軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第562話 供養

会合を終えた俺とメル、そしてコレットの3人はデラミス宮殿より少し歩いて、とある場所へと向かった。そこは数多くの石碑が立ち並ぶ、所謂墓地と呼ばれるところだ。墓地というと薄暗く、無条件で怖そうなイメージを思い浮かべるものだが、ここデラミスに置かれる白で統一された石碑は清掃が行き届いており、周りも整備された芝生や花々で彩られている。空気は非常に健やか、視線を遠くまで伸ばせば海も見えるという、墓地にしては大変過ごしやすい場所だ。

「良い場所だな。墓地って予め聞いてなきゃ、ハイキングを始めるところだったよ」

「からのバーベキューですね? 分かりますよ、ええ!」

メルよ、ジョークに対して真面目に乗っからないでくれ。コレットもその手があったか! みたいな顔をしないで。雰囲気がぶち壊れちゃう。

「さてはメル、お前ファーニスの一件からバーベキューの味を占めたな?」

「な、何の事でしょうか? 一般天使な私にはさっぱりです。それにしても本当に良い墓地ですね、実に良い墓地です」

わざとらしく視線を逸らす元転生神。元々バカンスで下界していたメルであるが、ここ最近は神の束縛からも解放されたせいか、以前よりも己の欲に忠実になっているような気がする。まあ今日のような会合など、先代の神として責務を果たすところではしっかりとしているから、文句はないんだが…… 問題はやはり食欲だな、食欲。いつかエフィル1人じゃ手が足りなくなるのではないかと、屋敷の主としてとてもヒヤヒヤしている。

「ありがとうございます。死した魂が安寧を得られるようにと、かつての巫女が設けた場所なんですよ。その時の意思を継いで今でも身分に関係なく、申請があれば誰であろうと受け入れるようにしています。ただ予算の関係上、無料とまではいかないんですけどね。集合墓などで費用を何とか抑えて、大抵の方が利用できるよう努力はしているのですが……」

「いやいや、流石にタダじゃ維持は難しいだろ。これだけ立派な場所なんだし、ある程度は仕方がないさ」

「フフ、そう言って頂けると、創始者である巫女セシリアも救われます」

とはいえ一般の方々が参拝に来ている為、巫女であるコレットは顔が見えぬよう変装中。俺やメルも一応S級冒険者に名を連ねているので、リンネ教徒の衣服を借りてフードを深く被っている状態だ。仕方ないけれど、拝む時は顔を晒したいのも正直なところ。

「ご安心ください。これより先はリンネ教関係者、それも枢機卿以上の者より許可がない限りは、立ち入れない管理区域です。そこからは顔を晒しても大丈夫ですよ」

「……あれ? さっきの、言葉に出してたか?」

「そういう顔をしていたんですよ、あなた様」

「ええ、されていましたね」

「むう……」

まさか、メルどころかコレットにまで心を読まれる日が来ようとは。俺ってそんなに感情が顔に出やすいタイプなんだろうか? ああ、いや、戦いは抜きにしてだぞ? いくら何でも、それは自覚するようになったから。

そんな風に自問自答しているうちに、銀の装飾が施された白壁がそびえ立つエリアに辿り着く。白壁の奥へと通じる門の前には、神聖騎士団の騎士と思わしき門番が立っていた。更にその門番の前には、俺達と同じ格好をした者が1人。何やら門番と会話をしているようだ。

「お疲れ様です。作業は順調に進んでいますか?」

「ああ、コレット様。お待ちしておりました。ええ、順調ですとも。何といっても、巫女様が自ら提言された大仕事ですからね。秘密裏にではありますが、腕の良い職人と魔導士は十分に揃えています。っと、そちらにいらっしゃるのは、もしやメル様とケルヴィン様では?」

「サイ枢機卿?」

コレットに声を掛けられて振り返ったのは、白い衣装から黒肌を覗かせる美青年、サイ枢機卿だった。以前に目にした位の高そうな祭服でないところを見るに、俺達と同じ理由で着替えているんだろう。門番をしていた騎士達はコレットの姿を見た途端に目を丸くして、ビシリと敬礼したまま固まってしまった。

