軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第129話 復讐の魔女

パウルの肩を掴んで颯爽と誘拐を果たしたメルは、空を疾駆していた。ジェットコースター以上の絶叫マシンに強制乗車させられたパウルの叫びもまた、空を疾駆していた。

「で、その神柱を祀っている場所とはどこなのです!? 咄嗟に指差した方角に飛び出してしまいましたが、場所の詳細を聞かない事には始まりませんよ!」

「ううぅおぉああぁぁぁーーー!?」

「叫んでいては分かりません! この程度のスピードでビビらないでください!」

ケルヴィンの時もそうであったが、メルの鍛錬は少々乱暴である。こうして本日何度目かの地獄を見たパウルは、根性で道案内の役目を果たしていくのであった。

「なるほど、山間のそんなところに、神柱の隠し場所があったとは……」

「おおう! そこは年がら年中ぅ! 豪雪でよぉ! 雪と氷でぇ! 地面に建ってるもんがぁ! 丸っとぉ! 隠れちまうくらいなんだよぉぉぉ!」

再び、空にてパウルの叫びが走って行く。しかしながら、メルが知りたい情報は伝える事ができた。後はこのまま虹を吐かずに、根性で超スピードに耐えるだけだ。この試練を越えた時、彼はまた一回り大きな男として成長する事だろう。

「うおおぉぉーーー! 根・性ぉぉぉーーー!」

「パウル、少し黙ってください。叫びでルキルに気付かれてしまいます。 虚偽の霧(フォールスフォッグ) で姿を消している意味、ちゃんと理解していますか?」

「理ぃぃ不ぅぅ尽んんッーーー!」

パウルにとって、正に人生においての不幸が集約したかのような一日であったが、移動中に舌を噛まなかったのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。

それから少しして、メル達は目的の場所へと到着する。絶えず吹雪が降り注ぎ、全てを白で覆い尽すレイガンド第二の魔境、その名も『 白銀獄(はくぎんごく) 』。ちなみに、第一の魔境はレイガンド霊氷山となっている。

「到着です。パウルの話によれば、この辺りに目印の祠があるとの事ですが…… まあ、この雪で埋まっていますよね。まったく、何の為の目印なんだか。パウル、祠はどこです?」

「フ、フフッ…… 耐えた、俺様は耐えたぜぇ、エドガー……!」

「……パウル?(にっこり)」

「はいっ! あそこです、あそこですぜ! あの場所だけ、雪の積もり方が不自然なんで!」

メルの素敵な笑顔を目の前に、強制的に意識を覚醒させられるパウル。続けて、次の手順も説明していく。

「祠を見つけたら、そこから西の方角に方向転換! そっちに進んで最初にぶつかった大木から、北に二十七歩キッチリ前進! ちなみにここでの歩幅は、初代レイガンド王の基準に合わせたもので―――」

「―――パウル、私はシュトラではないのです。そんな長い工程、覚えられる自信は微塵もありません。よって、私にも分かるようにズバリ答えを言いなさい、答えを」

「ええっ!?」

その後、あの手この手で答えとなる場所を導き出したパウルは、目的地を何とかメルに示す事に成功。それはもう、死に物狂いで示したようだ。

「へへっ、俺様はやったぜ、エドガー……」

結果として、パウルは口から魂らしき何かを吐き出したながら、仰向けにバタリと倒れてしまった。流石のパウルも、ここで体力と根性が尽きてしまったようだ。

「なるほど、ここが神柱の秘匿場所……」

そんなパウルの遺言を捨て置き、辺りを見回すメル。彼女の視界には、青白い氷の壁で覆われた地下空間が広がっていた。その中央にはレイガンドの神柱が聳え立っており、更にその前には何者かの人影があった。

「雪で覆い隠された氷の大地の真下に、このような地下施設を作るとは、なかなかの驚きです。そして、この場所の封印を解く鍵が、あの血液だったという訳ですか。 ……ルキル」

