軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第564話 愛娘

クロメル女神像より姿を現したのは、小さな小さな女の子であった。年齢にして幼シュトラと同じくらいだろうか? くりっとした目をしていて、幼いながらも美しさを感じさせる容姿をしている。可愛いと綺麗を掛け合わせて更に2乗したような、大変素晴らしい造形美である。見るからに上等な衣服で身を包んでいる辺り、どこかのお城のお姫様か、名家のお嬢様といったところか。そうだろう、そうだろう。そうに違いない。彼女は腰下まで伸ばした艶やかな黒髪を揺らしながら、瀕死状態なコレットの眼前にまで歩み寄る。コレットはもうノックアウト寸前で、それ以上視界に入れないよう頑張って己の欲求と戦っているようだ。一瞬サイ枢機卿が歩み寄るのを制止しようと動きかけたが、姿を晒した彼女を確認した途端に、それを取り止めて俺達の方へと振り向いた。

「……メルフィーナ様、ケルヴィン様。説明を求めてもよろしいでしょうか? よろしいで、しょうか?」

サイ枢機卿、不思議と二言目の語尾が上がっているような、そんな気がしますぞ。ああ、はい。説明します。ちゃんと説明しますから。

「パパー、ママー、こちらの方が凄く苦しそうです。えっと、助けてあげないと。この場合、回復魔法……?」

「大丈夫だから、早くこっちに来なさい。彼女は可愛いものが視界に入っちゃうと、鼻と口から血が出ちゃう病気なんだ。だから早く離れなさい、 クロメル(・・・・) 」

「わ、私は可愛くなんてないですよ! もう、パパったら!」

「そんな事はないぞ! クロメルは世界一可愛いぞ!」

俺達の下へやって来たクロメルを抱き抱え、その場で何回転か回ってしまう。回る最中にサイ枢機卿と視線がぶつかった。わ、分かってますよ。説明しますよ。

「ええと…… うちの愛娘です」

「クロメルです。よろしくお願い致します」

ペコリと礼儀正しく頭を下げるクロメル。可愛い。

「これはこれはご丁寧に。神皇国デラミスにて枢機卿の職に就いております、サイ・ディルと申します。まさかご息女がいらっしゃるとは、大変驚きました。お名前を聞いて、更に驚きましたとも」

「いやー、あはははは……」

そう、この子の名はクロメル。一見ただの超絶可愛い天使なんだが、実は先の戦いの黒幕であったクロメルと同一人物なのだ。クロメルが瀕死の状態だったあの時、俺は召喚術で契約を申し出た。回復魔法で瞬時に治療できる傷でもなかったし、俺の魔力体とする事で一時的な延命を測る事しか、クロメルが助かる道はなかったからだ。そしてクロメルは、俺の差し出した手を握ってくれた。

その後、クロメルは数日間眠りっ放しだった。無理もない。あれだけの重傷に加えて、神機やら先代竜王やらジルドラやらと融合して、そもそもが不安定な状態にあったんだ。おまけにメルフィーナが転生神を辞した事で、以前に吸収した力が更に大変な事に。それだけの事があったのに、数日で目を覚ましたのは奇跡だったと言って良いだろう。ゆっくりとではあったが確実に、クロメルは俺の魔力内で復活を果たしたのだ。

「パパ、もしかして私のせいで怒られているのですか? そ、その、ご、ごめんなさい……」

「い、いえ、私は決して怒っている訳ではないのですよ!? ただほんの少しだけ、御二人の間にご息女がいらっしゃった事に驚いただけです! 深い意図はありませんとも!」

「そ、そうでしたか。良かった、皆さんは仲良しさんなのですね♪」

可愛い。だがしかし、復活の際に予期せぬ事態が発生した。復活後に召喚したクロメルの姿は幼く、精神までもが相応のものとなっていたのだ。それも以前の記憶はないらしく、レベルも1に戻ってしまっていた。唯一クロメルとの契約の秘密を共有していた俺とメルはその場に固まってしまい、頭の中は真っ白な状態だ。幸か不幸か、その場には俺達しかいなかったんだが、召喚されたクロメルは俺達を見るや否や、こう言い放ったのだ。