ここでは何だからと、サイ枢機卿は自らの権限で彼らに門を開けさせる。そのまま自然な流れで俺達と合流し、目的地へと向かう事に。どうやらサイ枢機卿も、俺とメルがお願いした件に携わっているようだ。聞けばコレットは元々、会合が終わった後にこの場所を視察する事になっていたらしい。

門を潜った先も墓場になっているようで、先ほどよりも大きなサイズの石碑が立ち並んでいた。施される装飾も、より荘厳かつ精密な作りのものが多い。恐らくここから先は、デラミスの有力者らの墓になっているんだろう。俺達が以前に攻略した『英霊の地下墓地』も、その名の通り墓地としての役割を担っていた。しかし、最近までモンスターの巣窟となっていて、浅い層までしか活用されていなかった筈だ。ここはその代わりの場所なんだろうか? いや、あのダンジョンも元はフィリップ教皇が設計した場所らしいし、どっちが新しいのかまでは、ちょっと分からないな。

ただ1つ言えるのは、この区画の警備がかなり厳重である事だ。竜や天使を模した、どう見ても石碑とは思えぬ石像が、そこらかしこに設置されている。これ、デラミス宮殿で見たアレだよね? フィリップ教皇のいる階層に置いてあったアレだよね? うん、断言しても良い。この場所に侵入者が入り込んだら、これらは絶対に動き出す。動き出して侵入者を撃退する。未だにその場面を見た事はないんだが、俺はなぜか確信を持てた。

「なるほど。それで貴方が門の前で待機されていたんですね?」

「ええ。多忙なコレット様に代わって、こちらの担当をさせて頂いています。とはいえ、設計などはコレット様の意向が強く反映されていまして、その……」

「「?」」

フィリップ教皇にも物怖じしないサイ枢機卿にしては珍しく、言葉を続けるのに窮している様子だ。一体どうしたんだろうか?

「ご安心ください! 大部分をサイ枢機卿にお願いしてしまいましたが、このコレット、重要な箇所は全てこの手で押さえていますので!」

「「あっ……」」

意図せず重なってしまう、俺とメルの呟き声。察した、今の言葉で全てを察した。

というのも、先の戦いが終わった直後、俺達はコレットにとあるお願いをしたんだ。クロメルと舞桜、そしてリオルドを供養する為の墓を、デラミスに作ってもらえないか? というお願いを。これからコレットが忙しくなるのは分かっていたんだが、これだけはどうしてもする必要があった。

あれだけの騒動を起こした黒幕達だ。墓に名を記す事はできないし、決して許される存在ではない。だがそれでも、せめて俺達だけでも、あいつらを弔ってやりたかった。舞桜についてはリオンから、リオルドに関してはアンジェから事情を聞いている。クロメルは言わずもがな、俺が一番理解している。あいつらは自分達が世界にとっての悪である事を自覚した上で、己の正義を貫き通したんだ。その事実を知る者はとても少ない。少ないからこそ、その想いだけでも俺は汲んでやりたかった。

どんな小さな墓でも良いと、その筋で最も信頼できるコレットに相談したのは、コレットなら絶対に断らないという打算的な考えもなかった訳じゃない。しかしそれを抜きにしても、俺はコレットを頼っただろうな。何だかんだで一番信じているし、メルも俺に賛同してくれたんだ。迷いはないさ。

「あの、コレットさん…… これは?」

「頑張りました! 私のポケットマネーも運用しました!」

墓地の中心地、たぶんこの区画で最も偉い方々の墓が集う場所。そんな超重要そうな石碑群を押し退けるような形で、ズドンとそびえ立つ巨大な石碑があった。石碑というか、石像というか、女神像というか――― それはメルフィーナの、いや、クロメルの巨大女神像である。

「ちょ、ちょっとだけ、大きくない、か?」

「うふふ、決してそんな事はありません。ああ、とても素晴らしい出来です。あ、鼻血が……」

今更ながら、少しは迷えば良かったと思い始める。