作品タイトル不明
第5話 下見
義父さんと仲良くぶっ飛ばされたものの、何とかベル同行の約束を取り付ける事に成功。義父さん自身も制服ベルという魅力に完全敗北してしまったようで、渋々ながらもルミエストへの入学許可を出してくれた。絶対に何を犠牲にしようとも、ベルを狼共の魔の手から護るという条件付きではあるが…… 俺の心臓を物理的に貫いてくれたベルなら、そこまで心配する必要はないというのが正直なところだ。
あ、でもリオンとクロメルは別だぞ? まだまだ社会経験が少なく純粋無垢でしかない2人に、世の黒々とした部分に触れさせる訳にはやっぱ入学は時期尚早だったのではうーんやっぱ止めた方が無難―――
「―――にい、ケルにい~? ねえ、ちゃんと聞いてる?」
「えっ? あ、ああ、何の話だったっけ?」
っと、いかんいかん。もう過剰な心配はしないと、入学の許可を出した時に決心したんだった。無駄に考え過ぎて、あろう事かリオンの話が素通りしてしまっていた。これは兄として、絶対にあってはならない失態だ。今、挽回の時!
「ルミエストに行くの、とっても楽しみだねって話。何か考え事?」
「いや、リオンとクロメルなら、ルミエストでもしっかりやっていけるだろうなって、安心していたところだよ。万が一に備えてボディーガードのベルもいるし、これは心配する要素が微塵もないな! ハッハッハ!」
心の中で前言撤回。嘘である。滅茶苦茶心配である。やっぱ無理、愛娘と妹をいくら心配したところで、それが過剰に至る事は絶対にない。何せ、この心配は俺にとっての愛でもあるからだ! 愛を語って何が悪い! でも表情と声に出したら、それこそ義父さんと同類! 鋼鉄の意志で、俺は凄まじく耐え忍んでいるのだ……!
「また馬鹿な事を考えているみたいね。顔に出ているわよ?」
「え、嘘っ!?」
「ええ、嘘よ。でも、やっぱり考えていたんじゃない。まったく、親馬鹿の上シスコンってどうなのよ?」
「………」
ベルに探りを入れられ、俺の鋼鉄の意志は即刻白日の下に晒されてしまった。お前だってシスコンじゃねーかと言い返してやりたかったが、何とか堪える。鋼の意志、鋼の意志なのだ。
義父さんの許可を貰ってから更に数日が経過し、俺達は今、ルミエストに向かっているところだ。メンバーは入学希望組の3人に、俺と義父さんの保護者組である。用件は手続きの申請関係をしに、ってのが名目ではあるが、ぶっちゃけこれはわざわざルミエストに赴かなくてもできる。直に学園都市ルミエストを目にして、本当に信頼に足る学び舎なのかをチェックするのが真の目的ってところかな。リオンやクロメル達の参考にもなるだろうし、まだ俺自身も来た事のない土地だ。 見分(ターゲット) を広げられるとなるならば、こういった遠回りも決して無駄にはならないだろう。
移動はコレットとシュトラの伝手で最寄りの転移門を使えるようにしてもらい、そこからは馬車を使ってルミエストに向かう手筈となっている。というか、今現在もう馬車に乗って移動している。馬車は2台用意し、体のサイズが異様にでかい義父さんがもう片方の馬車に乗っている形だ。
『パパと一緒? 嫌よ、絶対狭いじゃない』
予想通りベルと一緒が良いと散々駄々をこねられたが、そんな娘の一言に義父さんは撃沈。馬車は2台で列を作って走り、義父さんは後ろの馬車に乗っている。で、この移動中は怖いくらいに静かになっている。よっぽどベルの心ない言葉が効いたんだろうな。南無です、義父さん。
「にしても…… こんな馬車でトロトロ進むより、自分で走って進んだ方が良かったんじゃないの?」
「まあそう言うなって。こうやって景色を眺めながらゆったりと旅を満喫するのも、なかなか雅なもんだろ?」
「雅とか、心にも思った事のない言葉をよく言えるわね、貴方」
「おい、人を可哀想に思うような視線を向けるなって。流石の鋼鉄の意志も粉々に砕けるぞ?」
