軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第571話 バトルラリー

―――ケルヴィン邸・ケルヴィンの私室

このところ、皆の様子がおかしい。以前のような無言の圧迫感がある訳じゃない。心なしかそわそわしているというか、何か俺に隠し事をしている様子なのだ。問題なのはそれが女性陣だけでなく、ジェラールやダハクといった男共、更にはクロトやアレックス、もっと言えば精霊歌亭のクレアさんやウルドさん、知り合いに至る全員が全員、同じような雰囲気であるという事だ。

うーん…… 俺が何か悪い事をしたって訳ではないと思う。ここ最近は結婚の件といい、精力的に準備を進めてきたつもりだからだ。その話をする時のみ、エフィルやセラ達は普通の状態に戻るんだが、全く関係のないところだとやはり違和感がある。

「エフィル、俺に何か隠してないか?」

「……い、いえ、ご主人様に隠し事をするなんて、とんでもありません」

机を囲って式場などを決める最中に聞いても、エフィルからはこんな感じの返答しか返ってこない。が、いつもであれば即座に返事をする筈。言葉を口にするまでに数秒を要しているし、悲痛な面持ちでやむなし! という雰囲気が滲み出ているので、誰かしらから口止めをされているのは確定的だ。クールな振舞いを見せるパーフェクトメイドも、意志に反する行動を取る際はとても心が読み取りやすい。

さて、一体何を隠しているのやら。こういう場合、予想すべきはドッキリ系かな。誕生日のサプライズとか、お祝いだとか。そう考えれば、エフィルが教えてくれないのも頷ける。ただ、別に俺の誕生日が近い訳でもないんだよなぁ。他に祝い事がある訳でもないし……

「ふーん、そっか。いや、何となく聞いてみただけだから、気にしないでくれ。うん、全然気にしてない」

「本当に申し訳ありません……」

ちょっとだけ意地悪をすると、エフィルもバレバレである事は自覚しているようで、何度も何度も頭を下げられてしまった。しかもシュンとされてしまった。これはいかんとエフィルに体を寄せて、精一杯の気にしていないアピールを―――

「パパ、失礼しますね」

―――する寸前だったが、クロメルの入室により直前で取り止め。危ない危ない、まだ真昼間だった。

「お、おうクロメル、どうした?」

「パパにお届け物です。はい、どうぞ♪」

「お届け物? 手紙っぽいけど……」

小さな手から一通の封筒を受け取る。差出人の名前は記されておらず、セルシウス家の家紋封蝋が押されているだけだ。まあ、これだけでも身内の誰かから、というのは分かる。

「あっ、まだ開けちゃ駄目です! 絶対に駄目ですっ!」

「え、駄目なの?」

「えっと、ええっと、これは招待状なので、然るべき場所で開けないといけないのです。ですからパパ、間違っても今は開けないでくださいね」

招待状とな。クロメルが考えた、新しいごっこ遊びかな? なんて考えている最中に、ある事に気付く。これがごっこ遊びだったとしたら、エフィルは穏やかな笑みを浮かべている事だろう。しかし、今のエフィルはどちらかと言えば、緊張しているようにも思える。詰まり、この手紙はエフィルも関与している?

「という事で、パパをこれからある場所へご招待します! 私に付いて来てくださいね」

「おっと、今から招待か。どこに行くんだろうな~? あ、エフィル。そういう訳だから、ちょっと出掛けて来る。続きはまた後で」

「承知しました。いってらっしゃいませ」

クロメルに手を引かれ、そのとある場所へと誘われる。恐らくは計画通りの流れ、それでもエフィルがちょっとだけ残念そうな顔をしていたのは、精一杯のアピールが延期になったせいだろう。などと己惚れちゃう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

―――精霊歌亭・酒場

クロメルに導かれるまま歩く、歩く、歩く。部屋を出て屋敷を飛び出し、街の中へトコトコと。クロメルの歩幅に合わせている為、俺としてはゆっくりな歩調でちょっとした散歩気分だ。そういえば、最近は準備やらでのんびりしている暇がなかったんだ。クロメルにそんな意図はないんだろうが、これはこれで招待された甲斐があったってもんだ。

「パパ、到着しました。ここですよ」

「ここって…… 精霊歌亭か?」

「そうです。ささ、中に入りましょう」

状況が理解できないまま、俺はクロメルと一緒にスイングドアを開けて、店の中へとお邪魔した。

「お、漸く来たか。待っていたぜ~」

「いらっしゃい、ケルちゃん!」

「「「待ってたぜー!」」」

いつもの如くクレアさんが、こちらは珍しい事にウルドさんが俺を迎えてくれた。更にはウルドさんのいぶし銀パーティの皆さんや、顔見知りの冒険者達も揃っている。何だ何だ、酒盛りをするにはまだまだ時間が早いぞ? そしてそんな筋骨隆々な者達の中には、大変華奢な姿をした少女達もいる訳で。

