作品タイトル不明
第572話 今こそが旬
「ふう……」
スイングドアを押して精霊歌亭を出る。事前の知らせが出ていたのか、或いはバトルの喧騒が外にまで届いていたのか、宿の周りは見物人で溢れていた。拍手や歓声が巻き起こっている辺り、前者になるのかな。ミストさんが率いるギルド職員の方々も参加していたし、俺の知らないところで結構な規模となる祭りを準備していたようだ。
「パパ、お疲れ様です。記念すべき1つ目のスタンプ、無事にゲットですね」
「クロメルの応援のお蔭だよ。次もパパの勇姿、しっかり見ていてくれよ?」
「はい!」
一発もミスをする事が許されない、白熱したバトルであった。肩にちょこんとクロメルを乗せて、移動モードに移行する。
「ったく、ケルヴィンよう。あれだけの人数を集めたってのに、簡単にクリアし過ぎだろ」
「アンタ、負けた上にそんな台詞を吐いちまうのは格好悪いよ!」
「ウルドさんにクレアさん。コレットの秘術で店の外に飛ばされていたんですね」
「ああ、驚いちまったぜ。何せケルヴィンから一撃もらったと思ったら、一瞬で周りの景色が変わっちまったんだからな!」
「手に馴染んだフライパンなら、もっと善戦できると思ったんだけどねぇ。夫婦揃って店の外に出された時は、もう笑うしかなかったよ。ハハハッ!」
爽快とばかりに笑うクレアさんであるが、実のところエリィやリュカ、ナグア達の次くらいに油断ならない相手だった。フライパン1つであそこまで隙がなくなるとは、予想外にもほどがある。ウルドさんが尻に敷かれるのも、ある意味で自然な流れだったんだ。俺も気を付けよう……
「ご主人様、第一チェックポイントの通過、おめでとうございます」
「おめでとー! 有象無象連合の完敗だよー」
うちの屋敷からの参加者であるエリィとリュカが、宿の屋根から飛び降りての登場。場所が悪いとそんなところに飛ばされるのね、秘術。
「2人とも、ご苦労様。最後の最後まで残って頑張ってたな」
「それでも全然駄目だったよー。人影から攻撃したりお母さんと連携したり、使えるものは全部使ったのになぁ」
「ハハッ、主としてそう簡単には負けてやれないよ」
「主か…… 改めてケルちゃんも出世したんだって、感慨深くなるねぇ。今ではこんな可愛らしい娘さんも作っちゃって! おっと、あの時にはもう作ってた、ってのが正確なのかねぇ? エリィさんもリュカちゃんも知ってるかい? ケルちゃんが最初にここを訪れた時なんてねぇ」
「ちょ、昔話は恥ずかしいですって! 俺、もう行きますよ! まだまだチェックポイントは多いんですからね!」
「ああ、これから大陸中を走り回るんだったか。冷静に考えると、とんでもねぇ話だよな……」
「ご主人様、先ほどの戦いはあくまでも前哨戦。これから先に進むごとに、ちょっとあり得ないレベルの戦いが待ってますので、その…… 頑張ってください」
「ご主人様、生きて帰ってきてねー!」
エリィが引き気味に、リュカは笑顔で不吉な声援を送ってくれた。そんなにかよ、期待しちゃうぞ!? よっし、急ごっ!
