軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第83話 変身と変態は紙一重

「試合、開始ぃぃぃ!」

これまで以上に気合いの入った試合開始の合図を送るランルル。彼女の声が響き渡った舞台では、リオンが魔剣カラドボルグと劇剣リーサルを鞘から抜き、ラミが両手に雷を纏わせ、筋肉二人が両手を大きく広げていた。見た目や意味合いは違うだろうが、各々からは攻撃的な圧が放たれている。

「さて、開始されたのは良いけれどぉ、まずはこれを決めなきゃねぇ」

「おう、そうだな!」

戦闘に参加する人数が多いとはつまり、警戒するべき対象もまた多いという事。互いが様子を窺うそんな最序盤にて、先に動いたのはブルジョワーナとオッドラッドであった。当然、リオン達は警戒を強める。

「お・待・た・せぇ! 白昼に輝く儚き花っ! グロスティーナ・ブルジョワーナ、貴方のハートを狙い撃ちよん!」

「待たせたなぁ! 縁の下から大地を突き破る獣ぉ! オッドラッド、てめぇの心臓を食い破るぜぇ!」

―――ダダァーン!

と、それはまるで日曜の朝に放送される、少年少女が夢見るヒーローヒロインの登場シーンだった。劇的なポージングを決め始めた筋肉達の姿に、前知識を一切持たない観客達は呆然とするのみだ。しかし、見えてしまう。背後でカラフルな爆発が起こっているのが、幻覚だと分かっていても見えてしまう。普段のリオンであれば、役者の造形と格好は兎も角として、あまりのポージングの完成度の高さに、瞳を輝かせていただろう。そう、普段のリオンであれば。

「 稲妻超電導(ライトニングヴァスト) 」

だが、今は対人戦中。派手なポージングなんて眼中にない、むしろ絶好の攻撃の機会だとばかりに、リオンは魔法を詠唱した。 稲妻反応(ライトニングエンハンス) の上位互換であるS級赤魔法【 稲妻超電導(ライトニングヴァスト) 】、パーティ全員を効果の対象とするこの魔法は、リオンだけでなくラミの敏捷・反応速度をも大きく上昇させる。更にはその雷をカラドボルグにまで灯し、戦闘前の仕込みは完了。電気を纏い視覚的に更に煌びやかになった二人は、同時にヒーローヒロインへの攻撃を開始した。

(あらん、とってもせっかち。で、もぉ―――)

(―――臨戦態勢になってんのは、俺らだって同じだぜ?)

稲妻を宿したリオンの刃が、ラミの拳がグロスティーナ達に触れる寸前のところで、二つの筋肉から眩い何かが発せられた。紫と緑の、眩いばかりの光だ。

「「ッ!?」」

激しく警報を鳴らす危険察知能力、またはそれに準ずる勘に従い、リオン達は瞬時に方向転換。稲妻が走るが如く、ジグザグな軌道を描きながら後退する。

(あのまま剣を振り切っていれば、少なくとも攻撃は当たっていたと思う。けど、それ以上に手痛い反撃をもらっちゃうような、そんな気もした)

(ってか、何よアレ? キモイってレベル超えてんですけど!)

敵との距離を置いたリオン達は、改めて前を見据える。

「攻撃の手を引いたの、正解だったわよん。私の気、すっごい粘着性があるものぉ」

眼前の光の中から現れたのは、紫色のオーラを全身に纏い、蝶を模したと思われる大きな翼を背に広げたグロスティーナだった。バチンとウインク&ドガンと投げキッスをサービスすれば、観客席からは更なる悲鳴が溢れ出す。

「ああ。だが、姉弟子の 舞台に舞う貴人妖精(バイオレッドフェアリー) だけでなく、俺の 憤怒を食らう懇篤魔人(ヴァージャイフリート) の殺気にも勘付くとは、大したものだぁ!」

そんな紫の変態の隣には、緑のオーラを顕現させたオッドラッドの姿もあった。彼の頭には鬼のそれに似た二本の角が生え、筋骨隆々の肉体と相まって、本物の魔人のように見えてしまう。但しそのオーラの色合いは鮮やかで、グロスティーナのオーラが毒々しいとすれば、こちらは瑞々しく感じられた。逞しい容姿に相応しく堂々と振舞っている為、オッドラッドを見て上がる悲鳴はまだ少ない様子だ。

