作品タイトル不明
第63話 唐突も唐突
ルミエストへの入学より一ヵ月、そろそろリオンら新入生達も、学園での新生活に慣れ始める頃だ。属性別の魔法講義、その中から雷属性が含まれる赤魔法のそれを選択したリオンとラミは、今正にその講義を受けているところである。
―――カァーン、カァーン。
「時間ですね、本日はここまで。次回は小テストを行いますから、よく復習をしておいてくださいね」
時刻を知らせる鐘の音に、担当教官が講義に区切りをつける。テストという言葉に分かりやすく嫌そうな表情を作る者、学食を食べる為に足早に講義室を飛び出す者と、生徒達の反応は様々だ。一方、講義中最前列の席で勉学に励んでいたリオンはというと。
「なるほど、そういう使い道もあったんだね。うん、今日も楽しかった~」
純粋に勉強を楽しんでいた。
「うえぇ…… リーちゃんタフ過ぎない? 私、三行以上の文字列見ると眩暈と頭痛と吐き気がするんですけどー…… あと、言っている内容は元から知ってっから、あまり興味もないんだよー……」
「あはは、雷ちゃん以上に雷の魔法に精通している人って、他にいないもんね。でも、炎属性の魔法については勉強になったんじゃない? 僕も色々と発見があったし」
「あー、そっちについては元からこれっぽっちも勉強する気ないから。私、雷だけで食ってるから」
「そ、それはそうかもだけど、折角学校に通ってるのにもったいないよー」
「寝てなかっただけでも褒めてほしいし」
講義後のそんな学生らしい会話がちらり。花の学生生活を謳歌したかった筈のラミであるが、卓上での勉学はノーセンキューであるらしい。
「ねえねえ、知ってる? 最近ルミエストの周辺国で、おかしな集団が出てるらしいよ?」
講義室の後ろの方から話し声が聞こえて来る。どうやらリオン達の他にも、お喋りに花を咲かせる生徒がいたようだ。
「知ってる知ってる! 戦いを求めて各地を彷徨っているって噂の、あの変態戦闘集団の事でしょ? 何でも強いモンスターや凶悪な犯罪者、果ては有名な道場の看板まで狙っているんですって。というか、強ければ何でも良いみたい。サーチアンドデストロイ、ネバーギブアップ、エンジョイイットって、訳の分からない事を叫ぶんだとか」
「うわぁ、雑食で物騒で野蛮だよねぇ。しかもさ、倒したモンスターは住処に持ち帰って、肉どころか骨までもしゃぶるって聞いたよ? どんな原始人なんだって感じ。私の国、ルミエストからは遠いけど大丈夫かなぁ……」
「私もしんぱーい。私の騎士君、国の中でも一二を争う実力者だから、絶対に狙われちゃうよ~」
「え、何それ惚気話? そっちを詳しく聞かせて! 身分違いの恋ってやつ!?」
「駄目~、これは私と彼の秘密だもーん」
話題が180度切り替わり、女生徒達はキャーキャーとそのまま講義室を出て行ってしまった。
「……シャリーとミシェル、興味深い話をしていたね」
「えっ、あの子達って他の寮生じゃないの? リーちゃん、よく名前なんか知ってんね?」
「うん! 同じ新入生の人達の顔と名前、頑張って全員分覚えたんだ~。目指すは友達100人できるかな!」
「うへぇ、流石は私の親友。目標がぱねぇくらい壮大だぁ。あ、それであの子達の話だっけ? うんうん、気になるよねぇ。ご令嬢と騎士の禁断の恋~」
「そっち!? ち、違うよ、前半の噂話の方だよ!」
慌てて訂正するリオン。そんなリオンの反応を見て、ラミはとても満足そうだ。
「ははっ、分かってるってぇ。えっと、頭のおかしい戦闘集団の話だっけ?」
「そうそう。もしかしたらその人達、神柱の件と何か関係しているんじゃないかと思ってさ。ほら、あれから学園内では全然進展がなかったでしょ? やっぱり、もう神柱と黒幕は学園の外に出てると思うんだよね。そしてこのタイミングでこの噂話…… 僕、これが偶然とはとても思えないんだ! 新たなる悪の組織が誕生して、悪さをして回っているんだよ、きっと! 雷ちゃんはどう思う!?」
