軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第561話 受け皿

世界を巻き込んでの戦いを引き起こした首謀者、クロメルとの決戦から数日が過ぎ去った。あれからプリティアが転生神を引き継ぐ事で、世界の崩壊は大きな傷跡を残しつつも、回避する事に見事成功。今ではすっかりと安定し、各地から天使型モンスターの姿もなくなったのであった。

しかし、あれだけの騒動があった後の事だ。どこもかしこも後始末で手一杯のようで、殺人的なスケジュールの中で日々を送っている。特にデラミスのコレットなんて、多忙に加えて転生神関連の事柄にまで携わっている。多忙なのはいつもの事だが、ここ最近は本気で過労死を心配するレベルだ。

まあ、かく言う俺もそんな転生神様の関係者な訳で、無事にそのイベントごとに付き合う事となった。壊れてしまったジェラールの魔剣を直す暇さえなく、瞳に生気がない感じで毎日を楽しんでいる。ああ、ついこの間までの楽しいひと時が懐かしい、戻りたい―――

『―――あなた様、あなた様! 時には上の空になるのも良いですが、ほどほどにしてくださいね?』

『話し合いしか行わない会議に、一体何の価値と意味があるんだろうか……』

『そう言わないでください。意味はちゃんとありますから、せめて表情だけでもキリッとしましょう。キリッと! はい、今日も素敵ですよ』

隣に座るメルに顔をメイキングされ、生気を取り戻す俺。今何をしているのかというと、デラミスで行われる会合に出席している真っただ中。例の転生神関連の事柄、というやつだ。立場上、俺は前転生神であるメルの使徒。継承云々の話を進めるにおいて、メルと共に最重要人物に指定されちゃってるのである。コレットより100%の善意を以ってして、フィリップ教皇からは100%の悪戯心を以ってして言い渡された、大変名誉のある任務なのだ。但し俺はメルのお飾りのようなもので、基本的には椅子に座っているだけ。既に大変退屈な任務と成り下がっているのは、言うまでもないだろう。とはいえ、メルの今後に関わる大切な風儀である事に変わりはない。己の欲を殺し、きっかり最後まで付き合う所存だ。

プリティアが未来の仮転生神となった後、メルは神としての力を失った。正確には任命を行う最後の権限は残っているそうだが、『転生術』などといった特異な能力は疾うにない。また、今のメルは義体を用いての顕現ではなく、メル本来の肉体が下界している状態にある。まあ神でなくなったのだから、それも当たり前か。義体が有していた『絶対共鳴』もなくなり、ステータスも以前とは全くの別物だ。神となる以前に、メルが有していた本来のステータスと言えば良いのかな? 尤も神でなくなろうとその食欲は全く衰えず、『大食い』スキルを当たり前のように覚えていた。神でなくともメルはメル、その点は一切変わらないんだ。寝相の悪さも、俺が太鼓判を押してやる程度に変わらない。

「それでは、この案件はそのように致しましょう。今度魔王が現れる兆しが見えた際は、我々リンネ教と貴教会が協力体制を築き、準備を進めるという事で」

「ええ、それで構わないわん。私も初代巫女として、全精力を注がせてもらうから。同じ巫女として、末永く仲良くしていきましょうねぇ?」

「え、ええ。私達も良好な関係を望んでいます」

コレットと対談するこの巫女と名乗る人物、話し方が特徴的なので、プリティアを思い浮かべる者が多いかもしれない。しかし、プリティアは現在天使が住まう空の大陸、 白翼の地(イスラヘブン) へと赴き、天使の長達を魅了している最中である。では、こいつが誰なのかというと―――

