軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第50話 首席挨拶

「まもなく入学式を開催致します。新入生の皆様は速やかに指定の席に着き、そのままの状態でお待ちください。繰り返します、まもなく―――」

アナウンスを聞いた新入生達がその指示に従い、続々と席に移動していく。会場の天井部を見上げれば、外に流す映像を撮っているのか、いつか合否結果を届けてくれたフクロウ型モンスターが、カメラらしきマジックアイテムを首に下げながら、その辺りを飛び回っていた。大型だというのに、羽ばたく音は殆どしない。

「んー、『隠密』のスキルとかを持っているのかなぁ?」

「リオンさん、上を見上げてどうし――― モ、モモ、モンスぅんっ……!」

リオンに倣って天井を見上げたドロシーが反射的に叫びそうになっていたので、リオンは大急ぎで彼女の口を手で塞いだ。

「ヒソヒソ(シーちゃん、こんなところで大声出したら駄目だよ。他の皆の迷惑になっちゃう。ほら、よく見て。あのフクロウさん、合否結果を運んでくれた郵便屋さんだよ)」

「んふぁ?(えっ?) ……ほぉ、ほぉんふぉーふぁ(ほ、本当だ)」

「ヒソヒソ!(うん、だから安心だよ!)」

ドロシーが落ち着き、会場も後は式が始まるのを待つだけの状態となった。すると再びアナウンスが鳴り出し、入学式を開催すると宣言。次いで祝辞を述べられ、式の内容を説明される。予定表によれば、まずは学院長の挨拶があるのだとか。

(えっと、これって校長先生のお話みたいなものなんだよね? 漫画みたく、すっごく長いものなのかな!? 一説によれば、相手の眠気を誘う催眠効果があったり、意識を朦朧とさせて敵を戦闘不能にするらしいけど!)

戦いを絡めて思考してしまうのは、ケルヴィンを兄に持った弊害と言えるだろうか? すっかり染まってしまっているリオンは、不思議なところでワクワクが止まらない様子だ。そんなリオンの輝く瞳に見守れながら、ルミエスト学院長のアートが壇上へと上がって来る。

「まずは心から祝わせてもらおう。新入生の諸君、ルミエストへの入学おめでとう。厳しい基準、最難関の試験を乗り越えて来た君達は、世界の未来に多大な影響を及ぼすと私は確信している。 ……そう、芸術的な美しさを持つ、この私のようにね!」

至極真面目なものであった筈のアートの挨拶は、唐突な謎のポージングによって中断される。その瞬間、会場はドッと笑い声で溢れ返り、それまでの厳粛な空気が随分と緩和された。

「フフッ! 学院長先生、ユーモアに溢れていて、とっても面白い方ですね」

「う、うん、そうだね。本人的には真面目にやってるかもだけど……」

アートの奇行はその後も何回か続き、新入生達はすっかり和やかな雰囲気に。一方、入学前より学院長の本質を知っていたリオンも、想定していた話とは違ったが、何だかんだで楽しんでいたようだった。

「アート学院長、ありがとうございました。続いて、新入生代表による挨拶です」

「い、いよいよですね」

「ん? いよいよって?」

「この挨拶、毎年その年の試験の成績最優秀者、つまりは首席合格された方が行う事になっているんです。そしてそして、首席合格された方は将来高確率で生徒会長となり、首席のまま卒業されていかれます。学園の模範、学園の憧れ、学園の象徴となる方を、平民出なのに何かの間違いで入学してしまった私みたいな人間は、注目しない訳にはいきませんから」

自嘲気味に苦笑いを浮かべながら、そう説明するドロシー。リオンからすれば何の伝手も財力もなく、この学園に入学できてしまう方が凄いのだが、どうも彼女には自分を卑下する癖があるらしい。

「それではベル・バアルさん。お願い致します」

「あ、首席の方がいらっしゃいましたよ」

「どれどれ――― って、ベルちゃん?」

アナウンスに呼ばれ壇上に上がったのは、他でもないベルであった。

(そういえばベルちゃん、一人だけ席の位置が違ったっけ…… あ、それ以前に首席合格の人が挨拶するんだったら、ベルちゃんにその役目が回ってくるのは当然か)

