軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第544話 口喧嘩常に触手

―――黒女神の神域

今日一番の朗報だ。俺の攻撃はクロメルに通用する。あの黒い水と触手は恐ろしい事に、触れたものを最低のところにまで劣化させる力を備えている。自信たっぷりに、クロメル自らの口でそう言い放ったんだ。恐らくは嘘偽りない、本当の事なんだろう。だが、その力が作用するのは瞬間的にではない。散々強化を施して威力と速度を上げた 剿滅の罰光(ディザスターレイ) が、クロメルへと届いた事――― それが確固たる証拠だ。能力によって劣化するよりも速くに攻撃を終わらせ、もしくは触手に触れたとしても直ぐに離脱できれば、攻防どちらにおいても脅威を排除する事が可能だ。怖いのはじわじわと下がってしまう場合だが、これもまあ、努力と工夫で何とかなる。つうか、何とかしないと俺が負ける。

「ここにきて尚、魔力超過を過度に施すその姿勢――― 流石としか言いようがありません! 同時に謎です、大いに謎です! あなた様の魔力が尽きぬ理由、解き明かしたいものですっ!」

それまで接近を良しとしなかったクロメルが方針を一転、笑いながら猛スピードで俺に迫る。その手には武器らしきものはなく、素手。だが周りには、未だ触手の群れが健在だ。油断は禁物、されど楽しんで行こうかっ!

「さっき能力をご教授してくれた礼だ、教えてやってもいいぞっ!」

「あら、それならばお伺いしたいものですね!」

クロメルの飛び蹴り、容赦のない拳を杖で受け止めながら、会話を弾ませる。麗しの女神様は槍や魔法を主体としているイメージが強いが、肉弾戦だってお手の物だ。S級魔法を扱う修行をした際、メルフィーナより膝十字など数々の関節技を受けた俺が断言してやる。普通に何の遠慮も配慮もなく折りにくるぞ、こいつは。白いメルだってそうだったんだから、黒いメルだってそうに決まっているのだ! それでも吐いた言葉は戻せないので、会話は止められない!

「俺が装備する 悪食の篭手(スキルイーター) 、その力は知ってるか?」

「もちろん! 私がどれほど近くで、あなた様を見続けていたとお思いですか!? 触れた者のスキルをコピーし、自らのものとして使用を可能とする篭手ですっ! スロットは左右それぞれに1つずつ!」

躱した触手をクロメルが蹴り上げ、無理矢理にその軌道を俺の方向へと修正される。何でもありだなと感心しつつも、このままでは当たってしまう未来を察知。手っ取り早く 衝撃(インパクト) で弾き返す。

「ああ、それこそが 悪食の篭手(スキルイーター) の能力だ! で、肝心のコピーしたスキルなんだけどな、試行錯誤の結果『大食い』を持参する事にしたよ! これでお揃いだな、おい!」

「お揃―――! い、いえ、それよりも、まさかそのスキルで……?」

「そう、メルフィーナが得意としていたMP回復薬の一気飲みだ!」

言っておくが、俺は全くふざけていない。寧ろクロメルとの戦いを真剣に考え想定し、導き出した結果がこれなのだ。クロトの保管に前々から溜め込んいたメル印の最高級回復薬、これを飲めばMP最大値まで魔力を回復させる事ができる。回復薬唯一のネックであった容量の多さも、このスキルがあれば一挙に解決。大食いが固体だけでなく、液体にも適用される事はメルの食事風景で実証済み。要はこの戦いにおいて、俺は無制限に魔力を回復する事ができる!

