軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第125話 不壊

極大化させた大鎌を奴が纏う装甲の繋ぎ目、所謂可動部をなぞる形で叩き付ける。じゃじゃ馬の制御は困難、だからこそ正確に精密に大鎌を扱い切り、最高のタイミングでリドワンを八つ裂きにした――― つもりだったんだが。

「懲りないものだな」

「クッ……!」

大鎌はリドワンを断つ事ができず、再びその刃が欠けてしまう。更に猛烈な速度で迫る鋼鉄の肉体が、俺に衝突しようとしていた。接触する間際に体を捻り、俺はこのタックルをギリギリのところで回避。思惑は外れてしまったが、こちらだけダメージを負うという、最悪な事態は避けられた。

やっぱ、単純に出力を上げただけじゃ駄目か。まあ、これは流石に予想通りである。しかし、あの機械的な翼の噴出込みのものとはいえ、スピードも結構出るもんだ。普通、アレだけガッチガチに防御を固めていたら機動力は落ちるものだが、瞬発的な速度でいえばセラくらいの速さはありそうだ。強固で速い、つまりは危ない。走る凶器である。

「フフッ、困ったなぁ。万が一にも当たったら、吹っ飛ばされるだけじゃ済みそうにない。ああ、困ったよ。どうしてくれようか!」

「何を笑う? 気でも触れたか? まあいい。ならば、今直ぐ楽にしてやろう」

翼のバーニアが噴出向きを調整して、かなり無理のある軌道を描きながら、リドワンが再びこちらへと向かって来る。旋回能力も良好、これが十権能の基礎値であるとすれば、他の面子も相当に強い事に―――

―――ダァダァダァダァダァダァーーーン!

「おおっと!?」

突然の轟音に思考を遮られ、そして驚く。それは紛れもない銃声で、それも連続したものだった。迫り来る弾幕を躱しながら、その大元を注視する。未だに続いている銃声を鳴らしていたのは、いつの間にやら奴の右肩に装着されていた、機関銃のような大層な代物。撃ち終わった 薬莢(やっきょう) が絶えず放出されているし、もろに実弾だ。いやいや、お前本当に天使かよと!? つうか、本当にいつそんなデカブツを取り出した!?

「む? この対応の早さ、貴様銃を知っているのか? ならば、なるほど…… 転生者か!」

銃弾の全てを躱す俺を見て、リドワンが俺が転生者である事を言い当てた。まあ、俺にとってそんな事はどうでも良く、今は銃弾の嵐を堪能するのが先決だ。類似品としてゴーレム達にガトリング砲を装備させていたが、リドワンの 機関銃(こいつ) は連射性と弾丸のサイズが、それらとは段違いだ。途切れる様子もないし、『保管』から弾薬を無限補給しているんだろうか? 色々とゴーレム作りの勉強になる。

ただ、このまま回避を続けるのも埒が明かないか。連射で銃身が駄目になるとか、銃弾が底を尽く様子もないし。なら防御壁を拵えて、ちょいと準備を―――

―――バキバキバキッ!

あ、駄目だ。 絶崖黒城壁(アダマンランパート) をリドワンとの直線状に作り出した瞬間、奴の弾丸が壁を粉砕しやがった。なら、 螺旋超嵐壁(テンペストバリア) で―――

―――ザシュザシュザシュッ!

クライヴ君との思い出の魔法、ここに破れる。はい、これも駄目と。触れた物体を削り取る筈の 螺旋超嵐壁(テンペストバリア) が、弾丸に威力負けして貫通、穴だらけになってしまった。対して、敵の弾丸は全くの無傷な状態を維持している。どうやらあの機関銃から放出される弾丸にも、リドワンの不壊能力は付与されているようだ。

……自身が身に着けている装備、そしてあの機関銃のように、そこから放出される備品にも効果は適用されると見るべきか。バトルラリーを完遂した俺からすれば、まあ躱すだけなら容易ではある。が、一発でも当たれば体に大穴が開いて致命傷かもな、これは。

「砕けよ!」

「よっと!」

加えて、この強烈な弾丸タックル。これもジェラールの突撃を受けるようなもので、まともに食らえば骨まで砕けてしまいそうな威力がある。攻防一体とはこの事だろうか。壊れないってのは厄介だな。あの天使らしからぬ装備といい、隠している武装もまだまだありそうだ。