「わあ、とっても凛々しくて綺麗な方ですね。立ち振る舞いだけで、住む世界が違うって分かっちゃいます。あれ? ですけど、あの角や翼は……」

登壇したベルに見惚れていたドロシーであったが、ベルが中央に立った辺りで、彼女に人間にはない、もちろん獣人やエルフといった亜人だって持ち得ない筈の、悪魔の特徴がある事を視認する。周りの新入生達も同様のようで、ざわざわと騒ぎが広まっていった。

「お静かに、どうかお静かに―――」

「―――このままで結構」

「えっ?」

騒ぎを鎮めようとアナウンスが鳴り響く。が、ベルはそんなものは必要ないとばかりに、手でそれを制した。そして、さっさと演台の前に立ってしまう。

「……ご紹介に預かりました、ベル・バアルです。御覧の通り、私は北大陸にあります悪魔の国の出身です。にもかかわらず、公正公平に成績を評価してくださった学園の教官方に、そして本日、このような名誉ある機会を頂けた事に、まずは感謝を申し上げます。一方で皆さんの中には悪魔に対して否定的、或いは恐怖の対象として認識されている方も、もちろんいらっしゃるでしょう。しかし、それはとても悲しい事です。私は祖国グレルバレルカの姫として、人と悪魔の橋渡し役を担いたく―――」

手元に原稿がある訳でもないのに、すらすらと自然に言葉を紡いでいくベル。しかも彼女はただ喋っているだけでなく、生徒一人一人の心に訴えかけるように、迫真の演説レベルで弁舌を振ってみせていたのだ。言葉遣いに息遣い、間の取り方から感情の表現の仕方まで、何もかもが完璧だ。全てを引き込ませるベルの言葉を耳にし、先ほどまでの喧騒の渦巻きは綺麗に消失。親しいリオンやクロメルなんて、尚更驚いてしまって言葉を失っているところだ。言葉を失ったので、代わりに念話を飛ばし合う。

『リ、リオンさん、ベルさんの雰囲気がいつもと違いませんか? し、失礼な物言いになってしまうのですが、一瞬誰なのか分かりませんでした……』

『う、うん、僕も今驚いてるとこ。あ、でもジェラじいに聞いた事があったかも』

『何をです?』

『僕がこの世界に召喚されるよりも前に、トラージのツバキ様と謁見した事があるんだって。その時のセラねえがすっごく綺麗な佇まいで、ケルにいがこっそり見惚れていたとか何とか』

『も、もう、パパったら…… ですが、それなら納得さんですね。同じ英才教育を受けて育ったベルさんなら、その時のセラさんと同様の立ち振る舞いができるかも、です』

『なるほどだね~。でも、あんなベルちゃんは本当に新鮮だよね! 普段からやってくれないかなぁ?』

普段からにこやかに笑顔を振り撒くベルを想像するリオン。それはそれは、大変に大変にレアな光景であった。

『嫌よ、クッソ面倒臭くて疲れるじゃないのよ』

『ベ、ベルさん?』

『ね、念話をする余裕まであるんだね……』

ちなみに、ベルの挨拶はまだ続いている最中である。

「―――ルミエストを卒業された先輩方の中には、優秀であるが故に飛び級を重ね、一年という驚異的な歳月で首席卒業された方もいらっしゃるとお伺いしています。非才の身でこのような事を口にするのは分不相応かもしれませんが、私もそのような偉大なるレコードを残せるよう、今後始まる学園生活を邁進して行く事を、ここに誓いたいと思います。ご清聴ありがとうございました」

ペコリとベルが礼をした瞬間、会場は万雷の拍手で包まれた。もうここにいる殆どの者は、ベルが悪魔だからと偏見の目で見る事はないだろう。そう確信させられるほどの喝采だった。

(でもベルちゃん、最後の言葉は本気だったような……)

但し、友達はベルの本心をよく分かっていたようだ。