軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1話 飢える召喚士

春の陽気に包まれた、居心地の良い日が続いている。このところのパーズは平和も平和で、突発的に凶悪モンスターが出現する事もなく、いつぞやの天使モンスターが舞い降りて来る事もない。魔王や黒女神の影響は凄まじかったんだな、なんて今更に身に染みて実感するほどだ。いやー、平和って良いよね。マジで平穏が一番ですわー。

「駄目だ、ピースが過ぎる……」

私室の窓より頬杖をつきながら外を眺めていると、自然とそんな言葉がこぼれてしまった。全くの無意識である。やる気のない俺の台詞を嫌ってなのか、近くの木の枝に留まっていた小鳥がパタパタと飛び去って行った。いや、別に平和を脅かそうとか、そんな意味で言ったんじゃないからね?

ついひと月前、俺はバトルラリーを思う存分に堪能しながら大陸中を駆け巡った。あれほど楽しいひと時はクロメルとの決戦以来で、今でも目を瞑れば、その時の光景が瞼の裏で鮮明に甦る。しかし、それも一ヶ月も前の事。それからは結婚を控えての諸々の挨拶回り、歓迎の酒盛り、お立ち台阻止、新たな女神関連の行事に参加するなど、諸々がバトルとは程遠い生活を送っていた。このままではいくら理性的な戦闘狂だって、ストレスで悶えてしまうというもの。せめて仲間達との模擬戦でも挟み、欲求を解消したいところだ。

「あ、でも義父さんとの殴り合いは良かったかも」

「何のお話ですか、ご主人様?」

俺のふとした呟きにエフィルが反応。聞かれてしまったかと頬をかきながらも、エフィルなら正直に打ち明けても大丈夫だよな、などと思ったり。

「いやさ、このところ本腰を入れて手合わせしたり、思いっ切り体を動かしてモンスターを倒す事がなかっただろ? それで、ちょっとだけバトル分が不足していると言うか……」

「最近は皆さんも予定尽くめで、なかなか時間に余裕がありませんでしたものね。でしたらご主人様、今からでも地下修練場に向かいませんか? 不肖ながらこのエフィル、ご主人様のお相手をさせて頂きます」

エフィルは胸に手を当て、さあさあ! とやる気に満ちた様子だ。そのやる気は大変嬉しい。嬉しいが―――

「そうやって俺を喜ばせようとしたって駄目だぞ。仕事をするのはまだ良いけど、戦闘行為は絶対に禁止だってこの前に決めただろ? 本当ならメイドの仕事だって、少しずつ減らしていかないといけないくらいだ」

「そ、そんなぁ……」

「ぐっ……! な、涙ぐんだって駄目なもんは駄目なんだ」

以前の俺ならば、エフィルの誘いに意気揚々と乗っていた事だろう。しかし今は、そうしてはならない理由が、絶対に許されない理由がある! 手合わせしようぜ! なんて叫びたい気持ちを泣く泣く押さえ付け、俺は己に打ち克つのであった。

「新しい命が宿ってから、もうそろそろでひと月だ。エフィル、俺や皆の気持ちを分かってくれ」

「も、申し訳ありません。頭では分かってはいるのですが、つい……」

そう、めでたい事にエフィルは、俺の子を身ごもったのだ。バトルラリー後、自身の管理も万全なエフィルにしては珍しく、体調を崩して熱を出したり吐き気に襲われたりと、そんな日々が暫く続いていた。俺が回復魔法を施しても症状は変わらず、流石にこれはおかしいと心配する俺とジェラール、そして餌付けされた偉大なる竜王達。急いで医者に、いや、コレットに見せるべきだと家族内で騒ぎが広がる中、副メイド長であるエリィが待ったをかけて、こう宣言。

