軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第99話 楽しもう

「シーちゃん、一体どうして……?」

結界云々はさて置き、どうして 彼女(ドロシー) がここにいるのか、なぜケルヴィンの欲望を刺激するほどの力を垂れ流してるのか、詳細は未だ不明のままだ。特に友人でありルームメイトでもあるリオンは、まだこの事実を信じられないでいた。そして経緯がどうであれ、兄であるケルヴィンが大喜びしているこの状況を、どう対応したものかと悩んでもいた。

(勢いで結界を何とかしようって流れになったけれど、ベルちゃんの言う通り、多分ケルにいだってその事は分かっている筈。その上であんなに楽しそうにしているし、むしろ邪魔するべきじゃないのかな? なぜなのか分からないけど、シーちゃんの強さも底が見えないし…… ううーん!)

兄の安全の確保、 生き甲斐(バトル) の優先、友人の正体の解明――― 果たして何を取るべきだろうか。まあ、リオンの答えは最初から決まっているようなものなのだが。

「……ベルちゃん、この場は任せても良い? 結界は壊さなくても良いから、会場全体の安全を見守る感じで!」

「助けに入らなくて良いの?」

「うん、ケルにいが助けを求めたら別だけど、今のところ楽しんでいるみたいだし」

「……ハァ、なるほどね。身近に理解者がいて、あの異常者も幸せ者だわ」

ベルもリオンの意図を一瞬で理解したようだ。そういう彼女も、セルシウス家に対する理解がなかなかに深い。

「それで、リオンはこれからどうするの? この場を私に任せるって事は、どこか他のところに向かうのでしょう?」

「僕はクロメルを捜しに行くよ。ケルにいに目の前の戦いに集中してもらうには、クロメルの安否が一番のネックになると思うから!」

「ふーん、どこまでも兄想いなのね。ドロシーは良いの?」

「うん、シーちゃんも多分大丈夫! 僕が心配する必要もないくらい、強いみたいだし!」

まったく、この戦第一ファミリーは。ベルはそんな事を考えながら、電気を迸らせながら彼方へと消えて行くリオンの背中を見送るのであった。

「待っち待っち! リーちゃん、私も一緒に手伝うってばー!」

その後を雷竜王のラミが、これまた稲妻となって追いかけて行った。雷の如き二人が手分けして学園内を捜し回れば、クロメルの所在も直ぐに発見できそうである。

「ふむ、何やら緊急事態の様子。ベル殿、拙者は如何しようか? 学園の仲間として協力するぜよ」

「んー? じゃ、舞台が壊れないように魔力供給装置に魔力を送り続けていて。結界が変わっても、舞台自体の性質までは変わっていないでしょうから」

「む? 舞台を壊すのではなく、修繕するのですかな?」

「ええ、そうよ。正体不明となった あの子(ドロシー) が、自分から檻の中に入ってくれたんだもの。下手に野放しにして、周りの観客を危険に晒す訳にはいかないでしょう?」

「おお、なるほど! 流石は成績トップのベル殿! では、拙者は舞台の修繕に努めるでござる!」

グラハムはベルの指示に大きく頷き、颯爽と舞台の魔力供給装置へと向かって行った。

「よし、どの程度の戦いになるのかは分からないけれど、まあこれで暫くは大丈夫でしょ」

控室に唯一残った出場生徒のベルは、非常に満足した表情を浮かべながら頷いていた。リオンとラミがクロメルの捜索に向かい、グラハムが舞台の修繕に、アートは先ほどの試合が終わってから行方不明と、今や控室には他のメンバーは誰も残っていない。

「じゃ、私はここでゆっくり観戦させてもらおうかしら。リオンの言い付け通り、これでも会場を見守る事には変わりないもの」

そう言って、ベルはクロトの分身体からビーチチェアにサイドテーブル、そして南国風のフルーツジュース、更には揚げたてポテトを取り出して、バカンスの如く寛ぎ始めてしまった。止めとばかりに、雰囲気作りのサングラスまで掛けている。

「フフッ、いつかセラ姉様が言っていたものね。遊ぶ時は大いに遊び、休む時はゆっくり休むもんだって。そして、これがセラ姉様から聞いた究極の安息スタイル……! パパの近くだと煩くてそれどころじゃないし、学園生活の中だと優等生で通らないとで、なかなか実践するタイミングがなかったのよね。周りが慌ただしく動いている今こそ、絶好の機会だわ。今ならちょうど目の前で、打って付けの余興も開催中よ。フフン♪」

