軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第77話 百の影

懐より何かを取り出したスズが、次の瞬間にそれらを宙にばら撒いた。宙に舞ったのはクナイや手裏剣、はたまたトンファー、矛、双剣、青竜刀と様々な武器だ。まるで雨を降らすが如く大量に投じられたそれらの中で、スズは再び風雷棒を構え始める。

(武器の多さまでアンジェ譲りってところかしら。でも、こんなものをどうする気かしらね? ……ま、試せば分かるか)

武器群が舞台に落下するよりも速く、ベルがその中へと突貫する。一見無策にも思えるが、片脚に付与した歪みの魔剣、 風切りの蒼剣(グラディウスアイレ) は未だに健在、倍化したスピードも同様だ。この状態の私をどうにかできるのなら、実際にやってみろ。と、この行動はベルなりのメッセージでもあったのだ。そしてスズは、そんな一方的のメッセージを瞬時に理解した。

「 影(かげ) ・ 百之夜(ひゃくのよる) !」

「―――ッ!」

ベルが向かって突っ込んで来るが否や、スズは自身の固有スキルを発動させる。その瞬間にベルの四方八方に現れたのは、どれもがスズ本人にしか見えない百人もの集団であった。

(驚いた。アンジェみたいに高速で残像を作ってるとか、魔法で偽物を生成している訳じゃない。見た目だけじゃなくて、放つ気配や微弱な魔力も彼女そのもの。私の勘もそう言ってる……!)

スズと同じ顔、同じ背丈、同じチャイナ服を身につけたそれら者達の容姿は、どこからどう見てもスズ本人だ。それどころかベルが推測した通り、思考や実力、持ち得る能力といった中身に至るまで、全くの同一なのである。

これら不可思議な力は、彼女の固有スキルに由来している。ケルヴィンの下で行った地獄の鍛錬を通して、スズは超人へと進化、更にこの固有スキル『影分身』を会得した。影の分身を生み出すという、まさに忍者らしい名前の力だ。しかし、この能力によって生み出された分身は、決して分身や偽物という言葉で片付けられるような代物ではなかった。

(スズの『影分身』はHPの最大値を割り振って、実体のある本物の分身を作り出す事ができる。分身の思考と能力は本人そのままで、異なる点といえば割り振った分しかHPがない事くらい。現段階でも、そんな分身を最大百人まで作り出せるって言うんだから、本当に美味しそ――― 本当に恐ろしい力だよ。準S級冒険者が、一気に百人に増える訳だからな。危なくなったら、さっきみたいな事も可能と来たもんだ。一方のデメリットは一度HPを割り振ったら、影が倒されて消えたとしても、数週間レベルで戻って来ないって点だが…… なかなか覚悟決まってるみたいだし、使い過ぎを注意するのも無粋か。それなら、行き着くところまで行っちまえ、スズ! バトルラリーの時の、ベルへの個人的なリベンジ――― お前に託そう!)

他のS級冒険者達と共に腕を組んで観戦していたケルヴィンが、心の中でそう 愛弟子(スズ) に声援を送る。本当は自分が戦いたいけど、本当は自分で心臓を貫かれたリベンジを果たしたいけど、やっぱり自分でやりたいなぁ、譲ってくれないかなぁ、一番手にするべきだったかなぁと、その後に結構な量の迷いが生じていたが、スズを応援する気持ちに偽りはなかった。

そんなケルヴィンの複雑な心中を知ってか知らずか、百人に及ぶスズの集団はその全てが口角を上げている。先ほどスズが宙にばら撒いた大量の得物、全員がそれらに手を伸ばし、気が付けば百人ものスズ全員が武装を完了していた。

(如何に精巧な分身だったとしても、本体を倒せば偽物は消える筈。普通に考えれば、三節棍を持ってる奴がそうなんだろうけど、敢えて偽物の中に紛れ込んでいる場合も考えられる。それに偽物と入れ替わった、さっきの変な術…… ピンチになったらまたやりかねない)

スズが窮地を脱する為に使用した『 空(かわりみ) 』は、更なる最大HPを代償として分身体と位置を入れ替える事ができる忍術(本人談)である。分身を作り出すよりもHPの消費量が大きい為、何度も連発する事はできないが、能力の発動さえしてしまえば、どのような危機的状況をも回避できる確実な一手だ。ベルはこの力について詳細を知らないまでも、何らかの方法を用いている事には勘付いているようだった。