『おめでとうございます、ご主人様。ご懐妊ですよ』

『おめでた~♪』

リュカが追撃の宣言を投げ掛けてくれるも、この時の俺はその言葉を瞬時に理解する事ができなかった。思わぬタイミングで仮ひ孫ができてしまったジェラールと顔を合わせ、またエリィを見てマジかと再確認。力強く頷かれる。そうしてからやっと顔を赤らめているエフィルへと振り向き、よくやったと声を掛けるに至った訳だ。男とは、肝心な時に頼りないものよ。

『正妻的に、私が一番乗りだと思っていましたのに……』

『メルはクロメルがいるから、ある意味で一番乗りしてるじゃないの。ま、私は順番なんて気にしないわ! こういう時は女の器の大きさを示すべきだって、ゴルディアーナが言ってたもの!』

『セラお姉ちゃん、後半の台詞は心の中にしまっておくべきだと思うわ』

『くぅ~……! 回数か、やっぱり回数なのかっ!? 悔しいけどおめでとう、エフィルちゃん!』

『エフィルねえ、お腹触ってみても良い? え、まだ動かないの?』

『わあ、早くも妹ができるんですね。パパ、ナイスです』

尤も、この時に動揺していたのは何も俺やジェラールに限った事ではなかった。誰が何と言ったのか、そこまで話す気はないが、まあ女性陣も結構なもんだったよ。けど最終的にはまあエフィルなら順当だよね、といった感じで意見がまとまったらしい。

それ以降も家族内で色々な意味で騒ぎになったものだが、話し合いの末、エフィルが戦闘に参加するのを全員一致で禁止にする事に。たまにこうして誘惑される事もあるが、俺は鋼の意志で注意を促すに徹している。一方でメイドの仕事だけはエフィルが頑なに譲ろうとしなかった為、妊娠初期である今は無理をしない範囲で行う事を許可。エリィ達にこっそりとフォローをお願いしたり、陰ながら仕事量を減らさせる努力はしているけどな。

「エフィルは俺の理解者筆頭だ。謝らなくたって、俺の事を想っての事だって分かってるよ。それで、調子はどんなもんだ? 味の好みが変わって、料理するのに苦戦していたみたいだけど?」

「あ、はい。リュカに味見をお願いして、何とか調整しています。工程と分量さえきっちり仕上げれば、ほぼほぼ完璧にできあがりますし」

「そっか。でも本当に無理はしないでくれよ。少しでもやばいと思ったりお腹が膨らみ始めたら、もう絶対安静だぞ?」

「ええ、重々承知しています。なので、今だけは私の我が侭にお付き合いください」

ニッコリと微笑むエフィル。そんな顔をされては、もう俺からは何も言えなくなってしまうではないか。存分に奉仕されてしまうではないか。俺の鋼の意志はいつまで持つだろうか?

「……ん?」

何だか良い雰囲気になっている最中、部屋の外からドタドタという焦ったような足音が聞こえてきた。耳を澄ませば、その足音がこの部屋へと近づいているのが分かる。何だ何だ、緊急時でなければ廊下は走るなと家訓で決めてるってのに。セラもしくはリュカ、大穴でダハクかフーバーかな? 全く、いっちょ注意してやるか。

―――バタァーン!

勢いよく開かれる扉。おいおい、扉をそんな風に開けるもんじゃありません。お行儀がなってないぞ、なんて咎めようとしたら、開かれた扉の先にいたのは意外にもリオンだった。リオンらしからぬ行動に驚いてしまい、なかなか第一声が出て来ない。そうこうしているうちに、リオンは一枚の紙を俺達に向かって突き出す。

「ケールにいぃーーー! ルミエストからの合格通知書、今届いたよぉーーー!」

「マジかぁーーー!? リィオーーーンようやったぁーーー!」

これまでの行動を、俺は秒で許した。そして胸に飛び込むリオンを当然の如くキャッチし、暫くその場でクルクル回って祝福。何がどうしたと話す事は山積みなんだろうが、今はこの触れ合いが最優先なのである。