軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 発端

学園都市ルミエスト、西大陸に位置する世界有数の学び舎とされ、各地から王族貴族が集う名門中の名門。入学する為の条件は大変厳しいらしく、中にはロイヤルファミリーなのにその条件を満たせず、入学を断られた者も過去にはいたそうだ。地位と才能、或いはそれらを補う何かがないと、とてもではないがルミエストに入り込む余地はない。その分、入学してからの指導は超一流。武術や魔法に止まらず、あらゆる分野の勉学を最高の環境下で行う事ができるのだ。

ルミエストについての説明は、まあこんなところだろうか。では、そもそもなぜリオンがルミエストからの合格通知書を持って来たのか、その経緯について話そうと思う。時は遡り、俺がバトルラリーを終えて数日が経過した辺りへ。ここ最近の行動と同様に、その時の俺は既に戦いを謳歌する暇がなく、結婚などの準備を進めているところだった。

屋敷に戻り、少し休憩を――― 慣れない疲れを少しでも緩和する為に、バルコニーに置いたデッキチェアへと身を沈め、ぐったりする俺。戦いならいくら明け暮れても疲れを感じないのに、贔屓する事なく平等に用意を整える行為は、何と難易度の高い事か。まあ兎も角、俺は心底ぐったりしていた。

「えっと、ケルにい。今、ちょっといいかな?」

「……リオン? リオンかっ!?」

戦闘行為を抜かすと、俺の精神的な回復ポイントは実に少ない。しかしそんな数少ないポイント、妹成分を補給する絶好のタイミングが、向こうからやって来た。当然、俺はすぐに飛び起きる。兄として至極真っ当な反応だろう。

「あはは、ケルにい凄い反応速度だね。バトルラリーの時よりも速いんじゃない?」

「兄として、今の俺が秘める最高速度を叩き出すのは当然だろ? それで、どうしたんだ? 兄妹水入らずで駄弁るなら、俺は大歓迎だぞ。その間の回復速度も倍々だ」

「もちろんオッケーだよ。でもね、その前に見せておきたいものがあって…… これ、なんだけど」

「んん?」

リオンが何かの冊子を差し出す。もちろん、俺は素直に受け取る。大きく印字された文字を読むと、そこにはルミエストと記されていた。どうやら可愛い可愛い我が妹は、ルミエストの資料を携えながらやって来たようだ。

「これ、シュトラやコレットが卒業したっていう、学園都市の紹介資料じゃないか。何でリオンがこれを?」

「えっと、実はね…… 僕、そこで学園生活を送ってみたいんだ」

「………」

―――バサリ。

ショックの大きさの余り、俺は受け取った資料を床に落としてしまった。え、今何て言った? 学園生活? リオンを、西大陸のルミエストに通わせるって事か? 屋敷から通わせるのは現実的じゃない。って事は、寮生活? 俺と離れての生活? そりゃ学園都市って言うくらいだもの、寮くらいはあるだろう。だけどさ、その寮って本当に安全? 未知の勢力からS級魔法をぶっ放されても、ちゃんと耐えられる設計になってんの? いや、そもそもの話さ、リオンをどこの野良犬とも知れぬ若人共と一緒に生活させるなんて、許される事じゃないからね? で、俺との距離はやっぱり離れちゃう感じ?

そんな疑問と確認の問答が並列思考内で繰り返し行われ、外見的には停止状態になってしまう俺。しかしリオンはこうなる事も織り込み済みだったようで、俺が再起動するまでしっかりと待っていてくれた。

「―――ッハ! 今、俺止まってた!?」

「うん、ピクリとも動かないで止まっていたね。はい、その間に落とした資料を拾っておいたよ」

「あ、ああ、それはすまなかった……」

「あとね、この資料を見てもらえば分かると思うけど、寮は男女で厳重に分かれているから安心だよ!」

「……ええと、さっき俺、考えていた事が声に出てた?」

「ううん、僕の予想。ケルにいなら、まずはそこを心配するんじゃないかと思って」

「な、なるほど」

俺は兄の事をよく理解してくれていると喜ぶ反面、リオンをルミエストに行かせる事には賛成しかねていた。だってさ、寮は別々だったとしても、学園自体には男の生徒もいるんだろ? 思春期真っ盛りの、飢えた男共がいるんだろ!?

