軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第124話 内紛の間に挟まりたい男

俺達の目の前に現れたのは、鉄っぽい仮面を被った大柄な堕天使だった。仮面だけでなく、全身が金属製の装甲で覆われていて、ジェラールみたいにガッチガチの守りとなっている。今の見た目だけだと、とても天使とは思えない風貌だ。天使の翼や輪はまだ顕現していない状態だから、正確には堕天使なのかもまだ不明ではあるのだが…… 自分で十権能と名乗っている辺り、まあ堕天使なんだろうと思う。何よりも、奴が纏っている強敵オーラが本物のそれなのだ。そこらの堕天使とは一線を画しているのは間違いない。

しかし、『笛』のリドワンだって? 何だろう、変わった二つ名だな。音を使って戦闘でもするんだろうか? 見かけによらず、アートと同じタイプとか? オカリナとか出したりしないよな? まあ、それも戦ってみれば分かる事か。よし、戦おう。

「嬉しい台詞を言ってくれるじゃないか。偽神だとか使徒だとか、まあそこそこのツッコミどころはあるけど、今はそんな事なんてどうでも良い気分だ」

「ならば、これ以上の言葉は不要。作戦を実行―――」

―――ガァン!

「「!?」」

お楽しみの時間が始まろうとしていたこのタイミングで、唐突に奴、リドワンの頭部から結構な打撃音が鳴った。金属製のバットで頭部をフルスイングしたような、そんな音だ。当然ながら、俺達はまだ攻撃を開始していない。むしろ、ポカンとしてる。

「リドワン様、勝手に何をされようとしているのですか?」

「……ルキル、貴様こそ何のつもりだ?」

「ああ、やはり喋れたんですね。少し安心しました」

リドワンの背後に、金髪の美女が颯爽と現れる。俺の見間違いじゃなければ、杭の中から彼女が飛び出し、そのままリドワンの頭に強烈な踵落としを食らわせたように見えた。言葉遣いこそ丁寧だが、彼女からはリドワンへの敵意が見え隠れしている。何だ何だ、仲間割れか? なら、二人の間にちょっと俺も入らせてくれ―――

「―――って、ルキル? アンタ、ルキルって名前なのか? 天使達の間で行方不明になってる、あの?」

「……ええ、その通りです。お久し振りですね、メルフィーナ」

「久し振り、という言葉すら足りないほどに久しいですけどね、ルキル」

意外な事に、彼女は自身がルキルである事を素直に認めた。メルも頷いているから、嘘でない事は確定だろう。リドワンとは違い、こちらは翼と輪を顕現しており、その色は漆黒で統一されている。つまるところ、堕天使カラーである。むう、雲行きが怪しくなって来た。一応、ラファエロさんから捜索願いが出ていたんだけど…… 十権能と一緒にいる辺り、そういう事だと理解して良いのかな?

「リドワン様、メルフィーナの相手は私がやるというお話でしたよね? だと言うのに勝手に抹殺を開始するなどと、馬鹿な真似はしないでください。殺しますよ?」

うん、そういう事なんだな。そういう事だと完璧に理解した。ハハッ、図らずも戦う口実ができてしまったぞ。

「私は 聖杭(ステーク) の防衛に出たまでだ。それよりも貴様、漸く尻尾を出したな? 姑息な女狐め。だがしかし、約束は守ろう。私には他にすべき事がある」

そう言うや否や、上空へと舞い上がり、飛び立とうとするリドワン。当然、俺はそこに待ったをかける。今日一番の反応速度でかける。

「おいおい、そんなつれない事を言うなよ? まだ一戦も交えていないんだぜ?」

『魔力超過』込みの 風神脚(ソニックアクセラレート) を自分に付与し、大急ぎで回り込む。他の目的とやらが何なのかは知らないが、それよりも俺に構って頂きたい。

「……ルキル、出番だ」

「私はそちらの方には興味がありません。抹殺してくださって結構です」

「………」

なかなかに勝手な美人さんである。しかし、なるほど。段々と話が見えて来た。ルキルは堕天使ではあるが、十権能と完全な協力関係にはないらしい。そして、彼女が執着しているのはメルのみ。悲しい事だが、俺には毛ほどの興味もない様子だ。まったく、どこの天使もメルに夢中だな。軽く嫉妬しちゃうよ。