「また意味の分からない事を…… リオンにクロメルも、こんな馬鹿と一緒に生活していたら、いつか馬鹿がうつるわよ? ああ、そういう意味では、この入学は英断だったのね。納得したわ」
心ない言葉をガンガン言ってるのは、果たしてどっちなんですかねぇ? ……まあ、こんなトゲトゲしているベルも、本当は優しい娘だと分かってるから良いけどさ。護衛の件も断り切れずに受けてくれたし、セラとは真逆に不器用な奴である。
「な、何よ、その生暖かい目は? こんなに中傷されてそんな目ができるって、本格的におかしいわよ!? ……あ。もしかして、この前に心臓穿った時、脳に変なショックを与えちゃった、とか?」
うん、優しさと刃が見事に融合した発言だ。マジで頭を心配されてしまい、割と傷つくマイハート。
「そんな事はありません。パパはとっても思慮深くて、とっても優しいんです。恐らく、ベルさんを気遣っての行動かと」
「僕もクロメルの意見に賛成かな。だからベルちゃんが心配する必要は、全然ないと思うよ~」
「おお、流石は俺の愛する娘と妹だ! 俺の事をよく分かってくれてる!」
「「えへへー」」
俺の思考を見極めてくれたお礼に、2人を軽くハグしてやる。いや、させて頂く。はぐはぐ。
「はぁ、よく人前でそんな事ができるわね……」
「あまりそんなジト目で見詰めないでくれ、照れる」
「私はその数倍は恥ずかしいわよ…… 予め言っておくけど、ルミエストではそういう行為を気軽にしないでよね。これでも私はグレルバレルカ帝国の王族として、リオンやクロメルは冒険者上がりの貴族として入学するんだから」
「ハハッ、言われなくても分かってるよ。お前達の都合が悪くなるような事はしないつもりだ」
「本当に?」
「本当だって。さっきベルが指摘したこの馬車の移動にも、ちゃんとそんな思惑が含まれているんだぞ?」
「へえ、どんな思惑よ?」
「なら説明しようか。グレルバレルカ帝国は北大陸の覇者とも呼べる大国だ。けど北大陸の存在自体、まだ発表されて間もない。中央海域での戦いに参加した東大陸の四大国ならまだしも、西大陸諸国には伝わっていない部分も多いだろう。今回のベルの学園都市ルミエストへの入学は、国家間の橋渡し的な役割も担っているんだよ。ベルから受けるイメージが、グレルバレルカのイメージに直結すると言っても過言じゃない」
「……ま、確かにね。それで?」
「そんな勝手の知らぬ土地で、ましてや印象が大切になるこの面接前の時期に、一国のお姫様がやべぇスピードのまま大陸横断してみろ。グレルバレルカ、マジかよ……!? って空気になるぞ、絶対」
「それは……」
「で、リオンとクロメルも、そんなベルの立場に合わせてもらう形です」
「なるほど~。僕もそれで良いと思う!」
尤もベルの敏捷力なら、まず常人には影も捉えられないだろうけど。けど、どこにまだ見ぬ実力者がいて、そんなベルの姿をスクープにでもされたら大事だ。
「要は俺がS級冒険者として自由気ままに、ベルが使徒として迅速に動いていた時とは勝手がちょっと違うって事だ。何事も常識の範疇で、ってな。あ、でも試験で力を振るうのは大いにアリだ。見せつける場面では見せつけようぜ!」
「うん!」
「はーい」
その方がビビッて悪い虫も近付かないだろう。成績もガンガン上げて、飛び級もしまくりだろう。更には結果として、我が家に帰って来るのも早くなるという寸法だ。うむ、我ながら完璧な作戦である。
「その理屈でいくと、王族が大した護衛もなしに移動するのは不味いんじゃないの? 普通はそこいらの商人だって、冒険者を何人かは雇うものよ。護衛の騎士どころか、移動用の馬車2台のみで移動する王族ってのも、なかなかおかしいと思うけど?」
「えっ? 頭数と格好だけの護衛がいたって、戦いの邪魔になるだけだろ?」
「……ああ、そうだったわね。頭がおかしい以前に、貴方はバトルジャンキーだったわ」
な、何だよその呆れた顔は? 義父さんだって同じ意見だったんだぞ!?