軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第567話 覚醒

―――トライセン城・アズグラッドの私室

「妥協って…… いや、そこを指摘する前に、一度話を全部聞いておこう。続けてくれ」

言いたい事は山ほどあるが、まずは状況整理からだ。サラフィアが何も言わないって事は、彼女も納得の上での決断なんだろう。しかしだ、俺はまだ納得していない。

「さっきも言った通り、このままだとシュトラはどこかへ嫁ぐ形になるだろう。魔王騒動で落ち目にあるトライセンだが、東大陸の4大国である事に変わりはねぇ。俺が俺がと歓迎する奴は多い。それを機に国を大きく立て直すチャンスと捉える文官も、実際のところ少なくない」

「だけど、アズちゃんはそれが気に入らないのよね? 可愛い可愛い妹を見た事もない他人に、下手をすれば愚かな弟達みたいなクズに渡す事になるのが許せないのよね? 分かる、分かるわ~」

「一々茶々を入れるなっての! ……まあ、間違ってはないけどよ」

この発言には俺もニッコリ。だ、だがまだ、俺は納得していないからな!

「妥協案ってのは、国の威信を回復しつつ、かつ有益な協力関係を築くに相応しい人物を、先手を打って俺の方から選ぶって事だ。豚共に無用な宝をやるよりも、俺が認めるまともな奴にやった方が100倍マシってこった」

「アズちゃん、豚は意外と綺麗好きで賢くて、その上美味しいのよ。存在自体が無駄な愚か者達と比べたら、豚に失礼ってものでしょ?」

「い、いや、そこまでは言ってねぇんだが……」

あ、分かった。サラフィアって好きな者にはどっぷりだけど、嫌いな奴はとことん嫌うタイプだ。アズグラッドの弟に当たる王子達とか、今の言動から察するに後者でしかない。今までトライセンの城に来ていなかった理由って、もしかしてそれなのか? 確か魔王騒動に巻き込まれたとかで、全員行方不明になってたっけ? まあ人望がないとか時間がないとかそれどころではないとかで、捜索は早々に打ち切られたらしいけど。

っと、脱線脱線。そんな王子達の事など、俺にとってはどうでもいい。アズちゃん、話の続きを早くしてくれと目で催促。

「あー…… 要はよ、俺と趣味が合って俺と共感できて、尚且つ俺が認めた野郎がお前だったって事だ、ケルヴィン。そこいらの小国よりよっぽど影響力のあるS級冒険者に嫁ぎ、深い関係を結んだとなりゃあ、うちの国のもんが文句を言う事もねぇ。百歩譲ってお前になら、俺としてもシュトラを任せられる。かなーり譲歩してだけどな」

「お、おう」

正面からそう言われると、なかなかに恥ずかしいものがある。確かにアズグラッドにはバトルで勝った事があるし、実力は認められていると思う。バトルジャンキーな趣味趣向、シュトラを可愛い妹して接している点で、精神的に共感する部分も多い。

「アズグラッドの言い分は理解した。理解したが…… 素直にその話を肯定する事はできない」

「あん? おいこら、シュトラじゃ不足だってのか? 延いてはトライセンに喧嘩売ってるのか?」

「喧嘩腰なのは結構、だけど俺が言いたいのはそんな事じゃない。一番大切なのは、何よりもシュトラの気持ちだろ? お前が凄い妹思いなのは分かったけどさ、それを抜きにこれ以上の話は進められない」

そう、話の筋がいくら通っていたとしても、この縁談がシュトラを大切に思うが為のものだったとしても、尊重すべきはシュトラの心なのだ。嫌がるシュトラと結婚させられても、その後の生活が大変な事に―――

「―――ああ、それならもう許可はもらってるぜ?」

「……えぇ?」

予想外なアズグラッドの言葉に、ちょっとだけ変な声が出てしまった。許可って何? もしかしてシュトラに聞いて、オーケーが出ちゃったって事?

