軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第551話 抱擁と脱出は同時進行

大変唐突な展開なんだが、俺は今、メルフィーナに抱えられて移動中である。なぜに俺はメルに運ばれているのか、その経緯を思い出してみよう。まずはアレだ、メルフィーナとクロメルの戦いがどうなったかだ。

2人の熾烈な攻防の末に、クロメルの領域は見事に打ち破られた。上手い具合に2人仲良く最高打を出す事ができたんだろう。空中にて拳と拳がぶつかった時、俺達を囲い込む宇宙からガラスの割れるような音が鳴ったんだ。バキリ、バキバキリと、1つの箇所で鳴ったのを皮切りに、次々と連鎖的に響き渡ってしまう不吉な大合唱。魔力がすっからかんな俺に、そんな状況をどうにかする力は残っていなかった。兎にも角にも、この危機を仲間達に知らせなければならない。俺は急いで念話を使用して、全員に方舟から退避しろと指示を送信。それが終われば、お次は自分の安全確保だ。

僅かな魔力よ、どうにか持ってくれ。そう願いながら唱えるは 飛翔(フライ) の魔法。この領域が破壊されるのは確定事項として、その後にどこへ飛ばされるのかは全く不明。最悪、船の外に放り投げられる可能性もある。これはそういった事態への最低限の備えであり、メルにいらぬ心配をさせない為の気遣いでもあった。今はこれが限界だ。

「ハアアアァァァーーー!」

「こぉのおぉぉぉーーー!」

最大限にまで広げた翼を羽ばたかせ、2人は破損する領域なんてお構いなしに力を高めていく。拳に篭められる威力が高まるほどに天使の輪が発光して、もう俺の視点からは眩し過ぎて姿が見えなくなっていた。そしてこの瞬間、予想していた領域の崩壊が巻き起こる。

宇宙を模していた景色が弾け飛び、俺達を取り囲む環境が激変。先ほどまで景色の一部であった黒き欠片は光の粒子となって四散し、今までクロメルの領域によって隠されていた、荘厳なる聖堂がその姿を現したのだ。戦艦の中だからとか、そういった常識的な観点は一切排除した方が良いだろう。デラミスで目にした大聖堂、それと瓜二つな空間が俺の眼前に広がっていた。この場を取り巻く空気感というか、雰囲気というか――― そういったところまで、デラミスにそっくりだ。

……まあ、だからといってメルフィーナ達が止まる事はなかった。聖堂のこの厳かな空気に触れる事で気分が落ち着いた、なんて事が宿敵を前にして起こる筈もなく、2人の拳はまるで止まる兆しを見せない。もしくは戦闘に集中し過ぎてしまって、領域が崩壊した事に気付いていない? ああ、この線は大いにありそうだ。俺だって稀によくそうなるし、夢中になってしまうのもある種仕方のない事。相手が自分と同等の力を持つ者だったとすれば、尚更止むを得ないと納得できるというものだ。

「やるじゃないですか!」

「貴女こそっ! 流石は私ですね!」

おっと、あそこに置いてあるパイプオルガンとか、 奈落の地(アビスランド) の使徒本拠地にあったやつじゃないか? あの時は結局破壊できずに、クロメル方舟諸々と一緒に逃げられたんだよなぁ。それが今この瞬間に巻き添えを食らって、盛大に粉砕されてしまったんだから呆気のないものだ。クロメルの意識外での出来事だったからか、巫女の秘術を使っての再生もしていない。

間近で神と神による戦いを堪能しつつ、そんな風に感傷にふけってみたり、分析も行ったり、自分と周囲の心配もしなきゃいけないわで、俺の心は喜怒哀楽の感情を一挙に味わう状態となりつつある。並列思考はもうずっと働きっぱなしで、脳内麻薬だって出ずっぱりになっているだろう。そんな昂る状態で俺自身は戦っていないのだから、精神は冴え渡るばかりだ。

―――だからこそ、もう次の瞬間には聖堂が完膚なきまでに破壊され、その余波によって戦艦エルピスが墜落すると、感覚的に分かってしまった。今ならばセラの気持ち、予知染みた感性が十二分に理解できる……!