「ケルにい、僕も待ってたよー」

「私もリオンちゃんと一緒に待っていたわ」

リオンに幼シュトラだ。うん、ここまではまだ分かる。ここまでならクロメルに繋がりで、まだ盛大なごっこ遊びという線も残っていただろう。

「ケルヴィン様、お邪魔しております」

しかし、そんな2人の横にはなぜかコレットがいたのだ。彼女の存在だけでごっこなんてもんじゃない、もっと本気の何かが始まるんだと俺に悟らせてくれる。コレットがここにいる事自体が、まず大事件だもの。

「あっとー…… 本格的にどういう集まりなんだ、これ?」

「パパ、ここです! ここであのお手紙を開いてください!」

このタイミングでか。懐からついさっき渡された手紙を取り出し、言われた通りに中身を確認。封筒の中には2枚の紙が入っていた。一枚目に目を通す。

「ケルヴィン様、貴方をバトルラリーへ招待致します。 ……バトルラリー?」

「うん、そのご招待! ここ最近のケルにい、ずっと働き詰めだったでしょ? だから僕達みんなで、この前のお祝いを兼ねたプレゼントを考えたんだ。それがバトルラリー!」

「詳しくは2枚目を見てね、お兄ちゃん」

「あ、はい」

2枚目をパラリ。そこには東大陸全土を記す地図と、チェックポイントとされる丸い空白表記が8つある。ラリーってくらいだから、これを埋めていく事になるんだろう。

「これからケルヴィン様には、そちらのチェックポイントを全て走破して頂きます。丸と丸を線で結んでいますので、スタートからその順番に進んでくださいね」

「順番に走破って、これ全部をか!? パーズにトラージ、次にトライセン、ガウン、デラミス――― これ、軽く東大陸1周分はありそうなんだけど……」

「そのルートを辿る分には国境を通るのに問題ないように、各国に話を通してあるから安心してね。もちろん転移門を使うのはなしよ」

自力で走れというシュトラ、笑顔がとっても素敵。

「……何となく理解した。俺にとってのご褒美、そしてバトルラリーというネーミング。このチェックポイントで、俺は何かしらと戦う事になるんだな?」

「正解! やっぱりケルにいは察しが良いね! 今日この日の為に、すっごく準備したんだよ~」

「「「俺達も準備完了だぜ!」」」

威勢のいい掛け声が聞こえると、いつの間にやら酒場に置かれていた丸テーブルが横にされ、壁際に立ち並ぶように設置されていた。これはアレだな、かつてセラとナグアが決闘をした時のやつだ。となると、スタートがここだから――― ほほう、ここでも一戦交えるって事か!

「まあ、お兄ちゃんは何となく察していたと思うけどね」

「いやいや、ここまで壮大なものを準備してると思わなかったよ。素直に驚かされた。 ……ちなみになんだけどさ、この酒場にこんな大人数が集まってる理由も、このバトルラリーと何か関係があるのか?」

苦笑いを浮かべながら、俺は辺りを見回す。ウルドさんをはじめとした皆が、ニヤニヤと怪しげに笑っているのが不気味だ。

「関係あるぜ! 何せこの酒場はスタート地点にして、第一のチェックポイントなんだからな! 相手はこの場にいる全員だ!」

「「「ケルヴィーン、殴らせろー!」」」

「ぜ、全員……!?」

酒を飲むにしては不自然だなとは思ったけど、まさかの全員参加である。

「あ、1つ訂正するけど、僕とシュトラちゃんは別のチェックポイントの担当だから、バトルラリーが始まったら一旦ここから抜けるね」

「私も今回は結界を施す支援担当でしたので、ケルヴィン様を殴る係ではありません。同じくその際は離脱致します」

「結界って…… コレット、まさかこの人数分施したのか?」

「フフッ、クロト様の支援を受けた私の支援は、今や留まるところ知らないのですよ。その証拠に巫女の秘術を施す際、一度も虹を描くことなく任務を完遂したのです!」

バッと両腕を振り上げ、誇らしげに立ち上がるコレット。決戦以来溜め込んでいたクロトの魔力が随分と減っていると思ったら、ここで使っていたのか。

「調子に乗って連続付与して、吐きそうになった瞬間もあったけどな!」

「だけどよ、巫女さんは吐いてないぜ! それはここにいる俺らが証人だ!」

「ああ、吐く寸前だったが、何とか持ちこたえたぜ!」

「み、皆さん、あまり詳細を語らないで頂けると……!」

あー、パーズの皆は俺の昇格式の時、コレットの大惨事を目にして耳にもしている人が多かったっけ。あれは悲しい事件だった。

「と、兎も角です! これで殺生の心配はなくなりました! ケルヴィン様も安心して殴り返せるというものです! さあ、存分に殴り合いをっ!」

「コレットちゃん、言葉遣い言葉遣い。あ、それとね、移動の時はクロメルちゃんを背負ってもらうわ。お兄ちゃんがちゃんと正規のルートを走っているか確認する為に、クロメルちゃんが目を光らせているからね。チェックポイントに辿り着いたら、戦う前にちゃんと下ろすように!」