「マ、マジで……?」

「今日はやけに疑り深いな。兄として、妹の気持ちを酌むのは当然だろうが。小さい姿のシュトラ、元の姿のシュトラの両方に確認取ったわ」

「更に更にここだけの話、本心ではどう思っているのか? と私からも何気なく尋ねて、再確認も済んでいます。いずれの場合も、ケルヴィンさんとの婚約には前向きでしたね」

「………」

「あら、嬉しくて声も出ないなんて、お膳立てした甲斐がありましたね。アズちゃんも嬉しいでしょう?」

「複雑過ぎてよく分かんねぇよ。ま、ケルヴィンのその反応は妥当なところだろうな。舞い上がるのも当然だ。但し、正式に式を挙げるまでは手を繋ぐのも接吻も絶対厳禁だ。破った時点で俺がたたっ斬りに行く。外交も面子も関係ねぇ、そんくらいの覚悟だ。分かったか?」

アズグラッドとサラフィアが勝手に話を進めているけど、あまりの出来事に俺の頭はたった今再起動したばかりだ。準備が良いというか、用意周到過ぎて怖いレベルというか、兎に角驚いてしまった。待て待て、唐突にそんな事を言われたって、俺にだって心の準備というものがある。

シュトラが前向き、あのシュトラが前向きに婚約を考えている? しかも子供と大人、その両方が? アズグラッド達にああ言われた今でも、正直なところ疑心暗鬼に駆られてしまう自分がいる。確かに俺はシュトラに好意を持っている。だがそれは、あくまでも妹としての感情だ。恋慕の情ではない、と思う。てっきりシュトラもそう思ってくれていると考えていたから、こんなにも動揺してしまうんだろうな。念話で直接聞いてみれば最も手っ取り早く確認できるけど…… 俺のメンタルはそこまで鋼ではないのだっ!

「おい、ケルヴィンが頭を抱え出したぞ?」

「妹を恋愛対象として見て良いのか、本当にシュトラがそんな事を言ったのか、その辺りで混乱しているみたいね。うんうん、青春って感じで素敵だわ~」

「後半は兎も角、前半はそうでもねぇだろ…… ったく、おいケルヴィン! 今更んな小せぇ事で悩むんじゃねぇ! お前、実の妹ともキスするような間柄だろ! 血が繋がってねぇ分、シュトラの方が健全だろうが! 悩む必要がどこにある!? あ、言ってみろ!?」

「―――ハッ!?」

た、確かに……! そう考えると、途端にシュトラへの後ろめたさがなくなった。少し補足するとリオンも一応義理の妹なんだが、そこは置いておこう。まさかこんな簡単な事をアズグラッドから教えられるとは、思ってもいなかった。どうやら妹談議を行うに値するか、評価するのは俺の方ではなかったらしい。アズグラッド、お前の方がよっぽど妹を理解している!

「へっ、目が覚めたようだな」

「ああ、アズグラッド義兄さんのお蔭でね。霧が晴れた思いだよ……!」

「頼む。その呼び方は気持ち悪いから、いつも通りに戻してくれ。じゃあ、次は後半の悩みだ。念話ってので、ここからでもシュトラと話せるんだろ? さっさと確認しちまえ。それとも何か? 直接確認するのが怖いってのか、『死神』さんよ?」

「ふっ、そこまで煽らなくても大丈夫だ。アズグラッド、俺はお前を信じているからな」

最早迷いは微塵もない。念話先をシュトラへ設定し、コールする。

『―――はい、シュトラです。ケルヴィンさん、いかがされましたか?』

『っと、元の姿に戻っていたのか。シュトラ、唐突に申し訳ないんだけどさ、1つ確認したい事があるんだ』

『奇遇ですね。実は私も注意して頂きたい事が1つありまして』

『え、注意?』

『はい。アズグラッドお兄様の私室の中とはいえ、鍵くらいはしっかりと閉めた方が良いかと』

『………』

ゆっくりと部屋の扉の方へ振り向くと、扉が半開き状態なのを確認。その隙間から大人シュトラをはじめに、リオンやクロメルの姿が見えていた。

「ええと…… シュトラさん、私のママになるのですか?」