軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話 悪魔の契約

妹と愛娘、そしてシュトラに懐柔されてしまった俺は、セラ提案の護衛役をベルにお願いする為に、転移門を経て北大陸のグレルバレルカ帝国を訪れていた。同伴するのは提案者であるセラ、そしてベルと学園生活を共にする予定のリオン、クロメルである。

セラ曰く超センスのある、俺の所感としては悪魔らしいユニークな装飾の成された客室に通され、待つ事数分。まず最初にやって来たのは、我らが親馬鹿代表グスタフ義父さん。その立派な赤髭を靡かせながら扉を破壊するという盛大な登場に、俺は思わず手を出しそうになってしまった。だって以前よりも、明らかにパワーが上がっているんだもの。バトルジャンキーの血が疼くんだもの。が、耐える。俺、偉い。

「「すごーい!」」

予想の斜め上な義父さんの登場に、リオンとクロメルは素直に喜び、パチパチと拍手で迎え入れる。セラは何をやっているんだ、という呆れたような表情になっているが、それに気付いていないのか、義父さんはご満悦な様子だ。

「セラ、お帰りぃ! クロメルとリオンもよく来た、ゆっくりしていくといい! 愚息もおまけで歓迎してやろう。感謝せよ」

「相変わらず俺の扱いが酷いっすね……」

「クフフ、照れ隠しというやつですよ。察してあげてください」

人数分のカップとティーポット、そして甘い良い香りのする焼き菓子を乗せた配膳台を押しながら、客室に姿を現すビクトール。執事服に似た服装を纏っているからか、いつもとは違った印象を受ける。ただ、その特徴的な笑い声はいつも通りだ。

「ぬあっ!? ビクトール、貴様! 適当な戯言を言うでないわっ!」

「あら、流石はビクトールね! よく分かってるじゃないの。父上はそんな感じよね~」

「セ、セラまでっ!?」

ほほう、嘘は良くないよね。それにしても、この国も明るくなったものだ。義父さんが現役の魔王だった頃は、こんなやり取りなんてあり得なかったそうだし。この調子なら、案外ベルも快く了承してくれるんじゃなかろうか?

「クフフフフ、お褒めに預かり恐悦至極。ささ、茶と菓子をどうぞ。僭越ながら、私のお手製のものです」

「うぐぐ、勘違いするでないぞ、愚息ぅ!」

「ははははっ……」

義父さんの見え見えな照れ隠しはさて置き、この焼き菓子マジで美味いな。小食で普段はあまり食べないクロメルも夢中になってる。ここでメルがいたら一瞬で平らげているところだが、クロメルはリスの如く少しずつ食べてくれるので、安心感が違う。その、色々な意味で。

「待たせたわね」

それから更に数分後、本日の主役であるベルが漸くやって来た。さて、本題に行きますかね。

「―――は? 何で私がそんな事をしなきゃならないのよ?」

「ですよねー」

世の中、そう上手くいくばかりじゃない。ベルに事情を話し、リオン達と一緒にルミエストへ通ってくれないかとお願いしてみたが、返答はこの通り無慈悲なものであった。しかも、心底嫌そうな顔である。

「ベルちゃん、僕と一緒は嫌だった、かな……?」

「え、ちょ、いや、そういう訳じゃないから! リオン、その涙目は狡いわよ!?」

「ベル、実はこれ、私が提案した話だったのよね。ベルなら身分も実力も、何より一番信頼できると思って推したのだけれど…… どうやら私、ベルの気持ちを蔑ろにしていたみたい。姉、失格よね……」

