス、茶化しちゃ駄目よん。ダハクちゃん、そう言ってくれるのは嬉しいけどぉ、私は見た目ほど美しくはないのん。過去の過ちを糧にしてぇ、理想の自分を目指しているだけぇ…… 今の私は未だ道半ば、それこそ山の麓を登り始めたようなものなのよぉ。頂はまだまだ見えないわん」

「す、すげぇ! プリティアちゃんの志の高さは、俺の想像を軽く超えて行っちまうぜ! けど、これ以上神々しくなっちまったら、眩し過ぎて直視できなくなっちまう。それは困る、困るぜ。けど、けど―― それでも応援するってのが、漢ってもんだよな! プリティアちゃん、俺は見届けるッスよ!」

「フフッ、ありがとねぇ」

「あらやだ、こんな真っ直ぐな青春を見せられたら、私も魅せられちゃう!」

彼らの会話は控えめに言って地獄であった。少なくとも、ジェラールはそう断言するだろう。

「さて、と…… 聖地に来たからには、まずはお墓参りをしないとぉ。ダハクちゃん、一緒に来てくれるかしらん?」

「がってん! って、墓っスか?」

「……私の大切な人の、よん」

「ッ!!??」

ゴルディアーナの言葉を受け、ダハクに衝撃が走る。

「たたたたた、大切な人のぉぉぉ!? ……ま、まさかまさか、まさかプリティアちゃんの、かつての恋人の、ッスか? いいい、いや、もしやプリティアちゃんは未亡人だった!? いや、しかし、だがッ! あの溢れ出る色気から察するに、それもまた納得すべきと言うかなんと言うかうああああぁぁぁーーー!」

ダハクは混乱し、かつてないほどのメンタルダメージを負っていた。控えめに言って致命傷である。

「ダハクちゃん、落ち着いて。大丈夫よ、お姉様は未亡人じゃないわん。もちろん、今も独身よぉ」

「えっ?」

「ごめんなさいねぇ、言い方が悪かったかしらん? そのお墓はねぇ、私の御師匠様のなのぉ」

「そ、そうだったんスか……」

ダハクらがいるこの岩山の頂上には、辛うじて寝床となりそうな小さな建物と、鍛錬場らしき広場が設けられていた。狭い場所故に、設備はそれくらいしか見当たらない。残るは岩肌の隙間を縫って奇跡的に咲いた草花と、そこにひっそりと建てられた小さな墓標くらいなものだ。

「直立した岩山を登らないと来られないような、こんな場所だからねぇ。私達がお墓参りしないと、他に来る人がいないのよん。だからぁ、ダハクちゃんも一緒に来てくれるって言ってくれて、とっても嬉しかったわん」

「そ、それは光栄ッス! プリティアちゃん、俺、墓を掃除するッスよ! それくらいはさせてくささいッス!」

「あらやだん、それは妹弟子の私の仕事よぉ? いくらダハクちゃんだらと言っても、そこは譲れないわん!」

「もう、喧嘩しないのぉ。師匠の前なんだからぁ、仲良く協力してやりなさいなぁ。もちろん、私もお掃除しちゃうからねん!」

「プ、プリティアちゃんとの共同作業だってぇ!?」

こうして、三人は仲良く墓掃除をする事となるのだが…… 小さな墓標に対し、大柄かつ屈強な肉体を持つ三人が寄り添いながら掃除する図は、言葉に言い表すのも躊躇われるものだった。少なくとも、ジェラールなら心折れている。

「ふぅ~、綺麗になったわねん。ダハクちゃん、周りのお花ちゃんのお世話までしてくれてぇ、とっても助かっちゃったわん! 心から感謝のぉ、んん~~~…… チュッ!」

「ぐはぁっ! きょ、強烈な投げキッスがぁ、遂に俺にもぉぉぉ!」

ダハクは真後ろにぶっ倒れ、唐突にやって来た幸せに酔いしれた。一応は女神の投げキッスなので、何かしらの加護が与えられた可能性もある。まあ少なくとも、ジェラールならその副作用で卒倒していただろうが。

とまあ、そんな幸せ体験絶望体験はさて置き、ゴルディアーナの師の墓は綺麗に掃除が成されていた。漢女達の繊細かつ力強い雑巾がけは、石造りの墓を鏡の如くピカピカになるまで磨き上げ、本業のダハクが世話をする事で、周りの野花は瑞々しく咲き誇るに至ったのだ。

「お師匠様、きっと天国で喜んでいるでしょうねぇ。お姉様もそう思わない?」

「転生神になった私に、それを聞いちゃうのん? 師匠は探求心豊かだからぁ、天国に行っても退屈しちゃうと思うのぉ。だからぁ、きっとどこからの世界で転生して、また武の頂を目指してると思うわん。それこそが、私が憧れた師匠ですものぉ」

どこか遠くを見つめながら、ゴルディアーナは感傷に浸っているようだった。

「ヒソヒソ(なあ、グロス。プリティアちゃんのお師匠さんって、一体どんな人だったんだ?)」

「ヒソヒソ(あら、興味があるのん? それもまた青春ねぇ)」

「ヒソヒソ(ちゃ、茶化すんじゃねぇっての!)」

「ヒソヒソ(ウフフ、ごめんなさいねん。でもね、実は私も会った事はないのよぉ。妹弟子を名乗ってはいるけどぉ、聖地で鍛錬を始めた時には、もうこのお墓があったのん。お師匠様の事は、お姉様から話を聞いただけぇ)」

「ヒソヒソ(そ、そうなのか?)」

「ヒソヒソ(そうなのよん。お姉様曰くぅ、とっても強くて、それでいて優しくてぇ、更にはとってもダンディなナイスガイなお師匠様だったらしいわん)」

「ドストライクのべた褒め乙女じゃねぇか!」

思わず、ダハクが叫んでしまう。ヒソヒソ話はどこに行ったのか、山の向こう側にまで届きそうな叫びであった。

「ダハクちゃん、声がもろに出ちゃってるわん」

「あっ、いやっ、これは何でもなくって!?」

慌ててゴルディアーナに弁解しようとするダハク。が、当のゴルディアーナはなぜか空を見上げていた。

「珍しい事もあるものねぇ。二人共、お客様よん」

「え? あっ!」

「やだ、大きいわん……!」

ゴルディアーナの視線の先、そこにはいつの間に現れたのか、巨大な杭が滞空していた。そして、その杭の内部からフードを被った大男が一人、豪快に舞い降りて来る。今のところ、堕天使の証である漆黒の翼は見えない。しかし、その肉体が異様なまでに鍛え込まれている事は、衣服の上からも確認する事ができた。

「偽神、ゴルディアーナ・プリティアーナ、そしてその巫女、グロスティーナ・ブルジョワーナだな? 唐突な来訪となってすまないが、一つ俺と手合わせ願いたい」