作品タイトル不明
第82話 勇者と竜と筋肉妖精と筋肉
「歴史上初となる引き分けとなった第二試合を終え、この対抗戦も中盤戦へと差し掛かります! 第三試合はこれまた初の試み、二対二で行われるタッグバトル! これまでとはひと味違うこの形式で、選手達はどんな戦い振りを見せてくれるのでしょうか!? 喉を潤し準備万端となった私、この通り興奮を隠し切れません! さて、そろそろ入場の時間ですが―――」
ランルルの声が会場に響く。戦いの余韻と次なる期待で一杯となっている観客達は、彼女の言葉でそれら想いを更に強めているところだった。そしてそれは、どこかの戦闘狂も同じようで。
「あー、やっぱ第二試合に出れば良かったかなぁ……? シルヴィアとエマの弟分、S級と遜色ない実力だったもんなぁ……」
「はいはい、ケルヴィン君はそろそろ正気に戻ろうか。第三試合が始まるよ」
「そうですよ、マスター! 私がいつかS級になりますから、その想いはその時に発散してください!」
「お、おう、じゃあ期待して――― って、あれ? バッケはどこかに行ったのか?」
ケルヴィンがキョロキョロと辺りを見回す。先ほどまで執拗に自身を誘っていたバッケの姿が、控室からなくなっていたのだ。
「バッケなら、さっき運営委員会に呼ばれてどこかに行ったよ」
「え、そうなのか?」
「はい。試合後という事で、その際に回復薬も沢山手渡されていました。私と違って沢山魔力を使っていたようでしたし、やはり見た目以上に消耗されていたんでしょうね」
「そ~いう事~♪」
「ふーん……?」
「あっ、ブルジョワーナさん達が舞台に上がりますよ」
「おっと、始まるか」
どこか釈然としないケルヴィンであったが、ちょうど選手入場の時間になった為、それ以上深く考えはしなかったようだ。ちなみにバッケが運営委員会に案内された先は、まあ、そういう事である。
「第三試合の組み合わせを発表します。ルミエスト代表、リオン・セルシウスさん。パートナーはラミ・リューオさん。冒険者ギルド代表、グロスティーナ・ブルジョワーナさん。こちらのパートナーには、オッドラッドさんが付きます」
「おおっと、噂の一年生仲良しコンビの登場ですか! リオンさんにラミさん、入学試験の科目によっては、あのベルさんに匹敵する成績を叩き出したとされていますからね。これは素晴らしい戦いが期待されます!」
「あら、よくご存知ですね。ランルルさんの仰る通り、特に運動適性に関しては、お二人ともベルさんとほぼ同等と言って良いでしょう。私としても、この試合は注目して見てみたいと思っています。舞台を心配する必要もなくなりましたからね(ボソッ)」
「えっ? ミルキー教官、何か仰いましたか?」
「フフッ、何でもありませんよ。ただ、とても楽しみだなぁと。対戦相手である冒険者ギルドからは、S級冒険者の新鋭、『紫蝶』がいらっしゃっています。本来新鋭S級冒険者のお披露目は、昇格式で行うもの。それよりも早くに、この対抗戦で実力を披露して頂けるとは、大変有り難い事ですね」
「確かにそうですね。グロスティーナさんは獣王祭の参加経験があり、その際に同チームの『死神』ケルヴィンさんと戦っています。記録には敗北とありますが、実力伯仲の激しい戦いだったとか。うーん、私もその試合を直で観戦したかった! これは私の予想ですが、お二人とも、獣王祭の時以上にお強くなっているのではないでしょうか!?」
「パートナーのオッドラッドさんも、A級冒険者の中では武闘派として有名な方です。果たしてグロスティーナさんとどのような連携を見せてくれるのか、その点も注目していきたいですね」
「ですです! っと、舞台に両ペアが来たようです! 選手入場ッ!」
ランルルの言葉を受け、会場の視線が舞台に集まり出す。ルミエスト側からは黒衣リセスを纏ったリオン、そして着崩した学生服姿のラミが仲良く入場。もう一方の冒険者ギルド側からは、紫色と緑色の全身タイツを着た筋肉お化け達が――― 否、グロスティーナとオッドラッドが、筋肉を膨らませながらの圧倒的入場。この瞬間、会場の歓声は真っ二つに分断された。
「「「うおおおぉぉぉーーー!」」」
リオンらの入場と同時に目の保養、眼福とばかりに声援を送り出す男達。その声量は今日一番のものとなり、耳を塞ぎたくなるほどに轟く。 ……ただそれら轟きには、何やら悲鳴染みたものも混じっていた。それも、リオンとラミに向けられた声援と同等レベルのものだ。
「「「う、うわああぁぁぁーーー!?」」」
喜びの雄叫びと同等のエネルギーを発されたのは、真逆の客席側、つまるところ冒険者ギルド側入場口付近の客席からだった。恐怖し、怯え、 慟哭(どうこく) する――― 何かとんでもないものを目にしてしまったのか、そこには負の感情が満ちていた。
最早説明するまでもないだろう。そう、これら負の声援は、グロスティーナとオッドラッドに向けられたものなのである。
「うふっ、視線を釘付けよぉ」
「フハハァ! 公衆の面前で決めるポージングは気持ちの良いものだ!」
「……リーちゃん、あの格好は何? 心抉る的な、メンタル攻撃?」
「えっと、獣王祭でもあの格好だったから、そのつもりはないと思うよ……?」
「ええっ、素でアレ!?」
筋肉二人にとっては、そんな悲鳴も声援に聞こえるのだろうか。次々にポージングを変えては、その度に新たな悲鳴を巻き起こしている。
「あ、あれは…… ゴルディア式戦闘着!」
「はい? ……あ、あの、ランルルさん? 急に如何されました? まさか、あの全身タイツを見て言ってます?」
「ミルキー教官、ご存知ないのですか!? 装備による防御力を全て捨て、自然における人本来の動きを徹底的に追求し、その末に辿り着いたという幻の武の在り方! それがゴルディア式戦闘着なんです! まさか、まさか実際にこの目で見られるだなんて…… 感激です!」
「ランルルさんっ!?」
ミルキーの今日一番の驚き声が轟く。実況席は実況席で、予想外の盛り上がりを見せている様子だ。放送部所属、ランルル・ビスタ18歳。実況の勉強に熱中する勢い余って、格闘技のディープな部分にまでハマってしまった少女。何気に彼女は、ゴルディアについて結構詳しく知っていたらしい。
「はぁい、リオンちゃんお久し振りぃ。まさか貴女と戦う事になるとはねぇ。そっちのお友達もすっごく強そうだしぃ、手加減なんてしてあげないからねん。うふん(はぁと)」
「ハッハー、そういう事だ! マスターには悪いが、全力でいかせてもらう! こっちはもう、後がないしなぁ!」
「こっちこそ、だよ! 逆に手加減なんかしたら、絶対許さないからね! 対人戦の基本、やれる事は善悪問わず、全部やれ!」
「えー…… 相手は変態だし、リーちゃん凄いプレッシャー放ってるしで混乱気味だけど…… まっ、何とかなるっしょ! 可愛さも強さも、私らの方が上って教えたげる!」
「それにしても、なぜ二人ともゴルディア式戦闘着を…… ハッ、まさか!? ミルキー教官、こいつは目が離せませんよ! ちょっと、聞いてます!?」
「わわわ、分かりましたから、あまり私を揺さぶらなななっ」
対峙する選手達、二つの意味で絶叫する観客、混沌とする実況席――― 開始前からカオスそのものな第三試合が、いよいよ開始される。