作品タイトル不明
第576話 パパの伸びしろは無限大
「「 魔人闘諍(ジンスクリミッジ) !」」
「 狂飆の竜鎧(ヴォーテクスアーマー) ・ Ⅱ(デュアル) 」
黒き魔力を腕と脚に集中、いつか見た悪魔の武装の再現である。セバスデルの能力である空間転移に翻弄され、ビクトールの『魔喰』に魔法を食われるも、今となってはそのどちらも過去に打ち破った力だ。俺は 悪食の篭手(スキルイーター) に集中して施した嵐の鎧にて応酬する。
「よっと」
「ぐっ」
「これは……!」
攻撃を躱す瞬間にビクトールの黒腕、そしてセバスデルの黒脚を掴む。ただそれだけの行為で2人の黒き装甲には亀裂が走り、次の瞬間にはバラバラに粉砕。装備の一部に魔法を乗せ隙を突いて攻撃するのなら、セバスデルに逃げられる事も、ビクトールのスキルで魔法を食われる心配もない。
しっかし、やはり Ⅱ(デュアル) にするだけでも威力はやばいくらいに跳ね上がってる。腕に渦巻く嵐の刃は装甲を破壊するどころか貫通し、その内部にまで甚大な被害を及ぼしたのだ。それらの傷は死に至らなくとも、2人を戦闘不能状態へ追い込むには十分なダメージとなっている。こんな腕じゃ迂闊に頬もかけないぞ。
「お見事、ですっ。クフフ、フッ……!」
「強烈、ですね……! ですが、快感はやはり、ベルお嬢様の風の方が、上……」
周辺の砂と共に強風に巻き上げられ、ビクトールとセバスデルは宙を舞ったままリタイア。最後の捨て台詞はさて置き、これで悪魔四天王との戦いは制した。気力、体力はいずれも十分。残るは凄まじい怒気を放っていた義父さんだが―――
「―――■■■、■■■■■■■■■っ! ■■■■■ーーー!」
「最早一文字分の理性もないっ!?」
偃月刀というよりも、大斧らしき形状にまで膨れ上がった鮮血の得物。刃の部分だけでも義父さんの頭身ほどはあるだろう。兎も角でかい。でかけりゃ良いってものじゃないんだが、義父さんの場合は怒りが強さに直結しているので、この場合はそれだけ危険って事になる。
そんな馬鹿みたいな武器を振りかざしながら、迷う事無く俺へと突貫してくる義父さん。血の紅とどす黒い感情を表した黒の魔力が溢れ出し、体中に厚い層を成している。義父さんの表情が歪んでしまうほどの禍々しさだ。いや、これは単に鬼気迫る表情が度を越してしまっているだけだろうか? これまで俺が見てきた誰よりも悪魔な顔になっている。だがそれでも、俺は負けられない。
「義父さん! 何度も言いますけど、娘さんをくださいっ!」
「■■■■■■ーーー!!!」
呪詛塗れの叫びに俺の意志をぶつける、俺も前へ前へと駆け出す。相手が怒りを滲ませるのなら、こっちだって張り合ってやる。嫌味なほどに口端を吊り上げ、 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) を杖に備わせ、足場の砂が大量に散ってしまうほどに踏み込めば、もう義父さんは手の届く距離だ。刃と刃を交差させ、挨拶代わりに腕を吹き飛ばし、こちらも吹き飛ばされる。
そこからは無我夢中で、兎に角お互いのセラに対する思いの丈を叫びながら斬り合い、殴り合った。2人揃って不器用なもんだから、こんなやり方でしか俺達は本音を語れない。義父さんはまだまだ俺を許してくれないだろうけど、それでも少しずつ心を通わせる事はできている筈だ。安心してください、義父さん。義父さんが音を上げるまで、俺が根強く何度でもお相手しますから!
