作品タイトル不明
第446話 5日後
白の戦艦が 奈落の地(アビスランド) の結界を破壊したあの日から、5日間が経過した。この数日は本当に目まぐるしく国中が、いや、各大陸中が忙殺の日々を送る事となった。
神々の結界が破壊され、地上には 奈落の地(アビスランド) が丸ごと出現。裏話を知らない世間にとっては、新たな大陸の発見だ。これだけでも世界を揺るがす大事件なのだが、それに加えて見た事もない馬鹿デカい飛空艇が空を飛んでるときたものだ。普通じゃ届かない雲の上の高度を飛んでいるとはいえ、あれだけのものが人目に付かない筈がないもんな。更に、西大陸でもとんでもない出来事が起こっていた。最大国家たるリゼア帝国の首都が、一夜にして陥落したというのだ。
「――― 奈落の地(アビスランド) 改め北大陸が地上に出現してから、世界の情勢は激変しました。北大陸はグスタフ王をはじめとしたグレルバレルカ帝国配下の勢力が各地の安定に努め、東大陸でも4大国のトップが中心となって統制を行っています。ただ、最大勢力であるリゼア帝国が混乱の中にある西大陸では、以前にも増して紛争が行われるようになりました。火の粉は中立国や同盟国にまで及ぶ場合もあり、正に過去の東大陸にあった大戦時代宛らの状況です。我ら4大国が仲介役となるのが最善ではあるのですが、方舟より投下される天使の存在により他大陸まで手が回らないのが現状ですね……」
「我らグレルバレルカが手を貸そう。 ……と言いたいのは山々なのだが、こちらも状況は似たようなものだ。ましてや、我らはこのような姿であるからな。いくら悪魔の情報を流布しようと、なかなか受け入れられるものではあるまい」
5日が経った今、俺達は一度東大陸へと戻り対策を打ち立てていた。この日、俺がいたのはトライセン本城の中央区、いつだかセラが攻め入った重要施設の中だ。ここに設置される水晶で各国と連絡を取り合い、状況を確認しているのである。俺の昇格式の時、ツバキ様や獣王が使っていたあの水晶と同じものらしい。今は大人シュトラと義父さんが通信中だ。
「それについては時間を掛けていくしかないでしょう。意識の改革は根気がいるものですからね…… では、また何かありましたら」
「うむ。トライセンの姫よ、お主もあまり無理をしない事だ」
「お気遣い、痛み入ります」
「義父さんも無理しないでくださいよ? 今倒れられたら、その下に控えるビクトールの奴が死ぬ思いをするんですから」
「五月蠅いわ、愚息! 貴様に言われんでも、セラベルが悲しむ事はしないわっ! それよりも、次はいつこちらに来るのだ? いや、貴様ではなくセラだけでも良いぞ?」
「まだ離れて1週間も経ってないじゃないですか…… え、水晶の魔力が切れそう? すみません、義父さん。もう時間みたいです。お元気で~」
「貴様、愚息っ! まだ話は終わって―――」
トライセンとグレルバレルカの魔王城を繋いでいた回線をぶちり。不幸にも水晶の魔力が切れてしまい、義父さんの声が途切れる。全く、良いタイミングで切れるものだ。不思議だなー。
「ケルヴィンさん、あまり意地悪するのは可哀想だと思いますよ?」
シュトラが少しおかしそうな顔をして、俺に注意してくる。そんな顔をされたら反省できないな。
「いや、あの 悪魔(ひと) はこのくらいの距離感じゃないと身が持たないんだよ…… 隙あらば実家に帰って来させようとするからな。それに、シュトラだってそれは意地悪だろ? 今じゃお兄ちゃん呼びに慣れちゃって、他人行儀で話されると違和感しかないよ」
「ええと…… やはり、この姿では少し恥ずかしいのもありまして……」
さて、気になっていたシュトラの記憶についてだが、やはり彼女の記憶は戻っていた。以前から少しずつ記憶を思い出していたらしく、先日、邪神の心臓でトリスタンと会った事で完全に記憶を取り戻したそうだ。ただ、ここで彼女の固有スキル『完全記憶』による弊害、と言っていいのかは分からないが、それによるイレギュラーも発生していた。
「うん! この姿ならちゃんと言えるよ、ケルヴィンお兄ちゃん!」
「……うん。ああ言っておいて何だが、逆にお兄ちゃんはどう接すればいいのか困っちゃうけどな」
