軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第38話 まずはそれから

私の名はシンジール、自称冒険者一の美男子だ。そんな私に対し、一目で色男と称してくれた審美眼溢れる彼は一体何者だろうか? ダンジョンの行き止まりにぶつかってしまった私達が踵を返すと、不思議な事に彼らは既にそこにいた。黒ローブの青年に可愛らしいレディ、そしてこれまた可愛らしいドッグ、いや、ウルフかな? 兎も角、彼らはそこにいたのだ。しかし、おかしいな。さっきまで私達の背後には、確かに誰もいなかった筈だ。気配り上手なリーダーとは、パーティだけでなく周囲の環境にも関心を示すもの。私はいつものように華麗に周りを見回し、自分に見惚れ、仲間に感心し、気を配っていた筈だ。だというのに、あの黒ローブの彼が声を掛けてくるまで、彼らの存在にまったく気づく事ができなかった。ううむ、これは異常事態だぞ。私は気高くも美しいパブ三大冒険者、その私が存在を見落とすほどの手練れとなると、彼らの実力は凄まじい。本当に一体何者なのだろうか? 彼らの足元では風がビュンビュン稲妻がバリバリ鳴っているし、少しばかり威圧的だ。そうだな、まずはレディ達を後ろに―――

「―――あら? あの方は『死神』のケルヴィンさんではないでしょうか? お隣は妹さんの『黒流星』リオンさん、そして召喚術で契約している『陽炎』アレックスちゃんかと」

「知っているのかい、レディ・リスペクト?」

「知っているも何もケルヴィンさんに関しては、シンジールさんも先日ギルドで直接目にされた筈ですよ?」

「え?」

「………(コクコク)」

「レディ・アイスまで激しく頷いている!? だ、だが、あのような素晴らしい審美眼を持つ青年を、この私が忘れる筈が……!」

改めて黒ローブの青年を凝視する私。んんっ? 待てよ、確かに本部で見た覚えが――― ああっ!?

「え、S級冒険者のケルヴィン・セルシウス!?」

「思い出されましたか。男性が相手ですのに、今回は早かったですね」

「………(コクコク)」

一度見た女性の記憶は墓場まで持っていく自信のある私だが、男に関しての記憶は自分でも驚くほどに忘れっぽい。そんな私が瞬時に彼を思い出したのは、正に奇跡といっても過言ではないだろう。だが、だがっ! これは屈辱だ……! まさかこの私が、 世界で最も忌み嫌う者(・・・・・・・・・・) を、見る目があるなどと勘違いしてしまうとは……!

「俺を知っているのか? それなら話は早い…… って、ああ、何か見覚えがあると思ったら、ギルド本部で見た奴か」

「……ああ、知っているとも。君も私を覚えているという事は、私があの時に何と言ったかも覚えている筈だ。私はね、君をS級冒険者と認めていない。世間一般がどう言おうと、認める訳にはいかないんだ」

「はい? えーっと…… 突然どうした? いや、アンタが俺に良い感情を抱いていないってのは、確かに覚えているけどさ。そこまで文句を言われる筋合いはないぞ?」

「君がなくとも、私にはあるんだよ」

「何があるんだよ。俺、お前に何かしたっけ?」

どうやらケルヴィンは事の重大さを理解していないらしい。フッ、それもそうか。今まで出会ってきた奴らは皆、自覚のない者達ばかりだった。ならば教えてやろうじゃないか。私がなぜ君を憎み、普段は口にしないであろう罵声を浴びせているのかをッ!

「如何に実力があろうと、奴隷を従えている冒険者など下の下、いや、それ以下だ! 私は無理矢理に奴隷に首輪を掛け、力づくで服従させる輩を一切信用しない! 今はいないようだが、ギルド本部で確かに見たぞ! 君が嫌がる美少女奴隷を連れ回し、他の冒険者に見せつけるようにして悦に浸っているところをね!」

ビシリ! そんな風を切る音が聞こえて来そうなくらいに、私はケルヴィンを指差してやった。そう、私は過去に奴隷であったが故に、その者達の気持ちが人一倍に理解できるのだ。

「………」

私の的確な指摘に意表を突かれたのか、ケルヴィンは何とも間の抜けた顔を作っていた。それもそうだろう。私調べによれば、S級冒険者の中で奴隷を扱っているのは、このケルヴィンしか存在しない事が分かっている。それほどにまで 邪(よこしま) で、誰もが認めるほどの女好きである事は明白も明白! 誇り高き冒険者として、そして将来的にS級になる身として、同業者の悪行を見過ごす事は到底できない。なぜならば私は、正しき道を突き進む美男子なのだから!

「んっと、エフィルねえアンジェねえの事を言っているのかな?」

「おー、この感覚懐かしいなぁ。刀哉達と出会った時を思い出すよ。ホント懐かしい」

「もう、ケルにい~。懐かしんでる場合じゃないよ~」

「グゥルルルル……!」

む、むむむっ? おかしい、おかしいぞ? 挑戦状を叩きつけたといっても間違いではない宣言をしたというのに、なぜかケルヴィンと仲間のレディは和やかな雰囲気だ。ただ一頭だけ、ペットのウルフ君が私に対し唸っているのだが…… この落差は一体?

「あ、えっとね、人に指差しちゃいけませんって、アレックスは言いたいみたい」

「ウォン!」

「あ、それは失礼した。ごめんなさい」

なるほど、それで怒っていたのか。憎いものは憎いが、間違った行為は直ぐさまに正す。それが私、シンジールで――― いやいや! そういう話でもないと思うのだが!?

「シンジールさん、シンジールさん」

「む? レディ・リスペクト、どうしたんだい? 今は些か忙しいのだが、私は如何なる時でも耳を傾けるよ」

「それがですね、違うんですよ。ケルヴィンさんは確かに奴隷の子達を従えていますが、それは決して無理強いしてのものではないのです。いえ、確かに一部だけそういった関係なのかもしれないですけど、全ては合意のもとだと思います」

「………(照れっ)」

「ふぇ?」

その後、レディ・リスペクトはなぜか持ち歩いていた冒険者名鑑を開きながら、私にセルシウス一家について説明してくれた。曰く、ケルヴィンの奴隷達は自らの意思で奴隷となっており、むしろケルヴィンには奴隷から解放させようという意志がある。曰く、立場を越えて相思相愛の関係にある為、部外者の私が文句を言うべきではない。けれどその志は立派なので、これからは悪事を働く人にその猛りをぶつけていきましょうね、と、説明と並行して論されてしまった。要するに私は、勝手にとんでもない勘違いをしていただけだったのだ。

「し、しかし、レディ・リスペクト。冒険者名鑑にも記載されていないような詳細な情報を、なぜそこまで知っているんだ?」

「ウフフ。それはもう、この歳になると他人の色恋のお話の方が好きになっちゃうものですから♪ 井戸端主婦ネットワーク、とでも呼べば良いでしょうか?」

「な、なるほど……?」

ちなみにこの間、ケルヴィン、いや、ケルヴィンさんとそのお仲間の方々は、弁当(重箱)を広げていた。

「わあ、今日も美味しそうだね!」

「エフィルの奴、あんまり頑張るなって言ってるのに、また気合い入れたな……」

べ、弁当!? そ、そうじゃない。驚いている場合じゃないんだ。今は謝るべき時!

「ケルヴィンさん、申し訳ない! 誇り高き美冒険者シンジール、とんでもない誤解をしていた! 罪深い私は心から―――」

「―――おい、そこの色男とそのお仲間さん。どうでも良いけどさ、一緒に飯を食おう。まずはそれからだ」

……なぜか食事に誘われた。