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―――ガウン
俺は進む。正直まだ体の節々に痛みがあるけど、時間が押しているので進むしかない。戦う前よりスピードこそ落ちはしたが、それでも旗を辿ってガウン国内に到着する事はできた。次の目的地は首都にある闘技場、獣王祭以来の訪問となる。この場所を指定しているあたり、次の相手はあの人が入っているんだろうな。
「パパ、少し休憩された方が……」
「いや、まだ見ぬ敵がこの先に待っているんだ。高々1時間ぶっ続けで義父さんと戦っただけで、立ち止まる訳にはいかない。メルの加護を使う寸前までいっちゃったけど、ほら、白魔法で斬られた腕も繋げたし、まだまだ元気元気!」
娘の前だからと強がってみるが、実際のところ消耗はかなりしている。俺も前より格段に強くなっていた気でいたんだけどさ、嬉しい誤算というか、義父さんもまた強くなっていたんだよ。俺の義父さんながら、未だ成長期にあるらしい。末恐ろしく、大変素晴らしい義父だと再認識してしまった。しかし、一体いつの間にあれだけ強くなったんだろうか? 王としての仕事を全部悪魔四天王に押し付けて、自分は修行に集中していたんじゃ…… ハハッ、流石にないか。
「もう、無理をしちゃ駄目ですよ? ママから借りたスキルで回復薬のがぶ飲みはできますが、気力の面まではカバーできないんですから……」
む、クロメルに心配されてしまった。パパ、一生の不覚……! でも嬉しいので気力が僅かに回復。義父さん、貴方の気持ち、俺も段々と分かってくるようになりました。
「面目ないです…… だけど、折角皆が俺の為に準備してくれた祭りなんだ。パパの我が侭、今日のところは大目に見てくれ」
「むむっ、それならしょうがないですね。それなら私が限界を見誤らないよう、しっかりとパパを見張っています! でも、絶対にママを泣かせたら駄目ですよ?」
「は、はい、全力で努力します……」
しっかりさんで良い子過ぎる娘に叱られつつも、俺は遂にガウンの首都へと辿り着いた。ここからは 飛翔(フライ) を解除して、徒歩で闘技場に向かう事になる。さ、行きますかねーなんて考えながら街中に入ると、獣人達が四方八方から俺達を取り囲むように溢れ出て来た。一体何事かと身構えるも、敵意は一切感じない。
「おおっ、死神が来たぞ! 獣王祭で活躍された、あの死神だっ!」
「って事は、開催はこれからかっ! 俺、闘技場のチケットを買えたんだ! 急いで客席に行かねぇと!」
「線から身を乗り出すなっ! 道を開けて、道を開けるんだっ!」
「サインくれぇ!」
「そこの色男ぉ! 闘技場に行く前にうちで腹ごしらえして行かないかいぃ!?」
「押すな、押すなっ! ケルヴィン殿を御守りしろぉ!」
「あっ、今あたいの胸を触ったね! このスケベ!」
「あいたぁ!?」
突然の事に面食らい、立ち止まってしまう俺達。
「……何事?」
「すっかりお祭り騒ぎですね」
目の前に現れたのは、ガウンの住民やら兵士やら老若男女様々だった。共通なのは、誰もがとっても血気盛んだという事だ。かつての獣王祭の時のように、ハイテンション&ハイテンション。たぶん朝から晩までハイテンション。
闘技場に行く為の道なのか、凱旋パレードのような形ですっぽりと道が開けられ、押し寄せる民衆を食い止めるように兵士達が道の端に並んでいた。兵士達は屈強な民衆を止めながら、「早く行って!」と血走った目で物を言い、俺に歩けと催促。このまま突っ立っていると兵士の壁が崩壊しそうなので、彼らの思いに従って俺は闘技場へと駆けるのであった。
「さっき民衆の中でさ、チケットがどうこうとか言ってなかったか?」
「闘技場のチケットの事だと思います。シュトラさんがレオンハルト様と交渉された時、闘技場施設を使って興行とする事が条件になっていましたから。獣王祭の時以上の面子が揃ったという事で、チケットは即日完売したそうですよ」
なるほど、トラージ産の算盤を弾くレオンハルトの姿が容易く想像できる。となると、次のチェックポイントはガウン式の試合形式か?