軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第108話 十権能

「……シン総長、今はそのような事を言っている場合ではないし、貴女の立場からしても不適切な発言―――」

「―――はいはい、テンプレな回答ありがとさん。けど、今はそんな言い争いをしている場合じゃないだろ? しっかりしてくれよ、アート学院長」

「………」

窓枠に腰掛けたシン総長は、自分から売った喧嘩だというのに、今になってそんな当たり前な事を言い出した。全ての冒険者の上に立つ者だけあって、発言も行動も自由である。まあ、見習うかどうかは別として。

「さ、ここからは真面目な話だ。ケルヴィンが試合をしている間に、私の方でも怪しい奴を捜していてね。ざっと十数人はとっ捕まえて、ぐるぐる巻きにしておいたから。多分そいつら、全員堕天使だ。まっ、下っ端だろうけどね」

「ぐるぐる巻きって……」

「ハハッ…… し、しかし、よく一試合中という短い時間で、そんな沢山の人数を捕まえる事ができましたな? 端的に言って凄まじい仕事振りでござるよ」

「う、うん、そうだね。僕と雷ちゃんも同じように捜し回ったけど、結局クロメル達を見つけただけだったのに」

「そうだそうだ! 私とリーちゃん、廊下を走ってまで稲妻的な? スピード出したじゃん! それ以上に効率的になんて、絶対あり得ないし!」

「ああ、それは簡単な話だよ。他の連中はそこのデカブツよりも実力的に劣っていたみたいだし、何よりも私は足で稼ぐような真似はしていないからね」

「ん、んんっ? どゆこと?」

リオン達が首を傾げていると、不意にシン総長が懐から銃を取り出した。アートとの試合でも使っていた、あの得物である。

「だって私、悪事を働こうとしている人に当たりますよ~に! って念じながら、この銃を適当にぶっ放していただけだもの。そしたら、特製の麻痺弾が勝手にどっかに行って、結果的に見事テロリストに命中してさ~。私が他にやった事と言えば、銃弾の気配を追って気絶した奴らを 簀巻(すま) きにしたくらいかな。いやはや、楽な仕事だったよ」

「て、適当にぶっ放した……?」

「無茶苦茶じゃん!」

笑いながら話す総長のふざけた内容に、皆は呆れるしかない。しかし、適当に銃弾を撃っただけで、狙った対象へ自動的に向かって行く能力、か。アートとの試合も見応えがあったけど、総長はセルジュや刀哉みたいな、幸運系のスキルでも持っているのかね?

「それよりもシン総長、そちらの尋問の結果は?」

「ああ、そこのデカブツと同じ事を言っていたよ。邪神と大天使が復活するっていうお告げだかを聞いて、降臨前に世界の大粛清に励んでいたようだ」

「邪神に大天使、粛清…… うう、何だか新しい情報が沢山出てきて、混乱してきました……」

「あー…… すみません、この通りスズも混乱してるんで、俺達にも分かるように説明してもらっても?」

奈落の地(アビスランド) ――― 今でいう北大陸の『邪神の心臓』に直接行った事もあって、僅かながらに邪神の知識を得る機会はあったけど、あくまで触りくらいの情報だった。その辺の邪神やら堕天使の関係を、俺も改めて知っておきたい。

「詳しくとは言っても、私自身そこまで詳しい訳じゃないんだよねー。この星が誕生した頃の神話の話だし」

「そんなに大昔!?」

「何しろ、神々の戦争に敗北した邪神を封印する場所として、この星が誕生したとする説があるくらいだ。滅ぼされた邪神の心臓と大天使の肉体は世界のどこかに封印、従っていた者達も天使としての格と力の押収後、共にこの世界に幽閉されたとされている」

「フン、神々にとってこの世界は、それ自体が牢獄だったって事ね。ちなみにだけど、邪神に加担した天使以外の生物は、それが何の種族であれ、全て悪魔として扱われ、北大陸に押し込まれていたのは知ってる? 天使としての位が剥奪されたとはいえ、その後は普通に社会に溶け込めた訳だし、堕天使は悪魔よりかはマシな処遇だったんじゃないかしら? まったく、私達としては迷惑な話よ」