「……ゴルディアの神髄を習得したんだね、オッちゃん。グロちゃんもその羽、前はなかったよね?」

「うふっ、ありがとっ。お姉様が日々進化するんだもの、私だって羽化するくらいに頑張らなくちゃと思ってねん。この華憐な羽が生まれたのは、そんな私の深層心理が働いたせいかもしれないわん。言うなれば、そう、 舞台に舞う貴人妖精(バイオレッドフェアリー) ・ 発展形態(セカンドエディション) !」

「リーちゃん、あの羽もごう。それか焼き切ろう。純粋にキモい」

「俺は結構ギリギリのタイミングだったがなぁ! だが、使い方は心得ている! 遠慮なく全力で来いやぁ!」

「露骨なカウンター狙いじゃん。んな誘いに乗るほど、私軽い女じゃないしー」

「そう? なら、こちらから少しダーティーに行くわねん。 ――― 鱗粉乱舞(りんぷんぷんぷん) !」

そう言ったグロスティーナが、背中の羽を激しく羽ばたかせた。絵面が非常にうるさいが、羽から毒々しい鱗粉(?)が散布され、瞬く間に舞台上へと広がり始める。鱗粉の汚染速度は見た目以上に凄まじいようだ。

「これは……」

「まあ、見たまんまの毒ねん。獣王祭でやったダハクちゃんの戦法、私ってば結構リスペクトしていてねぇ。これはその真似事よん。あら、やだぁー! ダーティーと言いつつ、淑女的にわざわざ教えちゃったわん!」

「グハハ! 姉弟子は親切だなぁ!」

グロスティーナが言っているのは、ダハクとゴルディアーナの試合の事だ。当時、真っ向からの勝負では勝ち目がないと悟ったダハクは、舞台を植物のドームで囲い、その中に猛毒を空気中に充満させるという作戦に出いてた。毒の種類こそはまだ不明だが、グロスティーナが羽から出しているのは、その時と同じ毒ガスに類するものなのである。

「このままお喋りに興じても、私達は構わないけどぉ~」

「いつまでもくっちゃべってたら、それだけそっちが不利になるぜ―――」

―――ダダアァーーーン!

「―――っとぉぉ!?」

「あらん?」

あからさまに誘いをかける彼らの頭上より、突如として特大の稲妻が降り注いだ。紙一重のところで躱すオッドラッドとグロスティーナ。歪な軌道を描く稲妻は、そのまま舞台へと衝突。頑強である筈の舞台を部分的に破壊し、その衝撃で瓦礫を巻き上げた。しかも、どうやら攻撃は単発ではなかったようで。

―――ゴロゴロゴロ……

舞台に施された結界の高さ一杯のところで、絶えず大気を震わせるような音が鳴り響いている。いつの間にかその高さの場所には、漆黒の雷雲が広がっていた。先ほどの稲妻は、この雷雲から放たれたものだったのだ。

(息できないとか面倒だし、毒とか絶対お肌に悪いし! 私達の美貌の為にも速攻で攻めるよ、リーちゃん! ぶっ放せ、 雷神雲(トールモールン) !)

グロスティーナ達がお喋りに興じているうちに、ラミは陰でとある魔法を詠唱していた。四人の真上にある雷雲こそがラミのオリジナルS級赤魔法【 雷神雲(トールモールン) 】。最大展開で山一つを覆い尽くすとされる暗黒雷雲は、先ほどの強力な稲妻を無数に、長期に渡って落とし続けるのだ。一発一発は大岩を確実に粉砕する程度の威力でしかないが、それが雨の如く降り注ぐとなれば、話は全くの別。最終的には山が消滅する代物と化す。

(うん、そのつもり! 何をするか分からないのなら、それさえもさせないのが上策! 狩りの時間だよ、 紫電の巨番犬(ギガスケラヴノス) !)

筋肉達の意識が天より降り注ぐ稲妻へと向かっているうちに、リオンが次なる魔法を完成させる。生成するは、紫電で形成された巨大なる番犬。彼は牙を剥き、唸り声を上げ、稲妻の雨の中から獲物を見定める。そして次の瞬間、偶然にも目を付けた獲物と目が合った。

「あらやだんっ! 私、食べられちゃう!」

羽を羽ばたかせ空を舞う(実際は『天歩』による空中での跳躍)グロスティーナの叫びを受け、観客席からはそろそろリタイアする者が現れそうだった。