フルーツジュースにささったストローを吸いながら、ここぞとばかりにバカンス気分を味わうベル。その姿は敬愛する姉の真似をしたがる、年頃の妹そのもの――― ではあるのだが、なぜこのタイミングに? という疑問が大いに残る。ただ、ベルはベルでこの事態の事を何も考えていない訳ではなかった。

「黒女神を倒した戦闘馬鹿があの程度の輩に負けるとは思えないし、別に私が動く必要もないものね。わざわざこの対抗戦を利用して出て来たってところは気になるけど、まあ何とかなるって私の勘が言ってるし。どうしようもなくなったら、流石に多少は動いてあげるけど…… どうせ、姿を消した学院長やら先覚者やらが、裏で火消しに動いているんでしょ? なら、やっぱり何の問題もないわね。さて、ドロシーがどの程度やってくれるのか、お手並み拝見といきましょう」

ベルは最後に「パパやセバスデルが近くにいない休日って、やっぱ最高ね!」と、そう締め括った。彼女の近くに控えていた分身体クロトは、「何か知らんけど、苦労してんやな……」と、生温かい目でベルを見守っていたという。

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ルミエストのメンバー(ベル以外)が慌ただしく動く最中、ケルヴィンはあるメッセージを発見していた。高熱の何かで焼いたような黒焦げ跡が、ケルヴィンの向かい側に当たる会場の壁に、こっそりと隠すようにして残されていたのだ。

『僕達がクロメルを捜すから、試合に集中集中!』

それは猛烈な勢いで会場の端を駆けて行ったリオンが、走る際に発生する電気で記したメッセージであった。ケルヴィンや他のS級冒険者達、またはそれに準ずる力を持つ者達しか視認できない速度であった為、一般の観客達には何か光った? 程度にしか認識できていない。

(リオンからのメッセージ、電気で文字跡を残すとは器用な。つか、やっぱりサプライズじゃなくてトラブルだったのか。解説のアナウンスからして、大分怪しかったもんなぁ。どこの誰だかは知らないし、クロメルに何かあったらマジで許さん! ……けど、今はリオンのお蔭で戦いに集中できるってもんだ)

戦意を高めていた一方で、クロメルの行方も気になっていたケルヴィンは、リオンのメッセージに心から安堵していた。信頼する家族がこっちは大丈夫だから、戦いに集中しろと言っているのだ。ケルヴィンは親馬鹿ではあるが、同時に家族も心から信頼している。だからこそ、もうケルヴィンの頭の中は 敵(ドロシー) の事で一杯だ。

「取り敢えず俺が勝ったら、君の知っている事を全部吐いてもらう。それで良いかな?」

当たり障りのない笑みを浮かべるドロシーは、虚空より武具を取り出す。ケルヴィンの黒杖ほどもありそうな大杖を右手で掴み、禍々しい魔力を放つ書物を左手側の宙に浮かばせたのだ。

「構いませんよ、どうせ負けませんし。ああ、ちなみにこの会場にいる生徒に何人か、私の制御下にある人質が混じっています。下手な事をするのはお勧めしませんが?」

「人質? ああ、そんなの別に構わないよ。問題ない」

「……は?」

あっけらかんとそう答えるケルヴィンに対し、ドロシーは初めて表情を崩した。

「さあやろう、直ぐにやろう。戦いは待ってはくれないぞ? 鮮度が大事だ!」

「……あの、私の言葉を理解していますか? 貴方が動けば、大勢が死ぬ事になるんですよ?」

「いや、それで俺が動かなきゃ、今度は俺が死ぬ事になるじゃないか。なら動くだろ、普通。それなら思いっ切り戦った方がお得だし。まっ、きっと他の誰かが何とかするだろ。いやー、助かったよマジで。クロメルが相手だったら、パパとしてどう戦うべきかと悩んでいたところなんだよー」

「………」

予想の斜め上を行く返答に、ドロシーはただただ沈黙するしかなかった。

「さっ、そろそろ 前菜(ぜっせん) はお腹一杯だ。もう メイン(バトル) を始めても良いか? 正式なメンバーじゃないんだから、試合開始の合図も必要ないんだろ?」

こうなってしまえば双方が戦いに合意(?)したようなもので、次の瞬間に戦いが巻き起こるのはごく自然な流れであった。