軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第568話 それから

―――ケルヴィン邸・ダハク農園

「ほう、それからどうなったんじゃ?」

「アズグラッドとサラフィア共々、大人なシュトラにこっぴどく叱られたよ。国の将来に関わる密談をするなら、もっと慎重に考えて行動しろってな」

「あ、そっちッスか?」

トライセンからの帰還後、屋敷の農園にてジェラールとダハクを相手に話をする。シュトラとの婚約騒動が既に屋敷中へと広まってしまった為、ここで一時的な避難をしているのだ。なぜ避難しているのかと聞くのはナンセンスだぞ。何、直ぐに戻るさ。でもちょっとだけ安寧を得させて。

「俺はてっきり、ケルヴィンの兄貴との婚約について話すのかと思ってやしたよ」

「ガハハ、シュトラは聡明な娘であるからな。色々と自分の中で天秤にかけて、何を最も優先すべきかを分かっとるんじゃろう。うむ、そうじゃないとこんな決断なんてしない筈じゃ。ところで王よ、久々に剣を交えぬか? 軽ーい鍛錬じゃ、鍛錬」

ジェラールは世間話でもするような軽いノリでそう申し出るが、兜の奥の鋭い眼光が絶対に鍛錬では済まさないと語っている。仮孫に何してくれてんじゃと言っている。

「そんな凄いプレッシャー背負いながら凄むなよ。ぶっちゃけ、今はジェラールが敵に回るときっつい」

ちゃんと確認もしたんだよ? 大人シュトラからは主に国としての利得を説かれ、あまりシュトラ自身の心情には触れる事ができなかったんだが、子供シュトラにそれを伺ったところ、一言目に「お兄ちゃん好きだから大丈夫!」と、お兄ちゃん冥利に尽きる言葉を頂いたのだ。大人シュトラより名目上の理由を、子供シュトラより彼女の素直な気持ちを確認、といったところだろうか。何はともあれ、俺の反対する理由は綺麗さっぱりと消えてしまい、俺とシュトラは婚約に至った。

「シュトラとの話を出した瞬間、セラ姐さんに思いっ切り殴られてましたからね。お勤めご苦労ッス」

「んなシャバに出た時に言われるような言葉を投げられてもな……」

セラ渾身の一撃は凄まじかった。お蔭で俺の頬は痛々しく腫れてしまっている。しかし、本当に警戒すべきはこれからだろう。場合が場合だから仕方ないとはいえ、俺はシュトラとの結婚を約束したのだ。これによってメル、エフィル、セラ、リオン、アンジェの目の色は完全に変わってしまった。以前にした取り決め通り、結婚するなら全員同時に。これを怠れば、恐らく俺は死ぬだろう。

「仕方ないのう。苦境を脱したら、ちゃんとワシに斬られるのじゃぞ?」

「剣を交える話から一方的な虐殺になってるぞ、おい」

「翁ジョークはこの辺にしておいて、マジでどうするんじゃ? 本当に全員との結婚を同時に行うのか?」

「人間の 番(つがい) がどう成立すんのか、俺も前に勉強した事があるッスけど…… 相当大変みたいッスね。竜みてぇにストレートに決まるんじゃなくて、親やらから許可を得て、複雑な儀式をして、その他にも準備を色々するんスよね? それがシュトラみてぇな王族ともなりゃあ…… 兄貴はすげぇなぁ」

もっと言えば、コレットとの責任問題もある訳で。昔は面倒な王族貴族達の争いに巻き込まれるものかと言っていたが、色恋の魔の手によって今やこのざまよ。いや、もちろん気の多い俺が悪いんですけどね。

「それにしてもダハクよ、お主にしてはやけに詳しいのう?」

「へへっ! そりゃまあ、俺だっていつかはプリティアちゃんと 番(つがい) になる気なんで、そっちの文化も知っとかねぇと!」

「……うむ、頑張れ。超頑張れ。ワシはお主を心から応援しているぞい」

「おっと、その手には乗りませんよ、ジェラールの旦那! 俺は一切油断も隙も作らねぇッス!」

いや、ジェラールは本当にダハクを応援しているだけなんだけどな。しかし、今や次期転生神となったプリティアとの結婚か。怖いもの見たさで興味があるような、止めておけという察知スキルに従った方が良いような、微妙なところだ。そもそも普通の結婚式形式で良いのか、その場合?