「セラ姉様提案!? え、ええと、別に嫌がってるとかそういう訳じゃなくって、話が急だったから、単に驚いたって言うか……」

何と言うことだ。早々に表情と態度に変化が見られる。リオンとセラに甘過ぎるぞ、この隠れ世話焼き。どれ、ここらで再確認してみようか。

「ふふっ、どうやら心変わりをしたみたいじゃないか。護衛の任、受けてくれるな?」

「は? 待ちなさいよ。何で貴方が仕切るのよ? 百万回死になさいよ」

「あのさ、君ら親子揃って俺に対する口悪くない? 言うにしても、もう少しオブラートに包んでしてほしいんだけど」

「十分包んでるわよ、これでも」

「えー……」

厳しいのは表面上だけで、内心はそこまででない事は分かっている。けど、毎回これだと俺だって凹む。まあ俺に辛く当たる分、セラ達には甘々なのだが。

「まあまあ、ベル様落ち着いてください。ささ、こちらの菓子をどうぞ」

「あら、これ新作? 前に作ってもらったブラッドケーキが美味しかったから、これも期待できそうね。うん、美味しいわ」

「クフフ、ありがとうございます」

「この美味しさに免じて、その依頼受けてあげる。でも勘違いしないでね? 仕方なくよ、仕方なく」

甘いベルは甘味にも弱かったらしい。まさか、ビクトール印の焼き菓子が決め手になってしまうとは。

「ほ、本当に? わぁーい! ベルちゃん、ありがとう!」

「落ち着きなさい。言っておくけど、慣れ合う気はさらさらないからね。あくまで私は、2人の護衛に徹するだけだから」

「だとしても、僕はすっごく嬉しいよ。頑張って3人一緒に、トリプル首席卒業を目指そう!」

「ングング…… はい、頑張りましょう!」

「クロメル貴女、あの女神の一部だったくせに、随分と食べ方が上品なのね…… まあそれはさて置き、リオン、ちょっと自己評価が低過ぎるんじゃないの? 世界屈指の学園だか知らないけど、所詮は一般人に毛が生えた程度の人材が集まる場所。頑張るも何も、首席で卒業できない方がおかしいわよ。楽な仕事ね」

ベルさんや、それって壮大なフラグを狙っての発言でしょうか?

「あ、それ知ってるわ。ケルヴィン風に言うと、壮大なフラグってやつ! これを立てる事で大いなる何かが邪魔をして、ベル達が簡単には卒業できなくなるのね!?」

「セラ姉様、そいつの話を真に受けないで。頭がおかしくなるから」

「うわ、どでかい流れ弾が来た……」

確かに考えはしたけど、そう返されると思って口にはしなかったのに。

「待て待て待てぇ!」

「そんなに興奮してどうしたのよ、父上? お腹でも痛いの?」

「パパ、いきなり大声出さないで。うるさいし、また血圧が上がるわよ?」

「うおおぉ、愛娘達が我を心配してくれている! その言霊が身に染みるぅ……! って、そうではなかった! なぜにベルが学園などに行く必要があるのだ!? 愚息の話を聞くに、その場所には人間の男、それも若い狼共が巣くうそうではないかっ! 駄目だ、危険過ぎる! パパは許しませんっ!」

誰もが予想した通り、義父さんは猛反対の立場にたつらしい。今はセラベルの言葉に感動しているから良いが、これ以上ボルテージが上がってしまうと、『憤怒』の固有スキルが発動してしまいそうだ。しかし―――

「―――義父さん。残念ながらその話題、もうけりが付いているんです。それ以上は不毛なんです」

「愚息ぅ!? 貴様、確か我と同じスタンスだったではないかっ!? ええい、この裏切り者めぇ! 愛娘と実の妹がどうなっても良いのか!?」

「良い訳ないでしょう! それだけは全力で否定しますっ! ですが良いですか、義父さん? 実はこの学園都市ルミエスト――― 制服を採用しているっ! しかも普段ならベルが絶対に着ないような、可愛らしいスカートです!」

「な、何ぃぃぃ!?」

「ちょっと、さり気なく私を出しにしてない?」

すまんベル、その自覚は大いにある。学園での安全はもちろん確保するが、説得対象が義父さんでは、その辺をいくら説明しても絶対に納得してくれない。だからこそ、ショートパンツばかり穿いてるベルのスカート姿を口実に、義父さんを陥落させようと考えたんだ。全てはリオンとクロメルの為、許せっ!

「そしてここに今、エフィルに再現して作ってもらった、ベル専用の制服がありますっ! エフィルの腕が確かなのは、セラの私服を目にしている義父さんなら、既にご存知でしょう。義父さんがうんと頷けば、その脳裏に浮かんでいるであろう光景、現実になるんですよ……!」

「ぬうっ!? これが悪魔の契約というものかっ!?」

「二人とも、ちょっとそこに並びなさい」

いつぞや俺の心を物理的に貫いた蹴りが飛び、俺と義父さんは城外へと吹き飛ばされた。