「クロメルとの戦いで、メルの力はどうしても活用したかった。思惑通りに事が進んで安心したよ」

「大食いを力の代名詞のように扱われるのは少々不服ですが、一先ずは納得致しましょう。なるほど、そう来ましたか…… ですが、 私(メルフィーナ) の義体が所持していたスキルは、全て 私(クロメル) が頂戴した筈です。その大食いのスキル、どこからコピーしたのですか?」

「今お前が言ったじゃないか。メルのスキルがお前に渡ったのなら、そこからコピーし直せば良いだけの話だろ?」

「……いつの間に触れられたのやら。人知れず私に触れるとは、あなた様は相変わらずエッチですね」

「そっち方向の目的じゃないから! 不服を申し立てる!」

実際のところ、直接触れなくとも魔力さえ介してしまえば、スキルをコピーする事は可能だった。幻想食堂で隣に座った時、牢獄に閉じ込めた時など、チャンスは結構あったのだ。今、 悪食の篭手(スキルイーター) が宿している大食いはクロメルのものだが、もしもの際はクロトが新たに会得した大食いからコピーさせてもらう代替手段も用意しておいた。準備は入念に、それでも元々メルフィーナのものであった大食いで対抗したい気持ちもあって、コピーが成功した時は思わずガッツポーズをしてしまうところだったよ。

「まあいい。って事でお前の大食い、大いに活用させてもらってるよ。冤罪が晴れたところで、そろそろ続きといこうか!」

「晴れてませんよ?」

「……続きといこうか!」

「この姿だと、より犯罪度が増しますよ?」

これから俺を殺して世界をも転生させようとしているお前が、何でそこまで粘るかなぁ。いや、この会話さえをも楽しんでるってのは、クロメルの顔を見れば分かるけど。

「―――さて、乙女の純情を弄んでくれたあなた様には、きついお灸が必要ですね」

お灸と言うか、現在進行形で触手の攻撃は続けてるじゃん。もっと言えば、俺が魔力のネタ晴らしをしている最中にも、触手の攻撃止めてなかったじゃん。

「 致命傷の体現(デッドエンド) 」

新たに生まれた触手の一部が、クロメルへと集まっていく。その小さな手足に集結したかと思えば、後続の触手が押しやってミシミシと更に圧迫。密度をより高めるように凝縮、或いは融合して混ざり合うように――― ただこうして触手の攻撃を避けているのも何なので、大鎌による斬撃を何かしている最中のクロメルに飛ばしてやった。

「お着換え中に粗相とは、やはり確信犯ですね。あなた様?」

クロメルは何食わぬ顔で振り向き、ついでとばかりにその手で斬撃を弾いた。 ……弾いた? おいおい、今の斬撃は曲がりなりにも 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) のものだぞ。相手がどんなモンスター、喩えそれが神だとしても、問答無用でぶった斬る斬撃だ。それをお前、手で弾くってお前。

「私に対してはいくらやっても構いませんが、他の女性に行ってなりませんよ。そうなると私が不快ですし、要らぬ勘違いや嫉妬、罪の原因となってしまいますから。あら、もう表情を取り繕うともしないのですね?」

「お前が俺の予想を簡単に超えてくれるからだよ……!」

あいつの手足が真っ黒に染まっている。セラやベルが使う魔法にも似ているが、こちらは腕や脚が変形している訳ではない。白かった手足の肌が、ただただ黒に染まっているのだ。

触手を押し固める事で、その能力を自身の手足に付与したのか? 恐らくは、そんな甘い仕様で収まってはいないだろう。能力を凝縮する事で、より強力に、より即効性の力となって仕上がっている筈だ。大鎌の斬撃に触れるあの一瞬で威力と速度と特性を劣化させ、そのまま薙ぎ払う。考えられるとすれば、そんなところだ。

……うーん。考えれば考えるほどに、対処のしようがなくなってくる。クロメルのスピードで迫られて、あの手足で格闘戦を強いられる? どんな無茶振りって話だよ、最高だ!

「呆けている場合ですか?」

「違う、猛ってんだよ!」

不規則な軌道を描いての、クロメルの打撃が降り注ぐ。回避は不可能、そもそも防御する事も危険だが、これら全てを防ぐ事自体が困難を極める。選択を誤れば、間違いなく死ぬだろう。

『少し早いが、もったいぶる暇もないかっ! クロトっ!』

この世界で最も共に過ごした仲間、そして新たに 生まれ変わった(・・・・・・・) クロトが、俺が纏った黒ローブより顔を出した。