「……えと、リーちゃん? それ、本気で言ってたりする? もしかして新手のジョーク?」
「へ? やだなぁ、僕は本気も本気だよ?」
「………」
多少脚色されている点はあるが、どう考えたってリオンの兄とその仲間達の犯行だろう。と、そう考えるラミであるが、リオンの純粋無垢な瞳を前に、指摘して良いものかと悩んでしまう。
「あっ、ここに居ましたか。リオンさんとラミさん、ちょっとお時間よろしいですか?」
そんな事をしていると、二人は不意に声を掛けられた。講義室の入り口を見ると、そこにはボルカーン寮長のアーチェの姿が。
「アーチェ教官? はい、大丈夫です」
「私は勉強関係の話じゃなければ大丈夫ッス~」
「良かった、なら二人とも問題ないですね。ちょっとお願いしたい事があるのですが―――」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「そ、それで対抗戦の代表候補になったんですか、御二人とも……!?」
大食堂にドロシーの声が響き渡る。辺りに生徒の姿は疎らであるが、それでも彼女の声に数人がこちらへと振り返っていた。
「シーちゃんシーちゃん、声が少し大きいっぽいよー?」
「す、すみません、つい……」
「でも、確かに驚きだよね。対抗戦の当日は結構先なのに、もう代表を決めるだなんて」
「い、いえ、私が驚いたのはそういう意味ではなく…… 候補者から更に人数を五人に絞る事になりますので、早め早めに決めるのは特段不思議ではないかと。それよりも、新入生が対抗戦の候補者に選ばれる事自体が凄いんです。しかも二人同時に、それも同じ寮からだなんて……!」
「あ、それなんだけどさ、今年の候補者は一年生の中に結構いるんだって、アーチェ教官が言ってたよ?」
「はわ!? ほ、本当ですか!? す、凄い! 本当に本当に、歴史に残るくらいに凄い事ですよ、これはッ!」
ドロシー、本日二度目の咆哮。再び周りの視線が集まり出す。
「シ、シーちゃんテンションたっか……」
「あっ、す、すみません…… 憧れのルミエストでの歴史的瞬間に立ち会えた喜びと、驚きの連続でどうにもおかしな調子になっちゃって…… そ、それでリオンさんとラミさん以外に、一年生の候補者はあと何人いらっしゃるんですか?」
「んー、あんま興味なかったから、私は適当に聞き流してたんだよねー」
「もう、雷ちゃんってば…… ええと、僕達の他に五人前後は候補者がいるんだって。どこの寮の人かは知らないんだけどね」
「五人も!」
「五人もかいっ!?」
ドロシーの言葉に重なるようにして、唐突に現れたシャルルの叫びが大食堂に響き渡った。
「シャ、シャル君? 急に現れてどうしたの?」
「乙女の園に美男子は現れるもの――― つまり、そういう事さ~」
「やば、理由が異次元過ぎて鬼分からん」
「いや、今そんな事はどうでも良いんだ。話は聞かせてもらったよ。対抗戦の候補者、君らの他に五人もいるんだろう? フッ、おかしいと思ったのさ~。まだ僕に声が掛かっていなかった事が、ね♪ その解が示すところはつまりはつまり、これから僕に声が掛かるって事で―――」
「―――失礼、どいてくれるかな」
「おおっふ!?」
盛り上がりの最中にいたシャルルが何者かに真横へと吹き飛ばされ、床をゴロゴロと転がって行ってしまった。彼の回転は未だに止まらず、しかし、そんな彼の姿を視線で追う者もいなかった。なぜならば、シャルルを吹き飛ばした張本人がリオン達の眼前にいたからだ。
「はぁ、今日は唐突に現れる奴が多い気がするー。ガン萎え」
「そんな顔をしないでほしいものだな。余の名はエドガー・ラウザーという。氷国レイガンドの第一王子、と言えば分かるかね?」
「あ、はい。知ってます」
「結構。そして、早速本題に入ろう。リオン・セルシウスにラミ・リューオ、余の妻になれ」