「あ、そういやセラ姐さんも王族か? 兄貴、マジでやばいッスね」

「親族の許可を得るって点では、トライセンよりむしろそっちの方が難易度高いんだよ。しれっと『真・試練の塔』とか計画してそうだ」

「王がグレルバレルカ帝国で登った塔じゃったか? ありそうじゃなー。ワシも準備しとこうかのう、見極めるに相応しき塔を」

え、ジェラールも建てるの!?

「ま、まあ、リオンが成人するまで数カ月の時間がある。それまでに予定立てて、それぞれの準備を進めるさ。その間にも残りの神柱を探したり、見所のありそうな人材を見つけたりもしたいし、これから忙しくなるぞ。そうだ、西大陸や北大陸の未探索の場所へも行ってみたいな。クロメルに色々と経験を積ませたい!」

「うわ、手広くやるッスね~。流石に忙し過ぎじゃないッスか?」

「やる事が多いのは良い事じゃが、クロメルに何かあったら―――」

「おい、抜くな。一々剣を抜くな。大丈夫だから!」

ダハクはやや心配そうだが、忙しいだなんて言ってられない。記憶を失う前、クロメルは俺を永久に楽しませようと苦心し神となり、世界ごと輪廻させる方法を実行しようとした。それを否定した今において、こんなところで絶望している暇はないんだ。世界を輪廻させる必要なんてなく、世界がこのままだったとしても、俺はどこまでも戦いを、人生を、全てを堪能する。そしてその様を、我が子であるクロメルに見せてやる。そう決めたんだ。

「パパー!」

俺がジェラールの剣を押さえ付けていると、屋敷の方からクロメルに呼ばれた。脳が命令を出すよりも速く、俺の体はそちらへと向いていた。ついでにジェラールも同様だ。2人は仲良し、クロメルの前で喧嘩なんてできません。笑顔で駆け寄って来たクロメルを抱き上げる。

「どうしたー? またママにおやつを取られたのかー?」

「ぷふっ、違いますよー。あれは私の分を、ママにお裾分けしているだけですもん。確かにとっても欲しそうな顔をされましたが、あくまで私の意思です」

「たまにッスけどクロメルのお嬢、メル姐さんよりしっかりしているような、そんな気がするッス」

「いや、まあ、うん……」

事実、そういうところもあるから何とも言えない。特に食欲については、どういう訳かクロメルは歳相応の子供並みにしか食べないのだ。むしろ少食かも。メルは相変わらず大食いなのに、謎である。

「ママ達が今後の予定について話したいそうです。私ならパパも逃げないだろうという理由で、メッセンジャーに選ばれちゃいました。これでお仕事達成です!」

「そ、そうか、ありがとう。助かったよ……」

「おー、完璧に弱点突かれてるッスね」

「不味いのう、その方法はワシにも通じるパターンじゃて……」

全くその通り、俺とジェラールはこの攻撃を避ける術がない。必中でハートをキャッチされてしまう。

「王よ、さっきまで覚悟を決めた良い顔をしていたんじゃ。そのままの気概で行くと良いぞい」

「胃の痛みも噛み締める覚悟だけどな……!」

「パパ、行きましょう?」

「よ、よし、行こうか」

クロメルと手を繋ぎ、おっしと気合いを入れて屋敷へ足を向ける。

―――ピカッ!

しかし、健気にも腹を決めた俺の心を揺さ振る出来事が、天より降り注いだ。具体的にはピンク色の怪しげな光の集合体が、上空から舞い降りて来たのだ。ここにいる男達全員は体を硬直させ、クロメルは何事だろうかと可愛らしく首を傾げている。

「やばい……」

「やっば……」

「やべぇ! やべぇ!」

「?」

俺達はあの桃色を知っている。脳裏に焼き付けてしまっている。動け体、今ならまだ間に合う!

「うふぅん。皆ぁ、お・ま・た・せ(はぁと)」

新たなる転生神、顕現。俺は急いでクロメルの目を手で覆い、視覚的な刺激を少しでも軽減するよう努めた。