不機嫌なベルが、吐き捨てるように言う。悪魔や魔王に北大陸内での戦争、ベルはもろにその影響を受けて育った立場だからな。機嫌が悪くなる気持ちも分かる。分かるけど、だからと言って俺の足を蹴り続けるのは止めてほしい。 脛(すね) は痛い、痛いから。

「ホント、困ったもんだよ。今回捕らえた堕天使達は、所詮は当時の堕天使ではなく、その末裔の者達だ。正直な話、神話時代に何が起こっていたのか、詳細までは知らないみたいなんだよね」

「詳しく内容も知らない癖に、こんな大事を起こしたのかい? 計画性があるのかないのか、微妙な奴らだねぇ」

「粛清というのもぉ、無差別にやり始めたら厄介ねん。ところで、その粛清対象は誰になっているのん?」

「ホラス曰く、邪神に敵対、対抗し得る実力者らしいぜ? この場合、国ってよりも個人を指してるみてぇだ。で、いの一番に狙われたのが―――」

「―――俺か?」

光栄かつ歓迎するけど、また何で俺なんだろうか?

「まあケルヴィン君でなくとも、この対抗戦には多くのS級冒険者が集まっていた。場合によっては私やシン総長、他の面々も狙われていたかもしれないな」

「それにしちゃあ、戦闘力の認識が甘かったようだけどねぇ?」

「はいはーい、まだ話に出てない大天使ってのは~? 名前的に、堕天使の中で幹部面してる感じ?」

「 面(つら) かどうかはさて置き、大体はその認識で合っているよ。彼ら大天使はかつて、『 十権能(じっけんのう) 』と呼ばれていたらしい。神話時代に邪神の手足として動いていた、神直属の実行部隊なんだそうだ」

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空を彷徨う天空の大地、『 白翼の地(イスラヘブン) 』。天使達が住まうこの地は、平時であれば天使であろうと内外からの出入りは一切なく、所謂鎖国状態にある。が、今日この日は例外中の例外に当たっていた。エルフ以上に平穏を好むとされる天使達も、心なしかどこか、いや、相当に落ち着きのない様子だ。

「遂にこの日が来たな」

「ああ、新たな転生神が降臨なされる。まさか、この偉大なる日に立ち会う事ができるとは……」

「実力と内面に功績、穢れも皆無と、長達も問題なしと判断されたそうだ。早ければ、もうじきお触れが出されるだろう」

「女神様、どうかこの世界に新しい光を……」

この通りである。しかし、それも仕方のない事だろう。何せこの日は新たなる転生神、新たなる女神として、ゴルディアーナが神として正式に認定される日であったのだ。ちなみにであるが、次期転生神であるゴルディアーナの姿を知るのは天使の長達のみで、まだ一般の天使達には公表されていない。そう、されていないのだ……

そういう訳で、桃色女神ゴルディアーナは特殊な方法を用い、天使達に姿を晒す事なく、長達が集う『 叡智(えいち) の間』へと転移を行っていた。ここへ足を運ぶのはもう何度目かの事で、もうこの転移にも慣れたものである。 ……但しこの日、 叡智(えいち) の間でゴルディアーナを待っていたのは、いつもの長達ではなかった。

「あらん? 私ったら、転移場所を間違えちゃったかしらん?」

「いいや、間違ってはいない。しかし、そうだな。偽りと言えども、神がそのような姿をしているのは、何かの間違いだと願いたいものだが…… まあ良い、時代は移り変わるものだ。許容しよう」

転移したゴルディアーナの眼前には、見覚えのない十人の天使達がいた。天使達の輪と翼は黒く染まっており、邪悪としか言えない異質な気配が漂っている。

「初めまして、今代の偽りの神よ。私は『 十権能(じっけんのう) 』の長を務めるエルド・アステルという者だ。ああ、別に覚えてくれなくても良い。代わりにと言ってはなんだが、早々に滅されてくれ」

中央に控えていた赤髪の男がそう言った次の瞬間、 叡智(えいち) の間は眩い黒の光に包まれた。