(それなら簡単な話よね。強者らしく、全部潰してやりましょ)

その結果、彼女が出した答えは至極単純なものだった。分身が作り出せなくなるまで、徹底的に全てを倒し尽くす。分身を倒す最中に当たりが出ればラッキー、そうでなくともスズが体力を消耗していたのは確認済みなのだから、これが一番確実。ベルはそう結論付けたのだ。

「さっきの言葉、知らない言語だったけど、意味は何となく分かったわ。だから、私からも言ってあげる。挑戦者であるのなら、貴女から来なさいな。丁寧に潰してあげるから」

「~~~ッ!」

咆哮するスズ、放たれる投擲武器、振るわれる多彩な得物、更には風雷が巻き上がる。ベルは迫り来るそれら全てを相手取り、尽くを叩き潰すべく魔剣を振り上げた。

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「第一試合、終ー了ー! ルミエスト代表、ベル・バアルさんの勝利です!」

「「「わああああっ!」」」

「うおおおぉーーー! ベェーーールゥーーー! 流石だあぁぅうおおおぉーーーん!」

やけに気合いの入った一部の叫びと共に、会場が声援で包まれる。んー、今の叫び、聞き覚えがあるようなないような、はたまた思い出したくないような。おっと、それどころじゃなかった。まずはスズを出迎えよう。

「スズ、お疲れ様」

「も、申じわげありまぜん、マズダァ…… わだじ、ぜっがぐ推薦じでいだだいたのに、負けて、負げでじまいまじぃうううぅ~~~……!」

試合を終えて帰って来たスズの顔には、悔しさがこれでもかとばかりに滲んでいた。声は枯れ、目からは涙が止まらない。

「ベル相手にあれだけやって、あれだけボコされて、それで泣くほど悔しいんだろ? なら謝るな。スズの戦い振りは、ここにいる全員が認めてるよ」

「で、でもぉ……」

「よくやったと言っているんだ。正直、俺の想像以上の出来だったぞ? ベルが相手じゃ、俺だって勝てるかどうか分からないんだからな! 戦いを楽しめたのなら、尚良しだ!」

「そうよぉ、素晴らしい戦いだったわん。ほら、可愛いお顔が台無しぃ。このハンカチを使いなさぁ~い」

「ありがどう、ございまず…… チーン!」

「オー、想像以上にワイルドねん……」

毒々しい紫色のハンカチをグロスティーナより手渡され、そこに容赦なく鼻をかむスズ。多分感情が一杯一杯で、体裁を気にする余裕がないんだろう。

「負けたとはいえ、一矢も二矢も報いたんじゃないかい? 特にアタシ、あの場面は痺れたねぇ。ほら、投げて躱されたクナイを更に打ち返して、ドーンとものっ凄いスピードで反射させたやつ! 得物の風で敵の魔法に対抗してたのも良かったよ」

「物量で押す作戦、なかなか良かったと思うよ。勘の良いあの子じゃなかったら、本物を当てられる前に倒せていたかもだしね~。というか止めの時、本物のスズちゃんには意図して加減してたみたいだし、あの子の勘の鋭さが異常なんだよね、マジで」

「フハハ! 小さいなりに良い筋肉だったんじゃないかぁ!? 安心しろぉ、俺とグロスの姉御が仇を討ーつぅ!」

「み、皆ざん……!」

負けた事に対する文句など一切なく、冒険者仲間の出迎えは温かい。まあ、それもそうだろう。

「まあ、私が勝てば問題ないよ。全くない」

「うんむ! 俺が勝てば問題などない!」

「だねぇ、アタシが勝てば問題ないねぇ」

俺を含め、自分の勝利を一切疑っていないのだ。

「あらやだん、過信は禁物よぉ? 皆、その辺分かってるぅ?」

「分かってる分かってる。じゃ、次はアタシの出番だね。いっちょ若人を揉んで来てやるよ」

愛剣を肩に担ぎ、なぜか舌なめずりをしながら、バッケが舞台へと向かって行った。