「チェックポイントをクリアした時に、さっきのマップにスタンプを押す係も兼任です。パパ、不正は駄目ですよ?」

「しないしない。クリアより、素直に存分に楽しむのが優先だ」

クロメルと一緒に、か。ハハッ、こいつはクロメルの固有スキルを考慮しての難易度になりそうだ。要はやばい難易度。

「さ、あたしも久しぶりに本気を出そうかねぇ」

「え、クレアさんも参加するんですか?」

「当然だよ。ケルちゃん、手加減はしないからね?」

「おい、ケルヴィン。俺が言うのも何だけどよ、クレアには気を付けろよ? 今でこそこんな体型だが、昔は戦う料理人としてぶいぶいやってたんだぜ?」

「あんた、余計な情報は流さないのっ!」

「はい! すんませんっ!」

かなり失礼な事を言ってしまうが、現役のウルドさん達よりもクレアさんから強いプレッシャーを感じてしまう。

「あら、もう準備が整っちゃったのかしら?」

「っは、ちょうど良いタイミングだったみてぇだな」

バトルラリーの説明が終わり、さあ始めるぞ。という空気が酒場を支配しようとしていた頃、更なる乱入者が酒場の入り口より登場する。さっき思い出したばかりのナグアに、彼の仲間であるエルフのアリエルに、ドワーフのコクドリ。更にはパーズ支部のギルド長であるミストさん、その背後にギルドの職員さんがぞろぞろ。何だ、何なんだ、この人数は……!?

一応確認する為、コレットに視線を送る。するとコレットから、「私がやりました!」という、力強いガッツポーズが返ってきた。いや、そういう事じゃなく。

「合法的にこのスカシ野郎を殴って良いチャンスと聞いてよ、わざわざ来てやったぜこのスカシ野郎!」

「ナグア、言葉遣い言葉遣い! 相変わらずな挨拶で申し訳ありません、ケルヴィンさん。ですが、やるからには私も本気でいくつもりですので!」

「おう、ありがとう! ところで、シルヴィアとエマはいないのか? 3人だけってのも、何だか珍しいな?」

「ああん!?」

「ナグア、ハウスだ。こいつのイライラ加減を見れば察せると思うが、あの2人は別行動中だ。まあ、そこも察してくれればありがたい」

「あー…… うん、了解した」

察する。まだまだ先は長いもんな。

「私とお母さんもいるよ、ご主人様!」

「天井から失礼致します」

これで集合完了でもないらしく、今度は真上からメイド姿のエリィとリュカが下りて来た。おいおい、結構な広さのあった酒場も寿司詰め状態に近くなってきたぞ。

「これで全員ですね。改めまして、第一チェックポイントは私達『有象無象連合』が務めさせて頂きます」

「いやいや、有象無象って……」

ミストギルド長、その命名センスはどうかと。

「ケルヴィンさんのお力に比べれば、 第一チェックポイント(ここ) を担当する全員、力が及ばない事は周知の事実ですから。ですが、今回のルールは不殺の上特殊。それがどんな攻撃であろうと、一撃をもらった瞬間にリタイアとなり、コレット様の秘術が発動する事になっているのです。リタイアした者はテーブルで作った柵の外に飛ばされますので、誰が脱落したかを確認するのは一目瞭然ですね」

「ええと…… 詰まり、俺は一撃でも攻撃をもらったらアウト?」

「アウトですよ、パパ♪」

クロメルがテーブルの柵の外で、スタンプを押す姿勢で待っている。俺の勝利を確信してくださっている。これ、絶対行動を間違えられないパターンじゃないですか。ミスったらクロメルが泣いちゃうじゃないですか。

「バトルラリー始まりの合図は、僕達が店から出る時に鳴るスイングドアの音にしよっか」

「それが良さそうね。それじゃお兄ちゃん、私とリオンちゃん、コレットちゃんは先に失礼するね」

「ケルヴィン様、東大陸全土を巻き込んだこのお祭り、楽しんでくださいね!」

リオン達が歩き出し、スイングドアの向こうへと消えて行く。その瞬間、酒場より喧騒が渦巻いた。