メルと再び対峙するは、つい先ほどパウルから血液を奪取したルキル。不敵な笑みを浮かべる彼女の手には、もうパウルの血液が入った小瓶はなかった。

「……この国には悪しきドラゴンを神の使いが追い払ったという、建国時に起こったとされる伝説が残されています。民草はそれを歴史としてではなく、物語の一つとしか認識していません。しかし一部の王族のみは、それが実際に起こった出来事である事を、そして神の使いの大元がこの神柱である事を知っていました。凶悪なドラゴンをも追い返す、大いなる力…… それはレイガンドにとっての最後の切り札であり、決して外部に渡してはならない秘密事項となったのです」

「随分とこの国について詳しいのですね?」

「詳しいのは、何もこの国に限った事ではありませんよ。貴女が転生神として君臨していた間、私は数百年の時を準備期間に、暗躍し続けて来たのです。この地上において、私以上に世々に精通している者はいません」

「さて、それはどうでしょうね?」

メルとルキルは目を逸らさない。別に視線で火花を散らしている訳ではないが、互い胸の内を見透かそうとするように、ジッと、静かに見つめ合っていた。

「……歴代の王達は、他者にその力を渡す事を恐れたのでしょう。レイガンド第一王子の血液を鍵として使わなければ、この場所は崩壊する仕様となっています。無理に抉じ開け、崩れた場所から神柱を掘り起こすのは面倒ですし、何よりも十権能の目を掻い潜って、そんな事をしている暇はありませんでした。彼らの目的は、大いなる力を持つ神柱の破壊ですからね」

「だから、どうしてもパウルの血が必要だったと、そういう訳ですか。ですが、気に入りませんね。その言い方ですと、まるで貴女が十権能と結託していないように聞こえますが? 状況から見て、天使の長達の肉体を使って十権能を蘇らせたのは、十中八九貴女の仕業…… だというのに、十権能と目的が一致していないというのは、随分とおかしな話です。ルキル、貴女の目的は一体何なのですか? 神柱を使って、一体何をしようとしているのです?」

「………」

メルの言葉にルキルは押し黙り、そのまま踵を返して神柱の方へと歩み出した。二歩三歩、ゆっくりと、確実に。彼女の見せた背中は一見無防備であったが、不思議とメルは先に手を出す気にはなれなかった。彼女に触れてはならないと、本能的にそう思ってしまったのだ。神柱の目前にまで近づいた時、ルキルは不意に口を開いた。

「……私が十権能に命じられた任務は、先代転生神メルフィーナの排除。随伴する十権能の任務は、この神柱の破壊でした。もちろん、私は任務を遂行する気はありません。十権能に神柱を破壊させる気もありません。だって、だって―――」

声を、そして全身を徐々に震わせ始めるルキル。更に彼女は、メルの方へゆっくり振り返ろうともしていた。異様なルキルの様子の変化に、当然の事ながら、メルは警戒心をより強めていった。何が起こっても冷静でいる為に、心を落ち着かせていった。

……しかし、振り返ったルキルの表情を目にしたメルの心は、その瞬間に大きく乱される事となる。ルキルの瞳の奥に宿るは、ピンク色をした見事なハートマークだったのだ。まるでコレットと1対1で出会ってしまったかの如く、背筋が一瞬で凍る。その他諸々の圧が肌を刺し、メルの心に恐怖を植え付けて行く。何だこれは? 何なんだ、彼女は? こんなものがこの世に存在して良いのか? 許されるのか? と、恐怖と同時に、そんな疑問が次々に思い浮かんで行く。

「―――だって、私の願いはメルフィーナ様に、転生神を続けて頂く事ですから。未来永劫、天壌無窮、ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっと! ずっと、ずっとぉぉぉ! ……私の理想の神として、君臨して頂く事ですから(はぁと)」

「ヒィッ……!?」

数百年という長い年月は、復讐の魔女を狂信者へとクラスチェンジさせていた。それもドス黒い、最悪の狂信者へと。