軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第128話 血の鍵

「んだよ、てめぇは!?」

パウルは叫んだ。その矛先は突如として現れた謎の人物、漆黒の翼と天使の輪を顕現させた、女の堕天使――― ルキル。メルが対応している筈の彼女が、なぜかこの場所に出現したのだ。

「失礼、自己紹介が遅れましたね。私の名はルキル、世界平和を誰よりも愛する、信仰深い天使です」

「ハッ! 本当にそんな事を願う奴は、出会い頭にそんな事は言ってこねぇんだよ! そもそもお前、天使じゃなくて堕天使じゃねぇか! しかも、ルキルだぁ!? まさか行方不明の天使が、堕天使に堕ちていやがったとはなぁ!」

挨拶の所作に品の良さを感じさせるルキルに対し、パウルは遠慮のない言葉を投げつける。それでも、ルキルの表情は変わらない。いや、そもそもパウルの言葉など、最初から歯牙にもかけていない様子だ。

「心の在り方の話をしているのですよ。まあ、今は話を進める事を優先しましょうか。そろそろメルフィーナも、私の偽物に気付く頃合いでしょうし」

「何を言ってやがる!?」

「いえ、こちらの話ですよ。ああ、それと安心してくださって良いですよ。何も貴方達の命を取ろうとしている訳ではありませんし、訳あって協力をしている難しい立場ではありますが、私は世界各地で暴動を起こしている堕天使の一派ではありません」

「てめぇ、さっき自分が撒き餌とか言ってたのを覚えてんのか!? 明確に敵じゃねぇか!」

「兄ちゃ――― 兄上、ここは抑えろ。まずは彼女の目的を聞こう。我々を消すのが目的なのであれば、彼女はもうそれをやっている。そう、一瞬でそれをやるだけの力の差があるのだ。少なくとも、今の彼女に悪意はない」

パウルの横に並んだエドガーが制止し、更にアクスとペロナがその前に出る。

「第一王子、いえ、第二王子のエドガー様は聡明ですね。苦労して入手した『惑わしの魔香』を使った甲斐があったというものです。ええ、その通り、私の行動原理は全てが善意。だからこそ、先ほど仰っていたエドガー様の力にも抵触しません。憎しみは何も生みませんからね」

「ッ! こいつ、ぬけぬけと! 盗み聞きなんてしやがって……!」

「兄上、落ち着いて。それでルキル、だったか? 貴女の目的は一体何だ?」

「フフッ、そう警戒なさらずに。私の目的は、そうですね…… ある偉大なるお方の復権と言っておきましょうか」

「なるほど、まあ良い。では、余を餌に兄上を呼び寄せ、何をする気だったのだ?」

「少し話を伺いたかっただけですよ。パウル様、貴方はレイガンドの真なる第一王子、その認識で間違いはありませんね?」

「……? ああ、そうだ。だが、それがどうした?」

「そうですか。いえ、それならそれで良いのです。ではパウル様、ほんの少しだけ血を頂きますね」

「ああ!? ―――ぐっ!?」

ルキルが何をしたのか、この場にいた四人は認識できなかった。気が付けば、パウルの頬からは血が流れていた。何かナイフのような刃物で斬られたのか、頬に切り傷ができていたのだ。そしてルキルの手には、少量の赤い液体の入った小瓶があった。

「兄ちゃん!」

「て、てめぇ、何を……!?」

「何をと言われましても、私の発言と行動に矛盾はないと思いますが? この通り、ほんの少しだけ血を頂いただけです。では、用件が済みましたので、私はこれで」

「待ちやがれッ!」

意を決して駆け出し、パウルが手を伸ばすも、ルキルの姿は既になくなっていた。残っているのは宙を漂う、何枚かの漆黒の羽のみだ。

「クソッ、逃げられたか……!」

「兄ちゃん、今はそれよりも傷口を見るのが先だよ! ペロナ!」

「あいあいッス。ジッとしていてくださいッス、パウル様。僧侶な私がパパッと診断するッスよ~」

パウルの頬に手を当て、軽い口調のまま手当を開始するペロナ。彼女によれば傷口は浅く、軽く皮膚を斬られた程度のものであるらしい。ペロナが簡単な回復魔法を施し、頬の傷は数秒ほどで完治する。

「これでオッケーッス」

「ふう、一先ずは安心かな。誰一人死なずに済んで、本当に良かったよ」

「ちっとも良くねぇよ! よく分からねぇうちに、血ぃ採られたんだぞ、俺!?」

「まあまあ、命あってものですし。しかし、あの女はパウル様の血を手に入れて、一体どうするつもりなんでしょうか?」

「口振りからすると、兄ちゃんの、いや、本当の第一王子の血が欲しかったみたいだけど…… うーん、正直僕の知識じゃ、思い当たるものがないかな」

「血の活用ッスか。王道的に考えれば、儀式的な触媒として使う事もあるッスけど、それが第一王子のものでなければならない理由までは、ちょっと分からないッスね~」

「自分もそういった事に関しては、全くの門外漢でして…… パウル様はどうです?」

「馬鹿、俺だって冒険者一筋だったんだぞ? そんな事、知っている筈が――― あっ」

「「「あっ?」」」

何かを思い出したような声を上げるパウルに対し、エドガー達もつられて声を上げてしまう。

「兄ちゃん、何か思い当たったのかい?」

「いや、それがよ、エドガーがまだ生まれたばかりの頃に、馬鹿親父に血を採られた事があったような、そんな気がしてよ…… あの時に採った血、何か大事なもんに使うとか言っていたような、ええっと、何だったか――― ああっ!?」

「「「ああっ!?」」」

反響。不意に上げられたパウルの叫びに呼応し、エドガー達も叫びを上げてしまう。

「え、えと、兄ちゃん、どうしたの?」

「思い出したんだよ! 親父が俺の血を何に使ったのかをよぉ!」

「パウル様、まずは落ち着いて。ペロナ、魔法で気を落ち着かせてくれ」

「ういッス。 爽快(リリーフ) !」

「……思い出したんだよぉ!?」

「あ、駄目だ。この人血の気が凄いッスわ。 爽快(リリーフ) ! 爽快(リリーフ) !」

その後、十数回の 爽快(リリーフ) を使う事で、パウルは若干の落ち着きを取り戻すのであった。そして、ゆっくりと語り出す。

「……あの時に採った俺の血、親父はある場所の鍵として使ったんだ。王族の中でも限られた者しか知らない、レイガンドの秘中の秘に当たる場所だ」

「国にとっての極秘の場所、という事ですか」

「僕も知らない、そんな所があっただなんて…… そ、それで、兄ちゃん、その場所っていうのは―――」

「―――パウルぅーーー!」

「「「「ッ!?」」」」

エドガーの言葉を遮ったのは、再び聞き覚えのない声、否、パウルのみ知っている女性の声だった。次の瞬間に天より舞い降りたのは、蒼き翼を広げた天使――― ルキルと対峙していた筈のメルである。当然、パウル以外の面々は警戒する。

「今ここに、堕天使が来ませんでしたか!? どこに行きました!? 行先に心当たりは!?」

だが、あまりのメルの勢いの強さに押され、そのまま押し黙ってしまう。唯一メルを知るパウルも、彼女がここまで慌てる様子を目にした事がなかった為、少し動揺しているようだ。

「パウル、黙らない! ハリー!」

「お、おおう! た、多分だけどよ、レイガンドが管理してる、神柱の所に行ったんじゃねぇかと……」

「それはどこです!?」

「あ、案内しまっす!?」

こうしてパウルは天使に連れ去られ、取り残されたエドガー達はただただ呆然とするばかりであった。