なんて、ふざけている場合ではない。確かにいつもよりかは研ぎ澄ましているけど、ボロボロの体がついていかないんだ。崩れ落ちて来た瓦礫の塊をひょいっと躱すも、今はこれが限界。エルピス自体が全崩壊してしまうと、脱出するのは困難を極める。仲間達にあんな念話を送っておいて、俺が助からなかったら良い笑いもんだよ。 粘風反護壁(リヴェカウンターガム) 、あと1回くらいならいけるか……?

「「っ!」」

メル達は既に大聖堂の壁を抜け出して、戦艦の装甲板があろうと力尽くで穴を開けながら、縦横無尽に戦っている。バトルジャンキーとして、周りに振り回されぬその戦い方には、敬意を払わずにはいられない。だがこの荒らされ切った大聖堂と同じく、そう時間も掛からずに船は落ちるだろう。あいつらの戦いに集中して観戦したいものだが、自分の命は代えられないからな。並列思考のリソースを全て魔法の詠唱に割き、残り少ない魔力で最大限の効力を発揮させる。感性の豊かさは魔法にも通じてくれたようで、何とかS級に準じた障壁を生成する事に成功。

「よし、何とかでき―――」

「―――あなた様、避難しますよ」

が、障壁を作り出した直後にメルフィーナがどこからともなく飛来。方舟の壁を同じ扱いで俺の障壁をぶち壊し、了解も得ないまま俺を脇に抱え出したのであった。頑張って作った工作が、目の前で壊された気分だ…… って、違う!

「うおっ、メルかっ!?」

「ご安心を、心が綺麗な方のメルフィーナですよ♪」

精神をいつになく研ぎ澄ましているなんて大言を吐いた割に、いとも簡単に捕まってしまった。相手がメルフィーナだったから良かったものの、これではセラに示しがつかない。すまん、調子こいてました。しかしメルよ、その言い方は綺麗な心を持つ人は言わないと思う。

「あ、いやっ、クロメルはどうした!? 倒したのか!?」

「いいえ、まだです。幾百と拳を交えてダメージと疲労を与えたのですが、やはりそこは私というべきでしょうか。何をやっても互角なんですよね。ほら、私の身はボロボロです。尤も心の方は、こうして現在進行形で満たされているのですが」

「お、おおうっ!?」

メルの不意打ちにやけ顔で狼狽しそうになるも、俺にそんな暇は残されていなかった。俺を抱えたメルが凄まじいスピードで地面を蹴り、空気を壁を切り裂きながら飛翔したからだ。

『もっとゆっくりお話したいところですが、まずは脱出を先決します。ついつい我を忘れて、ポッキリ折ってしまいまして…… あ、応答は念話でお願いしますね。舌、噛んじゃいますから』

『ポッキリってお前…… いや、それはまあいいか。周りの有り様を見れば、何となく察しが付く』

『流石はあなた様。では、いよいよ本格的に飛ばしますよ。クロメルを追います……!』

『え、これ以上速くな―――』

―――とまあ、流されるままメルに運搬される最中という訳だ。メルフィーナが俺の救出を優先する一方で、クロメルは方舟の外へと飛び去って行ったとの事。戦艦エルピスの破壊が、奇しくも神の争いのゴング代わりになったというべきか。

崩壊する戦艦内部を突き抜けて行くと、エルピスがど真ん中から叩き割れる光景が視界に入った。ああ、これはポッキリだ。紛うことなきポッキリだ。改めて神としてのメルフィーナの、そして神に成り代わろうとするクロメルの凄まじさを実感する。

『クロメルの行動原理は、あなた様を喜ばせる事にあります。最終局面となった今、人質を取るような卑劣な行為に手を染める事はないでしょう』

『ああ、分かってる。やるとすれば、俺がもっと喜びそうな事なんだろ?』

『それはそれで、色々と厄介なんですけれどね…… さあ、この方舟ともおさらばです。このまま外に出ますよ!』

呆れるほどに広大だった戦艦を抜け、大空の下へと飛び出す。生きた状態で再び太陽の光を浴びられた事に、心の底から感謝したいところだ。だがやはりというべきか、外も悠長に構えていられる状況ではなかった。