そう強く抗議したいが、リオンの天使そのものな笑顔を前に実行する事ができない。 ……などと俺が躊躇っていると、次の瞬間に奴は現れた。

「話は聞かせてもらったぞい! 駄目じゃ、駄目じゃよリオン! 寮が男女で分かれていようとも、学院内には飢えた猛獣共が 跋扈(ばっこ) しておる! 男は狼なんじゃ! ワシはそんな危険な場所に可愛いリオンを送るなんて、到底了承できん!」

わざわざ1階から登って来たのか、ジェラールがバルコニーの手すりに手を掛けながら頭を出し、そう魂の叫びを上げたんだ。たまたま下の庭にいたのか、俺とリオンの会話が聞こえていたらしい。何という地獄耳である事か。だけど、俺が言いたかった台詞をそのまま言ってくれたその所業、今ばかりはグッジョブだ。リオンに見えぬよう、ジェラールに称賛のハンドサインを送っておく。

「確かに、俺もその点は心配だな。それにだ、ルミエストはそう簡単に入学できる場所じゃないんだぞ? 相応の推薦状が必要だったり、場合によっては大金を積まなくちゃならない。周りはお偉いさんの関係者ばかりだろうし――― 何よりもリオンの事が心配なんだよ、俺達は」

今が好機だとばかりに、ここで俺も不安要素を叩き込む。心優しいリオンの事だ。大好きな兄と爺がここまで反対したとなれば、考え直してくれるに違いない。

「そ、そっか。そうだよね。僕、転生する前は病弱だったから、学校にあまり行った事がなくって…… 少しの間でも良いから、そんな経験がしてみたかったんだ。ケルにいと結婚したら、もうそんな事もできないと思って…… でも我が侭言っちゃったよね。ごめんなさい」

「「………(ズキン)」」

やはりリオンは分かってくれた。頭まで下げてくれた。くれたけど、何だこの胸の痛みは? 凄い罪悪感だし、後味悪いし。これが俺達が求めていた結果なのか? 本当にそうなのか?

「お、王よ、ワシの信念がポキリと折れた音がしたんじゃが……」

「奇遇だな、俺もだよ。しかし、しかしだ! ここで俺まで折れて、リオンの身に何かあってからじゃ遅いんだ! 致命的に遅い!」

俺、何とか堪える。

「なるほどね、話は聞かせてもらったわ! ここは私に任せなさい!」

「っ!?」

バルコニーの手すりの向こうより聞こえる新たな声。それが誰のものなのか、恋仲にある俺としては考えるまでもなかった。ジェラール同様庭の方からこの場所へとよじ登って来たセラは、やけに自信満々な表情で登場。ねえ、何で皆そこから現れるの? よじ登って登場する手法、君らの中で流行ってるの?

「セ、セラ、お前まで…… いや、まあ良いけどさ。で、どうした?」

「不安に不安を重ねる心配性な2人に、私が妙案を持って来てあげたの!」

「「妙案?」」

「リオン1人で行かせるから不安になっちゃうのよ。それなら、頼りになる護衛役を一緒に入学させたら良いじゃない!」

「ほ、ほう……?」

セラめ、またとんでもない案を持ち込んで来やがった。

「なるほど、護衛役か。それならワシや王も安心じゃな!」

「でしょう? ふふん!」

「待て待て、待てったら待て。ジェラール、安心するにはまだ早い。ただでさえ入学条件が厳しいのに、リオンの他にどうやってその護衛役を入学させるんだよ? 人様の子まで入学支援をする余裕は、メルの食費、結婚費用やらの関係で我が家に出す余裕はない。そもそも護衛なら、寮でも一緒じゃなきゃ意味がないんだ。男なんて以ての外。よってリオンと同性、尚且つリオンと同等以上の力を持つ奴じゃなきゃ、俺は認めないぞ」

「むう、それは確かにのう。王の言い分も尤もじゃわい」

俺はセラを説き伏せるつもりで、諸々の理屈を織り交ぜた渾身の台詞を言い放った。そいつの力のみで入学ができ、リオンに匹敵する実力者。そんな奴、都合よくいる筈がない。そう確信していたからだ。だが、セラの表情を崩すには至らなかった。

「なら問題ないわね。今ケルヴィンが言った条件ね、私の自慢の妹、ベルなら全部クリアできるもの! それじゃ次に帰省した時、父上とベルにお願いしましょう。2人とも、きっと力強く頷いてくれるわ!」

「えっ、ベルちゃん? ベルちゃんも一緒に入学できるの!?」

「そ、できちゃうの! 私と同じでベルったらお姫様だし、今の安定したグレルバレルカならお金の問題も些細なもの。何なら、私が獣王祭で稼いだお金を使っても良いし! フフッ、それに妹と妹で相性も抜群よね~」

この辺りから、話が俺の予想斜め上の方向へと傾き出していた。