「っは、そうだぜ! こっから先にはシルヴィアだって―――」
「ナグア様、意味あり気に物陰から登場されたところ申し訳ないのですが、もうご主人様は行かれてしまいました」
「………」
「ケルちゃーん、頑張りなよー!」
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―――パーズ郊外
街を抜け、トラージに向かう為に南を目指す。あんまりスピードを出し過ぎちゃうとクロメルと周りに負担が掛かるので、 飛翔(フライ) と障壁を使ってその辺を調整。移動の度に衝撃波を撒き散らしたら、俺自身が暴走野郎になってしまう。
「指定されているルートには、一定間隔で目印の旗が置かれています。それを辿って行けば次のチェックポイントに辿り着きますよ、パパ」
「それは分かりやすくて良いな。けど、全部の道に旗を立てているのか? それ、地味に結構な手間だと思うんだけど……」
「アンジェさんの御助力で、何とかなったそうですよ。むしろ、旗を準備する方が大変だったとか」
「あー、それなら納得だ」
ザッスザスと高速で旗を突き刺すアンジェの姿が目に浮かぶ。
「で、あそこが次の場所か。思いの外近かったかも」
「パパが速いんですよ」
パーズの南に位置する開けた平原地帯。そこで俺達を待ち受けていたのは、つい先日にも俺と顔を合わせた4人だった。
「師匠、お待ちしていました!」
「想定していた時間より、大分早いですね。走るんじゃなく飛んで来たのも、ある意味想定外ですけど」
「刀哉に刹那、雅に奈々――― っと、お供のムンも一緒だったか」
「ギュア!」
「お前らが2番目の対戦相手、って事で良いのか?」
肩からクロメルを降ろし、安全なところに移動させた上で結界を施す。
「ええ、ありがたい事に声を掛けて頂きまして。ここでは俺達、『異世界勇者組』がお相手させて頂きます」
「全8カ所の2組目でデラミスの勇者を出してくるとは、大盤振る舞いだなホントに」
「む、上から目線が気に食わない。私達は本気で勝つ気、貴方はここでリタイアする定めと知れ」
「雅ちゃん、またそういう事を言っちゃうんだから……!」
「ハハハ…… とは言え、俺達と師匠とでは実力差がありますからね。今回の戦い、最も師匠に近い実力を持つ刹那に任せる事にしました」
「へえ、刹那に?」
「はい」
一体どういう意味なのかという俺の疑問に、刀哉はある魔法を詠唱する事で返答。俺と刹那を直線上の空間に閉じ込めるように、左右に光の鉄格子で壁が形成された。刀哉らとクロメルは鉄格子の外側に、長い通路のような魔法障壁内に、俺と刹那という位置取りだ。
「これは?」
「 白牢光牢(インカーホワイト) 、主に敵を拘束する為に用いられるA級白魔法です。とは言え、師匠にとっては難なく突破できる代物ですが」
「えっと、私達が提示するルールは至極単純です。刀を構える刹那ちゃんの攻撃を受けずに、刹那ちゃんの間合いを突破する事ができれば、この勝負はケルヴィンさんの勝ち。もし刹那ちゃんの刀をその身に受けてしまったら、ケルヴィンさんはここでリタイアという、一瞬で勝負が決まるもので、でも、ええと―――」
「―――奈々に補足する。両端を壁で遮り、刹那の間合いがすっぽり収まるよう刀哉が魔法を使ったのと同じように、私と奈々も貴方の邪魔を1つだけ行う。私はS級黒魔法【 重罪人の罪重(イノーメティクラッシュ) 】で貴方の敏捷力を徹底的に落とすし、奈々は十八番の 氷天神殿(フローズンテンプル) を展開する。どこまでも無理ゲー、逃げ帰るなら今のうち」
「ちなみに私が放つのはニト師匠より受け継いだ最終奥義、使徒の1人に止めを刺した抜刀術です。遠慮も加減もなしで抜きます」
「うへー、面白嬉しい事を考えてくれるじゃないか」
「でもまあ、攻略法は単純だと思いますよ? 俺の障壁を壊して、刹那の間合いを迂回しながら突破すれば良いんですから。それでケルヴィンさんが満足できるかどうかは、また別の話でしょうけどね」
……いや、本当に成長したな、こいつら。俺の性格を知った上であの挑発なんて、どこまでも真っ直ぐだった頃の刀哉達からは想像もできなかった。必要に応じて汚く生きられる、それは何も恥じる事ではない。死んでは元も子もないんだ。そして何よりも、そこまでして俺を倒そうとしてくれる優しさが嬉しい。
「その挑発、当然受ける! 悪いが、こっちも本気だ。魔力超過最大出力で強化した俺のスピードと、特定条件下での刹那の剣速! 尋常にくらっべっこ、しようじゃないか!」
俺が 風神脚(ソニックアクセラレート) を纏うのと同時に、10本もの氷柱が地面から突き出され、俺の踏み締める地面が漆黒に染まった。眼前には居合の構えを取り、俺を見据える刹那の姿。良いなぁ、良い顔してるなぁ!