さて、ここまで見て来た中で、一番有効そうな手は 栄冠の勝利聖域(シャイニングローレル) だろう。恐らく、奴が謳う『不壊』とやらは固有スキルに類するものだ。その固有スキルさえ無効化してしまえば、こちら側の攻撃も有効打となり得る。ただここで問題なのが、 栄冠の勝利聖域(シャイニングローレル) は必要な魔力量が多過ぎて、クロメルの『怪物親』が発動している時でないと使えないという点。そしてクロメルは現在…… そう、ルミエストにいる! ぶっちゃけ、今は使用不可な状態なのだ。

「逃げ足だけは一級品か。蠅のようによく逃げ回るものだ」

「蠅だって、一生懸命に生きているもんでね! 大食の毒泥沼Ⅲ(マッドグラトニー・トリプル) !」

その代わりの策がこれだ。弾幕を躱しながら詠唱するは、A級緑魔法【 大食の毒泥沼(マッドグラトニー) 】。俺の魔力を大量の泥に変性させたこいつは、言うなれば 束縛の毒泥沼(コンタミネートバインド) に意思を持たせた泥のゴーレムだ。這うのではなく、幽霊みたいに不気味に宙を移動する為、この 空中(せんじょう) でも活躍する事ができる。何よりも体を構成しているのが泥だから―――

「むっ?」

―――いくら弾丸で貫かれようとも、肉体が再構成されて直ぐに復活する。更にメルみたいに食欲旺盛なもんだから、俺に敵意を向ける者を貪欲に食べようとしてしまうのだ。さあ、自慢の防御力は毒性や拘束にも力を発揮するのかな?

「オオオォォォッ!」

魔力超過による強化で通常よりも俊敏に動き、粘性と再生力と質量が大幅に向上した 大食の毒泥沼(マッドグラトニー) 。リドワンの敵意を察知し、押し寄せる津波の如く奴へと襲い掛かる。

「小癪なぁぐおおっ!?」

流石のリドワンも沼の中に飛び込むのは遠慮したいのか、背後へと大きく後退しようとしていた。が、それを俺が黙って見ている筈がなく、こっそり奴の背後に仕込んでおいた 重風圧Ⅲ(エアプレッシャー・トリプル) 、真横版を発動する。物理的な壁に対して無敵だとしても、重力の網はまた話が別、負荷自体は無効化されている訳ではない。圧に押されたリドワンは前の方へ飛ぶ込む形で、 大食の毒泥沼(マッドグラトニー) に飲み込まれていった。

「ングングング……」

咀嚼して味わうかのように、その大口を動かす 大食の毒泥沼(マッドグラトニー) 。泥の中でいくら機関銃を連射し、バーニアを噴射させて脱出を図ろうとも、 大食の毒泥沼(マッドグラトニー) はどこまでも纏わり付いて行くだろう。さて、これで窒息してくれれば話は早いが、少しばかり期待外れな感がある。

「まあ、それでも加減はしてやらないけどな。 栄光の聖域Ⅲ(グローリーサンクチュアリ・トリプル) 」

大食の毒泥沼(マッドグラトニー) の内部に囚われたリドワンを対象として、更なる拘束魔法を詠唱する。 Ⅲ(トリプル) の魔力超過を施した 栄光の聖域(グローリーサンクチュアリ) は、対象を拘束するリングが3つから6つに増え、俺に対する筋力・魔力の強化値も通常とは段違いな代物だ。普通であれば、これで完全な詰みとなるもんだが、どうなるかな?

「―――権能、顕現」

「へえ……!」

突如として、リドワンを封じ込めていた 大食の毒泥沼(マッドグラトニー) 、そして 栄光の聖域(グローリーサンクチュアリ) が轟音と共に爆ぜた。眼前で巻き起こる激しい爆発、泥を焦がす嫌な臭いが、リドワンが拘束を抜け出した事を物語っていた。そして、たった今俺の視界に映った奴の姿は、先ほどとはまた様変わりしており――― その、何だ。もう天使としての原形がないほどに、銃器が山になっているような状態で、奴は姿を現した。仮面も剥がれ、どう見ても生身でない、メタリックな素顔が露わになっている。外どころか中身ももろにロボじゃねぇか、最近の堕天使は近代的なんだな。

「……まさか、この姿になるとはな。想定以上に多芸、その点は認めよう」

「それはどうも。それより今の爆発、その大量の武器を使った訳ではないよな? それとも、バズーカでも取り出したのか?」

「爆発反応装甲、リアクティブアーマーの応用だ」

「ん? 何だっけ、それ? ええっと、聞いた事があるような気もするけど……」

「理解する必要はない。この姿となったからには、即刻抹殺する。死ね」