『メル、折角のご指名だ。ルキルの相手は任せても良いか?』

『はて、因縁をつけられるような心当たりはないんですけどね。まあ、それで構いませんよ。あなた様はそちらの十権能を?』

『ああ、今はこいつに興味関心マックスだ。喜んで相手させてもらうよ。ムドとロザリアは攻撃の余波が地上に向かわないように、その辺の気を配っていてくれ。敵の実力は未知、どれだけ激しい戦いになるか分からないからな』

『承知致しました』

『了解』

―――ガシャン!

という訳で、十権能リドワンと改めて対峙する。向こうもやる気になってくれたようで、堕天使の翼が顕現して…… いや、何か違うな。メルフィーナやルキルは魔力を掻き集めて、それが翼として視覚化できるようになった形だけど、 リドワン(こいつ) が今背中に出した翼は、妙にメカメカしいものだった。二足歩行のロボットに装着されている、ハイテク飛行ユニット? うん、言ってしまえばそんな感じである。ガシャンて音出したぞ、ガシャンて。ぶっちゃけ未来的で格好良いし、うちのゴーレムに取り付けたい。参考資料として貰えないかな?

「……その仮面の下がどうなっているのか、確認するのが今から楽しみだよ」

「無意味な感情だ。貴様はここで断罪されるのだからな」

「そうかい! そいつもまた楽しみだ!」

宙を蹴り、リドワンへと突貫を仕掛ける。対する奴は――― あ? 仁王立ちのまま静止だと?

「来い。受け止めてやろう」

「ハッ! サービス精神旺盛じゃないか!」

どうやら 奴(やっこ) さんは、自分の耐久力に余程自信があるらしい。そういや、さっきも俺の一撃を弾いてくれたんだったな。じゃっ、お言葉に甘えて直に見せてもらおうか!

―――ギィギィン!

すれ違いざまに首元に一鎌、土手っ腹にもう一鎌を食らわせる。次いで聞こえて来たのは、 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) で斬ったとは思えない鈍い音だった。

「ハハハッ! マジで斬れないのかッ!」

もう一度切り返して奴の背中や翼に大鎌を振るうも、結果は同じだった。リドワンが纏っている装甲や翼には傷一つ付いておらず、逆にそれらに触れた瞬間、 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) の刃が欠けてしまう。嘘偽りなく、リドワンは 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) を真っ向から防いでくれたのだ。っと、歓喜に震えている暇はない。ここは冷静に、そう、理性的に。そうやって何とか理性を保たせ、並列思考のいくつかを解析に回す。

大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) がまだ杖に付与されているのを見る限り、シルヴィアの固有スキルみたく、魔法を無力化している訳ではないらしい。俺の認識では、 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) には万物を斬り裂くって概念が宿っている。それに対抗するって事は、ジェラールの『斬撃無効』みたいな、絶対に破壊されないって概念を装備に付与している可能性が高いかな。ん? ああ、そうか。『笛』じゃなくて『 不壊(ふえ) 』なのか。やっぱその線が濃厚そうだ。

「これで分かったか? 貴様の攻撃では、私に傷一つ負わせる事はできん」

「ああ、分かったよ。もっと創意工夫が必要だって事がな!」

大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) に『魔力超過』を限界まで施し、その暴力性を増幅させる。大鎌自体も凶悪に肥大化して、杖を持っているだけでも制御が難しい状態へと移行。ただ、今はこのじゃじゃ馬っぷりが頼もしく感じられる。

「創意工夫と言いつつ、やっている事は出力を強化するのみか。底が浅いな」

「何事もまずは基本からだろ? それに、俺だってこれで解決するとは思っていないさ。お前はもっとワクワクさせてくれるって…… そう信じているからなぁっ!」

俺が大鎌を振りかぶって前に踏み込むと、リドワンも前傾姿勢になりながら翼からバーニアを露出させ、激しい炎を噴出。俺達は真正面から激突しようとしていた。