『パパとママ、ですか?』

射られるハート、溢れる父性本能。こうなってしまった経緯などもうどうでもよく、俺はもう駄目になってしまっていたんだ。そして俺は決意した。この子を俺達の娘にして立派に育て上げる、と。だってほら、こんなにも可愛いんだもの。そりゃもう無償奉仕ですよ。今度は俺が頑張る番ですよ。

冷静になって考えてみろ。クロメルはメルフィーナの幼い姿なだけあって、メルの子供だと言っても何の不思議もないのだ。悪魔と同じく、天使も一定の年齢を過ぎると容姿が変化しなくなるしな(メルフィーナ談)。何よりもクロメルの髪の色は、俺と同じ黒色だ。ここまできたら、もう完璧に愛娘だって通るようなもの! セラ達に説明した時は大いに誤解を招いて酷い事になりかけたが、俺はとっても元気です!

「「きゃっきゃっ!」」

「―――と、色々あったのですが…… 記憶に関してはセラにも確認してもらいましたが、本当に失っているようでした。嘘をついている訳ではないようです。ただご覧の通り、酷い親馬鹿になってしまいまして」

「心中お察しします、メルフィーナ様」

「いえ、それもこれも行き場を失っていた愛情が、子煩悩な愛に裏返ってしまったのが原因なのです。だからその、大元な原因を作ってしまった私も責めるに責められず、大目に見て頂ければ……」

「ママも遊ぼ~」

「はぁ~い♪」

「メルフィーナ様もどっぷりですね」

周りの目なんて気にならない。今ならジェラールや義父さんとも、深い意思疎通ができそうだ。そりゃ愛する子供を取られたら、俺を本気で殺しにくるよなー。俺だってそうするだろうしなー。仕方ないよなー。

「……ハッ! あ、あの、こ、こちらの大量殺戮兵器は一体!?」

正気を取り戻したコレットが、クロメルを見ないよう注意を払いながらそう質問してきた。コレット的には最上級の褒め言葉なんだろうが、一周回って失礼である。

「そんな物騒な兵器じゃないからな? 俺とメルの―――」

「―――だ、駄目です! このような素敵な暴力、私は耐えられません! お話しを伺っていましたが、幼いクロメル様なんて血が足りなくて直視できませんもん! 見たいのに見れない! 酷い、こんなの拷問です!」

両目を手で押さえて、自ら視界を塞ぐコレット。うちの子も学習して、コレットの視界に入らないよう俺の後ろに隠れているから大丈夫なんだけど。

「しかし、これからどうなさるおつもりですか? 世間一般に広まっていないとはいえ、4大国の上層部はご息女の、いえ、先の戦いを巻き起こしたクロメル様の存在を知っています。受け入れられるかどうかは、正直なところ分かりませんよ?」

「サイ枢機卿、お忘れかな?」

「え?」

「さっきの魂葬の儀で、その上層部達が知るクロメルは安息を得たんだ。それはコレットやサイ枢機卿が証言してくれている。よって、ここにいるのは純粋無垢な俺達の娘である、可愛いだけのただのクロメルだ!」

「うっ! し、しかしそれは妄言で―――」

「―――なるほど、百理ありますね。異世界では脇から生まれた偉人がいると聞きます。では、先代の神であったメルフィーナ様がぽろっとお子様を生んだとしても、何も不思議なところはありません! 文句を言う輩がいたとしても、デミラスの巫女たる私が世論を味方にできるよう先導すれば!」

「コレット様、お願いですから冷静になってください!」

「私は冷静ですよ? 血を流し過ぎて、1周回って冷静です」

よし、コレットが仲間になった。

「サイ枢機卿、もう一度考えてみてください。もし仮にこの話をセルジュ・フロアに相談したら、彼女は何と答えるでしょうか? 二つ返事でこう答える筈です」

「……っ! 可愛いは正義、ですね! なるほど、百理あります!」

続けてサイ枢機卿も仲間となり、可愛い可愛いクロメルの存在は認められる事になったのだ。他の国に向かった仲間達も、今頃説得を終えている頃じゃないかな?