「―――あらん? ケルヴィンちゃん、何だか元気がないみたいねぇ? ほら、スマイルスマイルぅ! ガウンで私と交わった時は、もっと良い笑顔をしていたじゃな~い!」

「え゛っ……? ケ、ケルヴィン様!?」

「違うから、誤解だから」

勘違いも甚だしいから、即刻訂正しよう。全っ然違う。

ええと、何だったっけ。あいつが誰かって話の続きか。彼女はかつてガウンの獣王祭にて、俺と熱いバトルを繰り広げたプリティアの妹弟子、グロスティーナ・ブルジョワーナだ。あの時は猛毒に苦しめられたっけな。で、なぜこいつがデラミス宮殿という場違いな場所にいるのかというと、新たな転生神の巫女、詰まりは初代『ゴルディアの巫女』に就任したからである。

……うん、俺も色々とツッコミたいところだが、それは我慢している。こうなったのも、プリティアの愛故、愛故の結果なのだ。と、唐突にこんな事を言われても、意味不明でしかないだろう。順に説明していこう。リンネ教に崇拝される神の引き継ぎ、プリティアがこの話を断ったのが事の始まりだった。

本来であれば転生神が代替わりするのを境に、リンネ教が崇拝する神も移り変わるのが通例である。エレアリスからメルフィーナに転生神が変わった時のように、メルフィーナからゴルディアーナへ、といった風にだ。しかし転生神になる事で、かつての巫女であるアイリスの不運を知ったプリティアは、コレットもそうなってしまうのではないかと危惧していた。あの時とは状況が違うのだからと、コレットを含めた他の者達はその可能性を否定したが、プリティアは僅かにでも可能性があるのならば、それは行うべきではないと断言。代案としてリンネ教の神はそのままに、プリティアは真に自分を慕ってくれる者達だけで、細々と信仰される事を選択したのだ。そうして新設されたのが、この『ゴルディア』という新組織である。

「ぶっちゃけさ、新装したゴルディアって活動方針も構成メンバーも、道場やってた時と変わってないんだろ? 何が違うんだ?」

「うふん♪ ケルヴィンちゃんの言う通り、何も変わっていないわよ。ゴルディアの教えに倣って鍛錬して、お洒落して、花嫁修業して――― 要は、いつもと変わらず己を磨くだけよん。そしてお姉様を想う気持ちも、何も変わっていない…… お姉様はね、女の子を泣かせるような事が大っ嫌いなの。自分の為に女の子が泣くなんて、以ての外よ。だからね、今は私しかいないけど、このゴルディアが代わりの受け皿になるって決めたのよ。私もね、今は表面上だけの巫女な訳だけど、全力を尽くすから」

「グロスティーナさん……!」

グロスは逞しい胸筋を叩き、コレットを元気づけようとしている。この見掛けは兎も角とした素晴らしき人間性、間違いなくプリティア譲りだ。リンネ教とゴルディアの関係は、これからゆっくりと構築されていく事となるだろう。だけど、この巫女達なら互いを尊重して、良き関係を築いてくれるような気がする。

「もう、コレットちゃんったら。気軽にグロスちゃんって呼んで頂戴な。ま、公式の場ではそうもいかないでしょうから、その時は私も控えるわん。これでも貴族の出でね、やろうと思えば相応しいレディにもなれるのよん♪」

「ハハッ、ゴルディアの巫女は実に紳士で愉快だね。何を聞いても面白いよ~」

フィリップ教皇が楽し気に笑う。ちなみにゴルディアとの関係構築の為、普段は姿を現さないこの教皇も、この会合では子供の姿をちゃんと晒しての出席となっている。

「こら、フィリップちゃん! 紳士じゃなくて淑女よ、淑女!」

「あ、待って、ツボ、ツボに入ったフフフ……!」

……うん、良き関係を築いてくれるんじゃないですかね。

「ああ、そうだ。コレット、例の件はどうなってる? ほら、お墓の」

「あ、はい。滞りなく進んでいますよ。よろしければ、この後に見に行かれますか?」

「お願いするよ。俺達にとって、とても大切な事だからさ」

誰にも見えぬよう、俺とメルはテーブルの下で手を繋いでいた。