シュトラは確かに記憶を取り戻し、元の頭脳明晰完全無欠のお姫様に戻った。正確には、少しばかり角が取れて印象が柔らかくなった感じもするが、兎に角記憶は戻った。だが、それは俺達と共に過ごしたシュトラが消える事とはイコールにならなかったんだ。
シュトラの完全記憶は屋敷で過ごし、俺達と旅をした幼いシュトラの人格を消さずに残していた。今では変えた姿寄りの人格になってしまうらしく、大人と子供が混同した状態になっているらしい。2つの人格は記憶を共有し、どちらも正しくシュトラだ。大人の姿でも稀にお兄ちゃん呼びをしてくる時もあるし、その時はすぐに訂正するが顔は真っ赤になる。ああ、もう可愛ければそれで良いんじゃないか? と、俺は深く考えず納得する事にした。少なくともジェラールは大人シュトラを仮孫認定していたし、リオンやリュカとも問題なく接している。賢人に進化して、これ以上容姿が変わる事もない。うん、子供も大人も高々10歳程度の差だ。大して変わらん変わらん。
「ケルヴィンお兄ちゃん。今、何かおざなりな思考にならなかった? 適当に流さなかった?」
「ちゃんと考えているし流してもいないぞ。何を言うのかなぁ、シュトラは? ハッハッハ……」
逆に、こんな感じで幼いシュトラの時も思考がやけに鋭くなってしまったのは考えものだ。
「おう、邪魔するぜ! ……何でまたチビになってんだ、シュトラ?」
「あ、アズグラッドお兄様」
おっと、トライセン国王様がいらっしゃった。馬子にも衣装とはよく言ったもので、あの戦馬鹿だったアズグラッドが、今ではそれなりに威厳を感じる雰囲気になっている。ほぼ服装のお蔭だろうけどな。
「今はこっちの気分なんだもん! 仕事の処理速度は変わらないから、問題ないでしょ?」
「お前が問題なくとも、周りの奴らが遅くなるんだよ。特にダンなんて、目頭を押さえ出す始末だからな。女子供もキャーキャー言い出すしよ」
「それって大人のシュトラも同じじゃないか? あっちはあっちで兵士達の憧れの的って感じだぞ? 士気だけ見ればすげぇ高まっているみたいだけどさ」
「……男の悲しい 性(さが) だな、それは」
突発的な妹談議を始める俺達。アズグラッドが俺やガウンの同志キルトの妹同盟に入る日も近いかもしれない。
「お兄様もお兄ちゃんも、くだらない話ばかりしないのっ! それでお兄様、偵察は戻って来たの?」
「ああ、外は相変わらずなようだけどな」
アズグラッドが放った偵察達の話によれば、国内各所にて天使のようなモンスターが出現しているとの事だった。天使ではない。天使の姿を模したモンスターだ。あの日以来、クロメルを乗せた白の戦艦は世界各所の上空に現れるようになり、その度にこのモンスター達をばら撒いている。
基本的にこいつらは近付きさえしなければ、何ら無害な存在だ。放っておけば立ったまま、石像の如く動かない。だが、ある一定の距離にまで接近すると、それまでの沈黙が嘘のように暴れ回るんだ。強さはその個体によって上下するが、どんなに弱い奴でもS級モンスター下位には位置する。人気のない山の中ならまだしも、これが村のど真ん中に投下された日には悲惨の一言だ。各国の一般兵士じゃ対処できないので、我が家のパーティ、シルヴィアやプリティアちゃんといった実力者達が各地に散って、そいつらを討伐する日々を送っている訳だ。
「うーん、やっぱり北大陸と東大陸は天使型モンスターが特に多い傾向かな? ファーニスのレンちゃんランちゃんの連絡だと、西大陸はそうでもないらしいけど……」
「……おう、ケルヴィン。一度パーズに戻ったらどうだ? 悩んでいても始まらねぇ。シュトラもここ毎日働きっぱなしだろ。お前ら一緒にパーズへ帰れ、そして休め。転移門を使えばすぐだろ?」
「ちょ、ちょっと、アズグラッドお兄様?」
「大丈夫なのか? まだ天使もどきはいるんだろ?」
「トライセンに派遣されたお前とダハクの野郎が、随分と蹴散らしたからな。それくらいの期間は俺とダンで何とかする。 ……お前さ、いつも通りに振舞っちゃいるが、どっかおかしい感じがすんだよ。過労寸前の野郎をこき使うほど、まだトライセンは落ちぶれちゃいねぇ。おら、帰れ帰れ!」
半ば強制的に、俺とシュトラはパーズの屋敷へと返されてしまった。